My Roots My Favorites 塩田千春(現代美術家)
©サニー・マンク
私にとって作品を作ることは、
生きていくために必要な行為。
幼少期は隣家が離れていて、まわりに子供が少なかったこともあり、よく一人で泥をこねたり、草花をとっては並べて遊んでいました。自然の中に土で作った人形や石を置き、そのまわりに花を飾り、葉っぱを集めて置く。私とそのものとの間にある秩序だけで世界ができていくことが好きで、そこで行われる儀式や会話で一日を過ごしていました。誰に見せることもなく、私だけの世界を自然の中に作ることで毎日を過ごしていました。
絵を描き出してからは、いつも没頭して描いていました。一日中、描いていても何の苦にもならなかった。でも、美大に入った頃から、画面の中だけでどのように描けばいいかが分かってしまい、私の絵には何処にも私が生きるための意味がないと考え始め、描くことが苦しくなりました。アートのためにアートを作るのではなく、もっと自分らしいマテリアルで作品を作りたい。もっと人間が生活の中でアートを必要とする意味が知りたくて、大阪にある民族博物館をよく訪ねていました。
その頃からインスタレーションを作っています。インスタレーションの魅力は、一瞬にして人の心に何かを訴えられることです。私は、それを「瞬間の哲学」だと思っています。人が会場に入ってきた瞬間に、生きることの意味を教えてくれるのです。
一つの作品を見た時、その作家の人生はもちろん、見る人自身の人生も見えてくる。芸術作品を見ることで、私たちはある種の共感を手にするのです。美術作品に触れることによって、人は言葉では表現できない何かを理解し感動して、また日々の生活を頑張ろう、と思うのではないでしょうか。小さい時から人とうまくコミュニケーションがとれず、自分の言葉がうまく伝わらない時、そこにはいつも私を表現できる絵やインスタレーションなどの美術があった。私にとって作品を作って展覧会で発表することは、物心ついた5歳の時から始まっている、生きていくために必要な行為なのです。 (談)
塩田千春 Chiharu Shiota
ベルリン在住。生と死という人間の根源的な問題に向き合い、「生きることとは何か」、「存在とは何か」を探求しつつ大規模なインスタレーションを中心に、立体、写真、映像など多様な手法を用いた作品を制作。 2007年、神奈川県民ホールギャラリーでの個展「沈黙から」で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2015年、 第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館代表作家として選出され、現在も世界各地で展覧会を開催している。
©サニー・マンク
第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館
2015年5月9日(土)〜11月22日(日)
“The Key in the Hand”, 2015, Installation, Japan Pavilion at Venice Biennale
「沈黙から」 塩田千春展
2007年10月19日(金)〜11月17日(土)神奈川県民ホールギャラリー
“From in Silence”, 2007, Installation, Kanagawa Prefectural Gallery
photo by Yasushi Nishimura