「僕はサッカーが嫌いなんだ 〜フランス人の彼は〜」Porto, Portugal
理由は2つある。
一つは、いろんな国の人と触れ合うことが出来るから。そしてもう一つは、お金がかからないからだ。
僕はアジアとヨーロッパにいるこの期間中、すべての国でホステルに泊まっている。ホステルとは、具体的にどういう定義があるのかはわからないけれど、一つの部屋に二段ベットがたくさんあって、シャワーとトイレは共同で、少なくとも綺麗に掃除が行き届いたホテルとは一線を画する、そんな場所だ。
様々な国から僕と同じような理由のもと、多くの人がホステルに泊まりに来る。そのほとんどが欧米人のバックパッカーだ。
共同キッチン
ホステルには共同キッチンというものが必ずあって、夜な夜な欧米人達はそこで料理をし、酒を飲み、パーティーをする。そうなると、必ずと言っていいほどご招待をしてくれるので、これまでに何回か欧米人のバックパッカーたちと杯を交わしてきた。
バックパッカーというと、それはそれはそれぞれのキャラクターが濃く設定されている。その日は10人近くの欧米人がいただろうか。その中にはビーチに行きすぎて顔が真っ赤なイタリア人や、疲れすぎて話している途中に寝てしまうカナダ人、そしてサッカーが嫌いなフランス人がいた。
チーズを片手に
ワインを飲まないかと誘ってくれたのは、フランス人の彼だった。
このポルトのホステルに泊まる前に、僕はパリを訪れていたわけだけど、あまりフランス人の印象はいいとは言えなかった。そんな僕の偏見を変えてくれたのもまた彼で、ワインを飲みまくっていたのもまた彼だった。
ワインやフランスの料理、おつまみを振舞ってくれた彼はとても陽気で、フランス語の発音の奇妙さを自虐ネタとして披露し、笑いを取る。鉄板ネタなのかもしれない。
僕はサッカーが嫌いなんだ
フランス人は、みんながみんなサッカーが大好きだという僕の偏見を、彼は一蹴した。
僕がいろんな国のサッカーを見て回っていることを話すと、興味深そうに話を聞いてくれて、パリのスタジアムの写真を見せると喜んだ。
一応確認として「サッカー好き?」と聞いてみると、それとは真逆の答えが返ってきた。僕は当たり前のようにこの人はサッカーが好きなんだなと思ったけど、そうではないみたいだ。
すでに酔っ払って携帯を口にくわえている彼は、昔サッカーをプレーしていたという。昔サッカーをやっていて、今はサッカーが嫌いというのはなんとも悲しい話だ。その理由を聞くことができなかったのは、僕もまた酔っ払って頭が回っていなかったこともあるけど、彼が少しだけ悲しそうな顔をしたからだ。
僕にもかつて
サッカーが「大嫌いだと言い切れる」時期がたくさんあった。今考えるとすごく大げさだけど、サッカーをプレーすることを恐れて毎日毎日泣いていた時期もあったし、どうしたらサッカーをやめられるのか真剣に考えたことも何度もある。彼もまた、そういう感情を持ったことがあるのだろうか。
今僕は、こうしてバカなことをするほどにサッカーに惚れ込んでいるわけだけど、今でもたまに苦しかった時期を思い出すことがある。あの時の反動が、今こうして僕の体を動かしているのかもしれない。
本当は
サッカーという素晴らしいスポーツの中に嫌いになるような要素は一つも入っていないんだと思う。というと、サッカーファンの贔屓的な意見になってしまうだろうか。ただ、僕がサッカーを嫌いだった時も今と変わらず素晴らしかったはずだし、人々はこのスポーツに魅了されていたはずだ。
それなのに、フランス人の彼のように「僕はサッカーが嫌いなんだ」と悲しい顔で言わなければならないのは、どうしてなのだろうか。
これから先どれだけの人が、このスポーツをプレーすることで、サッカーを嫌いになってしまうのだろうか。それを考えることは、僕の人生にとって、すごく大事なことのような気がしている。
もしそうなってしまった時は、フランス人の彼のように、何か他のことで人生が楽しめるといいなあと、そう思う。