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KANGE's log

映画「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」

2020.09.10 13:31

【最新アップデート版のアメリカン・グラフィティ】

卒業を翌日に控えた高校生の親友同士のモリーとエイミーは、それまで遊んでばかりと馬鹿にしていたクラスメイト達が自分たち同じような難関大学への進路を得ていることに愕然として、勉強漬けだった高校生活を取り戻すべく、呼ばれていもいない卒業パーティーに乗り込もうとする…という話。

この「あいつ、遊んでばかりだったのに、なぜ、そんないいところに?」という感覚、ありますよね。日本だと大学入試はお勉強重視なので、あまり大逆転みたいなことはないかもしれませんが、就職の時には必ずありますよ。そこで、「お前、なんかズルしたのか? おい」とならずに、「勉強ばかりしていた自分はなんだったの? 取り返してやる!」となるところが、とてもいいです。

「book smart」とは、勉強はできるけど実践経験の乏しい人、いわゆる「ガリ勉」ということですね。「本屋さん」ではありません。反対語は「street smart」=現場で経験から学んで知恵をつけてきた人ということでしょう。実践経験がないので、いざパーティーに乗り込もうとしても、まず、どこでやっているかも分からないし、そもそもクラスメイトの住所も連絡先さえも知らないのです。 

その前に驚くのは、びっくりするぐらい多様性が受容されていること。エイミーは同性愛者であることをカムアウトしていますが、それを特別なこととして扱うような場面は一切ありません。モリーはぽっちゃり体型ですが、そのことをいじるような者は誰もいません。モリーがいないと思ってクラスメートが彼女のことをいろいろと話す場面がありますが、それはあくまでも生徒会長のクソ真面目な性格についてであって、容姿を侮蔑されるようなことは皆無です。むしろ魅力を感じている生徒もいます。モリー自身も卑下することはありません。ドラッグによる幻覚で、エイミーとモリーがバービー人形のようになってしまうシーンがありますが、ここでもモリーは「バランスがおかしい」と、自分のプロポーションに愛着を持っています。 

学校のトイレも、男女兼用、オールジェンダーのトイレ。そういう社会階層の人たちが通う、リベラルな学校ということなのでしょう。

「ブレックファスト・クラブ」以降、青春映画の定番であったスクールカースト(←この言葉自体は、和製英語)が解体された世界なのです。もちろん、グループや派閥みたいなものはあるのでしょうが、極めてフラット。むしろ、モリーの方が遊んでばかりいる生徒たちを「負け組」と呼んで、偏見の目で見ているぐらい。

表面上は、下ネタ満載で、「そんなことあるかい!」という突っ込み待ちのドタバタのおバカコメディなのですが、この卒業前夜の一日を通して、その偏見が崩れていくところが、この映画の面白いところです。

モリーとエミーの、シスターフッド感もいいです。特に、自分のことを卑下すると「私の親友を悪く言うなんて」と本気で怒るんです。素敵じゃないですか。「勉強ばかり」とはいいつつ、2人の間では、バカ話もエロ話も、青くて痛くて脆い話もやっているのです。ただ、実践が…ということですね。

そして、周りの生徒たちはみな個性的で、そして他者の個性もちゃんと尊重できるいい奴らしかいないんですよ。突き抜けたバカで大金持ちのジャレッドも、ありがちないけ好かないキャラではなく、自分のことが大好きであるのと同時に、他の生徒のこともちゃんと見ているのです。マーダーミステリーパーティーを開いていた演劇好きの2人も、モリーの意中の人であるニックも、招かざる客であるモリーとエミーがパーティーに顔を出しても、まったく拒否することなく、大歓迎するんですよね。いい奴らです。

高校生活の最後の最後で、クラスメイト達の見えていなかった側面が見えてよかったですよね。私も経験上、同じ部活に入っていても、合宿をして初めて打ち解けるみたいなことがありましたから、関わってみないと分からないものです。

ということで、面白かったし、青春映画の最新版アップデートだと思いますし、各所でいい評判も聴きますが、完全には乗り切れませんでした。

「とはいえ、上のほうの人たちの、上のほうでのドタバタなんだよな」という思いが、どうしても拭えないのです。もちろん、1つの高校が舞台なので、同じような階層が集まっているのは当然なのですが、他の人が全然見えていないというのは、いいのでしょうか。卒業後にボツワナにタンポンを作りに行くエイミーであれば、自分たちの恵まれた環境にも自覚的であってもおかしくはないのですが、そこへの言及がないのが、どうもあえて無視しているように見えて、ひっかかってしまいました。

「ああ、あの中に加わりたい」と素直に思える人と、「ああ、あの中に、私はいないな」と思っちゃう人で、評価が分かれそうな気がしました。私は、後者に近いかな。面白いけど、自分の話ではないと。

それでも、イェール大学を舞台に、モリーとアナベルのところにエイミーが訪ねてくる「ブックスマート2 大学デビュー大作戦」がもしあったら、観てみたいとは思います。