バロックの時代15-ヴェラスケスのキリスト
2020.09.11 08:29
1631年にスペインに帰国したヴェラスケスには新たな仕事が待っていた。29年に生まれた国王フェリペ4世の長男、バルタサール・カルロスの肖像画である。現代では誕生写真だが、スペイン最高の宮廷画家以外には描かせじ、と待っていたのだ。以後ヴェラスケスはその成長の記録を作ることになる。
そして「キリスト磔刑図「十字架上でのキリスト」をイタリア古典絵画の勉強の成果を見せて、サン・プラシド修道院のために制作する。磔刑図はその目的によって多くのヴァージョンがあり、最も悲惨な例は、グリューネヴァルト作で、病院に置かれ、キリストが病人の悲惨さを代わってくれる。
ヴェラスケスの作は、血はほとんど無く、眠っているようにさえ見える。肉体は均整がとれ美しく、しかも背景は描かれていない。スペインの主流となったイエズス会創始者イグナチオ・デ・ロヨラは、「霊操」に、「十字架上の主キリストを眼前に想像しながら対話する」と書いている。
まさにこの絵のキリストは語りかけるように思え、ヴィジョンとしてのキリストが描かれたのである。スルバランはその後、聖ルカと共に描き、ルカのヴィジョンに登場した主を描いた。さらにこの系列は、サルヴァトール・ダリの宇宙的キリストに繋がることになる。
下左は「十字架上のキリスト」左はキリストを描く聖ルカ