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輝く星の下で。~命が命であるために

2020.09.16 11:37

https://maho.jp/works/2260379280364041184 【輝く星の下で。~命が命であるために~《前編》】 より

輝く星の下で、生きている事の意味を問います。 教えて下さい。。。『輝く星の下で。』

時は、平成二十五年。              

昨日まで笑っていた若者たちが…… 昨日まで隣にいたあの人が……          当たり前にある光景が、一瞬で消えた。           それが戦争……     死を考えた事なんてなかった……           

輝く星の下に無限の生命が生きています。裕福な人も、貧しい人も。自由な人も、不自由な人も。地を這う虫や植物でさえも。動物を殺す動物を見て、悲しむ人間はいるだろうか?

人間を殺す人間を見て、悲しむ動物はいるだろうか?動物を殺す動物を見て、悲しむ動物はきっといるだろう。では、人間を殺す人間を見て、悲しむ人間はどうだろうか?

ふと、そんな事を考えている時に書き始めた作品です。

~昭和20年  町は燃えていた……民家も学校も病院も……戦争。よく聞くようだけど、よく想像できない言葉。 世界は何を求めていたのだろう?……誰に聞いても答えはない。 松岡…『……眩しいのう。……地がこんなに荒れ果てても精一杯光っとる。』      広瀬…『あぁ。どんな時代でもこいつらは冷静に俺たちを見下ろしとる。』

松岡…『なぁ広瀬?……』
広瀬…『何じゃ?』
松岡…『いつまで続くんかな?』
広瀬…『わからん……』
松岡…『俺たちの孫の時代には平和になっとるやろか?』
広瀬…『わからん。……でも終わらせないかん。未来が苦しむか笑うか、俺たち次第や。』松岡…『その前に俺たちが戦地から奥さんとこ帰らん事には子供は作られんで?』  
広瀬…『……だから戦うんや。……生きて帰るため、平和な時代を作るために……』

松岡…『戦争はこの時代で終わりや。』

広瀬…『あぁ。孫の面見るまで死ねんで。』

この時代の人々は必死に戦った。色んな想いを抱いて。

戦争。……遠いはずのこの言葉。でも、人間の一番近くにあるこの言葉。

広瀬 忠信(ひろせ ただのぶ)   松岡 敦(まつおか あつし)

~平成二十五年~                                        俺の名前は広瀬信宏(ひろせのぶひろ)。 日本。美しいはずの国……しかし、この国は…この世界はどこへ進もうとしているのか?街を歩けば雑音と若者たちの騒がしい声、車の排気ガス、道に落としたパンをごみ箱に捨てる子供、それを必死に拾う廃人、戦争を知らない若者たちが荒れ狂う。俺もそんな平和な世の中にどっぷり浸かった若者の一人だった。 

ある国から核が放たれるその時までは……

💡第一章💡《現在》

青空

〇〇首相は、先月、北朝鮮が核実験を行った事について、経済制裁の発令に再び踏み出しました。                                      ――――――――――――                             信宏…『日本は核実験くらいで大げさなんだょ。』
母…『何いってるの?日本は攻撃されたら終わりなのよ。』
信宏…『日本を攻撃してくるわけないだろ?』
母…『実際にいくつものミサイルが日本に標準を合わせているのよ。』
信宏…『アメリカが守ってくれるよ。』

母…『それはどうでしょう?』                           信宏…『大丈夫。戦争なんておきない。戦争なんて昔話だ。』
祖母…『昔話なんかじゃないよ。』
信宏…『ばぁちゃん?!』 
母…『お母さん?!寝てないとダメじゃないですか!?』
祖母…『信宏。戦争はいつも人間の周りをグルグル回っとる。』
信宏…『そんな事言ったって、俺戦争しらねぇもん。』
祖母…『お前のじいちゃんも戦争で死んだ……』

信宏…『そんな事俺に関係ないだろ?じいちゃん見た事ないし。』          母…『信宏!!』
信宏…『うるさいな!バイト行ってくる!』
その時の俺は定職にもつかず、街を仲間と供に歩き回っていた。年寄りの話なんて聞く気など、更々なかった。この先、戦争が起こるなんて世界中、いや少なくとも日本の若者たちには全く想像できなかった。しかし、想像できなくても、着実に、そして確実にその時は迫っていた。
~平成二十五年・四月~今日もまた、俺は雑音の街を彷徨っていた。

敦彦…『おい、ノブ。』
信宏…『おー。どうした?こんな朝早く。』
敦彦…『今日バイト休みだったから。』                 
こいつの名前は松岡敦彦(まつおかあつひこ)俺と同じ二十歳。家も近所で、昔から何かと二人で遊んでいた。 
祖母…『敦彦か?』    

敦彦…『ばあちゃん。元気?』
祖母…『こんな朝っぱらからどこにいくんじゃ?』       
敦彦…『街の方に行ってくる。』

俺は玄関へ行くと靴を履き、靴ひもを結びはじめた。   
祖母…『信宏、朝飯食べんの?』     
信宏…『あぁ、いらね。』         
靴ひもを結び終えると外に向かって一歩踏み出した。その時、リビングのテレビから聞こえてきたニュースを俺は今でもはっきりと覚えている。                ――――――――――――                             今日午前七時二十分頃、政府が緊急会見を開き、憲法改正の一通りの決議を終え、本国に向け、敵対行動を起こす国に対し正当防衛以外の武力行使並びに、先取攻撃の措置をとる。などの強気の新体制を発表しました。更に政府は核開発を数年前から進めている事を大筋で認めたと言う事です。

これに対し、アメリカを始めとする世界各国から非難の声が集中しています。      それは戦争と言う昔話が現実味を帯びた瞬間だった。
敦彦…『お前どうする?』  
信宏…『何を?』  
敦彦…『もし日本が戦争をする事になったら。』
信宏…『そんなわけないだろう?……こんな平和な時代に戦争なんて……』      
敦彦…『でも日本も核武装したし、正当防衛以外の攻撃もできるようになった。』

信宏…『どっちにしたって俺たちには関係ないよ。そんな事より早く行こうぜ。』    敦彦…『あぁ。そうだな。』   
どんな事を言われても俺の頭に戦争と言う二文字はどうしても入ってこなかった。    それほど俺は平和ボケをしていた。否、俺だけではなく、日本中の若者が自由な現代に狂っていた。  
愛美…『ちょっと~!!』   
背後からいきなり罵声が聞こえてきた。振り返るとそこには幼なじみの佐藤愛美(さとうまなみ)が恐ろしい表情でこちらを睨んでいた。                
信宏…『な‥何だよ?』

愛美…『バイトさぼって何やってんの?』 
敦彦…『俺は休みだけど……』   
愛美…『アッ君には聞いてない!』                         敦彦…『はい……』     
愛美の凄い勢いに敦彦は圧倒されていた。     
信宏…『お前に関係ないだろ?』                          愛美…『ある!』   
信宏…『どうして?』 
愛美…『そ、それは……おばちゃんに言われたから……』

信宏…『何を?』   
愛美…『バカ息子の面倒を頼むって。』  
信宏…『お前こそ学校行かないで何してんだよ?』   
愛美…『大学はもう春休みにはいってます。』     
信宏…『俺も春休み。』   
愛美…『またそんな事ばっかり言って。』  
敦彦…『まぁまぁ、それより愛美も一緒に映画見に行こうぜ。』     
愛美…『さすがアッ君。誰かさんとは大違い。』     
信宏…『どう言う意味だよ。』

敦彦…『いいから早く行かないと始まるぞ!?』                   信宏…『二人で行ってこいよ。』  
敦彦…『どうして?』       
信宏…『そのバカ女のせいでしらけた。』     
愛美…『バカ女?!何よ!どうせ暇なくせに!』  
信宏…『バイトに行くんだよ。じゃあな。』   
愛美…『…………』   
敦彦…『じゃあな。』  
愛美…『ノブ~!!』

愛美は振り返る俺に、『がんばれよ。』と叫んだ。俺は手を挙げその場を後にした。   バイトに行くとは言ったものの、今更行く気にはなれず、俺は近くのパチンコ屋に入った。しかし、財布の中身を一時間程で空っぽにすると、ため息をつき、再び街を歩きだした。 しばらく歩いていると、電気屋のテレビの前に人だかりが出来ていた。   
信宏…『おっちゃんどうしたの?そんな面白いもんでもやってんの?』     
電気屋…『面白いなんてもんじゃないぞ。やりよったで!』       
信宏…『何を?!』

電気屋…『北朝鮮が日本の海にミサイル打ち込みよったんじゃ。』     
信宏…『そんなの十年くらい前にもあったじゃん。そんなに大騒ぎせんでも……』  
電気屋…『十年前とはわけが違う。今度のは岸からたった五百メートルじゃ。』     信宏…『ご、五百メートル!!』    
電気屋…『それに大型の客船に直撃して死人もでとる。』      
信宏…『………‥』    

どんなに考えても平和ボケして浮かばなかった戦争の二文字が、俺の脳裏を過った瞬間だった。

💡第一章💡《現在》

暗雲

北朝鮮のミサイル発射から一週間後、首相の一言で日本は報復攻撃を開始した。
日本は約七十年ぶりに、事実上の戦争に突入した。更に中国までもが日本の反対勢力として立ち上がった。   
日本の核保持に猛反対していたアメリカ、フランス、イギリス、韓国などの各国が日本に対し支援、支持を拒否、更に輸出、輸入のストップと、経済制裁とも言える行動に出た。 
狂った日本の政治家たちは北朝鮮への徹底攻撃を命令、人員、装備で劣る北朝鮮はすでに崩壊寸前だった
敦彦…『ほら見ろ、戦争になっちまったじゃねぇか。』      
信宏…『…………』           
愛美…『ノブ?どうしたの?』

信宏…『いや、……これが戦争なのか?』           
敦彦…『お前まだ信じてないのか?!』                
信宏…『そうじゃなくて、テレビなんかでやってる戦争と違わないか?』        愛美…『…違うって何が?』   
信宏…『自分の国が戦争やってるのに、街は何事もないようにいつも通りだし、それに俺たちだって、ばあちゃんの言ってた恐ろしい戦争が起こってるのに全く恐くねぇ。』    敦彦…『まぁ日本の圧勝だし、本当はこんなもんなんじゃないの?』    
敦彦の言葉はすぐに覆された。

~平成二十五年六月~北朝鮮の背後で静かに行方を見守っていた中国が遂に動きだした。中国海軍の戦艦が日本海を包囲した。日本政府は中国が参戦したことで歯止めがきかない状況に落ち込んでいた。政府は新日本軍への増員を呼び掛け、旧自衛隊を離隊した者を準戦闘員として召集した。しかし、集まった準戦闘員は、ほんの僅かしかいなかった。ほとんどの者が恐怖に怯え、逃げていた。 それから一週間、両軍の沈黙は続いた。中国軍の爆撃によりその沈黙は破られた。              
次々と打ち込まれるミサイルに対し日本の各地が火の海と化した。

この時すでに、日本、中国、北朝鮮の死傷者は五千人を越えていた。中国は北朝鮮と日本の戦争を良い事に、日朝戦争に参戦、それだけでは物足らず、アメリカ、ロシアまでもを参戦させようと挑発を始めた。挑発に乗ったアメリカ、ロシアはミサイルを中国のみならず、日本へも向けた。これらの騒動に国連は休戦、終戦を強く求めた。しかし、その3日後、国連の忠告命令も虚しく、中国軍は北朝鮮が所持するテポドンをハワイ島に発射、ハワイ州の海岸を直撃した。

アメリカは即、攻撃を開始し、すでに世界は第三次世界大戦へと突入した。

祖母…『終わりじゃ。日本は……』

信広…『大丈夫だょ。……日本は絶対に勝つ。』

祖母…『あの時代もそんな事いっとった。………』

💡第二章💡《過去》

枯れ果てた地

鳴り響く爆音、燃える町、すでに日本は焼け野原になりつつあった。

松岡…『大丈夫か?』

広瀬…『誰に言いよる?』

松岡…『大丈夫そうやの。』

広瀬…『それよりしばらく家に帰れる見たいだ。』

松岡…『あぁ。嫁に会える。』

広瀬…『次、戦地に出たらもう家には戻れんかもしれんな?』

松岡…『……息子たちに何て言えばええんじゃ?嫁には何て言えば……』

広瀬…『松岡……』

松岡の目からは熱い涙が溢れていた。しかしすぐに目の前に広がる現状を見て、溢れる涙を拭った。

消えかけていた人間の持つ感情が、私の胸に痛いほど伝わってきた。しかし今は人間の感情に負けるわけにはいかなかった。

感情を抱いて人間を殺傷する事などできなかった。全ては平和な世の中にするため。しかしそのために人間同士が殺し合う。そんな矛盾の固まりが戦争なのだ。

その後、私たちは一時帰宅の許可がおり、松岡と共に田舎へ向かった。

私たちの田舎の一部は空襲を受けており、辺りはまだ焦げ臭さが残っていた。

松岡…『何でや。こんな田舎までも消そうとしとるのか?』

広瀬…『………まだ煙が出とる。』

しばらく歩いていると、煙が上がっている場所に近ずくに連れて、全身を何かが通り抜けるように震えた。

松岡…『……………』

私たちは体が固まった、しかしすぐに我にかえり、慌ててその場所へと向かった。

松岡…『ミエー!!』

煙が上がっていた場所には松岡の家があった。潰れた家に向かって必死に叫ぶ松岡の横で、私は呆気にとられその光景をただただ呆然と見つめていた。

しかし、すぐに我に返った私は、それほど離れていない自分の家へと急いで向かった。

正直、その時は松岡の家の事を気にかける余裕などなかった。それが冷酷な行動であったとしても、私の体は針に引っかかった魚のようにただ一点をめがけ足を走らせた。

引き戸を力強く開けると、そこには異様な光景が広がっていた。

複数の人々が部屋の中央に横たわる者を囲んで、うなだれている。

私の胸は張り裂けそうな程、脈打っていた。

広瀬…『エツコ……』

私は中央に横たわる者に向かって手を指しのべようとした瞬間、背後から聞き覚えのある声に驚いて振り向いた。

悦子…『あんた?……』

広瀬…『悦子?!……』

悦子…『いつ帰ってきたの?』

広瀬…『あ、あぁ。たった今……』

悦子の二言目に出た言葉の意味を理解するのに多少の時間を費やした。

悦子…『……松岡さんは?……』

そう言って悦子は下を向いた。

広瀬…『松岡なら……』

私は、悦子の背後に直立する人影に言葉を飲んだ。私の視線に気付いた悦子はゆっくりと、そして恐る恐る、後ろを振り返った。

悦子…『松岡さん……』

松岡…『ミエは?……』

悦子は震える手を必死に押さえ、部屋の中央を指差した。

松岡はゆっくりと中央に向かって歩き出した。

未だ状況が把握出来ていない私を、悦子は悲しげな目で見つめた。やがて松岡の落胆しきった後ろ姿が全てを物語った。

私は悦子や息子たちをつれて外へ出た。                       広瀬…『一体何があったんだ?』        
悦子…『わからんの……空襲警報が鳴って子供たち連れて防空豪に逃げたんよ。そしたら傘みたいなのが付いた爆弾が三つくらい落ちてきたの。その一つが松岡さんの家に……』  広瀬…『そうか……松岡の子供たちは?』   
悦子…『それが、何故か防空豪にいたんよ。』            

広瀬…『どう言う事や?』

悦子より先に防空豪にいた人の話では、一度は防空豪に入ったミエが、何かを思い出したように慌てて家に戻ったと言うのである。             
それから二日、松岡はミエの遺体の前から離れようとはしなかった。やがて遺体は火葬され、家を無くした松岡とその子供たちは私の家で寝泊りをしていた。 
その日の夜、並べられた布団の中に松岡の姿が無いことに気が付いた。私は上着を羽織ると外へ出た。家の前にある切り株に腰掛ける松岡の背中が目に入った。  
広瀬…『松岡……』             
私の声にピクリと反応した松岡は手に持っていた封筒をこちらに投げた。      

松岡…『それ見てみぃ。……』

封筒を拾うと中身を手に取った。
広瀬…『指輪かぁ……キレイやのう。』        
松岡…『……皮膚が剥がれ落ちたボロボロの体で、それだけはしっかり握っとった。』     
私は悦子の話を思い出した。慌てて家に戻ったミエの話を。  
松岡…『バカげとる……そんな物のために家に戻って爆撃されるなんて……』      空に虫の声が虚しく響いていた。    

松岡…『なぁ広瀬……』  

広瀬…『うん?……』

松岡…『絶対ゆるさん!!……ここに爆弾落とした奴も、そいつらが生まれた国も!!』      

広瀬…『お前まさか、戦地に戻るつもりなのか?!』   
松岡…『当たり前じゃ!!……ミエの仇とるんじゃ。』 

広瀬…『子供たちはどうするんじゃ?……』         
松岡…『…………』       
広瀬…『それにあんな小さい子供残しては戦地に行ったってすぐに司令部から帰省通達がくるで?!』                                    松岡…『いつや?……戦地に戻る日はいつや?…お前には通達がきとるやろ?』 

広瀬…『松岡!!』

松岡…『ええから言えや!!……いつ船が出るんや!』                広瀬…『隊長も言うとっただろう。今度の戦地は生きて帰ってはこれんて。特攻隊みたいな事もさせられるかもしれん。……そんな事になったら残された子供たちはどうするんや?!』
松岡…『…………』
広瀬…『母親だけじゃなく父親もおらん子供にするんか?』 松岡…『仲間見捨てて俺だけ生き残れ言うんか?』 
広瀬…『お前ミエちゃんの気持ちまだ分からんのか!!お前がやった指輪、お前が自分の身代わりや言うてやった指輪、命懸けで守ったミエちゃんの気持ちまだわからんのか!!』

その時、私は背後で聞き耳を立てる悦子の存在に気付く事はできなかった。

松岡…『…くっ……ミエ…』 
松岡はその場に泣き崩れた。指輪を封筒に戻し、松岡に渡した。            私は泣き崩れた松岡の肩に手を置き、空を見上げた。 
広瀬…『キレイやのう。……見てみぃ。どんな時でも輝いとる。人間の辛さや悲しさの分だけ光っとる。』 
松岡…『………どうりで眩しいわけじゃ。……今の俺じゃあ眩しすぎて目を開けられんわ。』
広瀬…『頑張って目を開けるんや。……俺の分まで見といてくれ。……その分俺は地を這う、地を這って生きる。』  
松岡…『……あぁ。』

そして、家族みんなで過ごす最後の朝が……いや、そうなるはずだった朝がやってきた。  

松岡…『今日行くんか?』 
広瀬…『あぁ。最後の朝や。』   
松岡…『………悦子ちゃん知っとるんか?』  
広瀬…『……知らん。』 
松岡…『言わんでええんか?』
広瀬…『わざわざ自分から死ぬ事言わんでもええやろ?』   

松岡…『…………』

悦子…『あんた。』 

広瀬…『おぉ、もう飯できたんか?』 
悦子…『硫黄島が占領されたって本当ですか?』   
松岡…『硫黄島?!あの硫黄島が?!』 
広瀬…『…………』
松岡…『本当なんか?!』   
広瀬…『そんなわけないやろ?!……あ、あそこは大丈夫じゃ!』     
招集通達が来た二日前、軍艦に残った仲間からの手紙に書いてあった。《イオウシマ、テキノテニオチタ。》再び聞いたその言葉に体が震えた。

悦子…『あんたの行く戦地はどこなん?』    
広瀬…『……戦地やない、軍艦に乗って武器の整備や…』 
悦子…『うそ……本当は硫黄島やないの?!』  
広瀬…『何言っとんじゃ?そ、そんなわけないやろ?』  
悦子…『……日本はもう負けるんやろ?』    
広瀬…『誰にそんなこと聞いたんや?!』 
悦子…『みんな言うとる。』  
広瀬…『大丈夫や。日本が負ける分けないやろ?!』

通達;四日後、港ニ、一、一、三、○時、集合、行キ先、イオウシマ。大丈夫や。そう言うたびに私の心臓は唸り、手は震えていた。忘れたはずの恐怖や、捨てたはずの感情が、悦子や子供たちを見るたびに蘇っていた。                            赤札が来て以来、覚悟していた死から初めて、逃れるものなら逃れたいと言う気持ちに頭が葛藤していた。それでも死んだ仲間や、今戦っている仲間を想い、必死に頭の中の弱みをかき消した。そして勢いよく立ち上がった。

💡第三章💡《現在》

時を忘れた街

戦争突入後、日本の置かれた立場は著しく悪化していった。

嘗て日本が世界に誇っていた、大手電機メーカーや、自動車産業も見る見る内に次々と破綻、崩壊していった。

裕福な家庭は莫大な賄賂を使い海外へ避難し、金のない一般の人々は山奥に逃げ、逃げる術を知らない人々は爆撃の犠牲となった。既に日本は我々が知る姿からは想像も出来ないくらいに遠ざかっていた。

敦彦…『ひどいなぁ?』

信宏…『あぁ。』

敦彦…『どうした?』

信宏…『お前これからどうする?』

敦彦…『そうだな~。映画館は閉鎖してるし……』

信宏…『そうじゃなくて……』

敦彦…『そう言えば愛美どうしてるかな?』

信宏…『敦彦!?』

敦彦…『赤紙……』

信宏…『赤紙?……あの、戦争に行く?』

敦彦…『あぁ。……』

信宏…『それがどうした?』

敦彦…『昨日、軍隊の人が来て置いていった。』

信宏…『どう言う事だよ?』

敦彦…『来週から戦争に行く事になった。』

信宏…『戦争って、どう言う事だよ!?』

敦彦…『人員不足だそうだ。』

信宏…『そうじゃなくて俺の所には来てないぞ?!』

敦彦…『今はまだ、自分から申し込まないと入隊出来ないらしい。』

信宏…『じゃあ間違いだって言いに行こう!早くいくぞ。』

敦彦…『間違いじゃないんだ。』

そう言って笑う敦彦に俺はとても腹がたった。

愛美…『あっくん、ノブ~。』

俺たちを見つけ、嬉しそうに近づく愛美の姿を横目で流しながら敦彦の頬を思いきり殴りつけた。

敦彦…『ぐっ!!』

愛美…『ちょっとノブ!?』

信宏…『どうして俺に言わなかった?!』

敦彦…『言ってどうなる?行きたいのは俺だ、お前に止める権利があるのか?』

信宏…『行きたい?……お前本気で言ってるのか?』

敦彦…『あぁ!』

愛美…『ちょっと二人共どうしたの?何の話してるの?』

信宏…『勝手にしろ!!』

愛美…『ちょっとノブ~!!』

その場を離れた俺は治める事の出来ない怒りを、避難し、ガラガラになった民家にぶつけた。

家に帰っても怒りは治まらず、顔は怖張ったままだった。その時、玄関のドアが開いた。

祖父…『こんにちわ。』

敦彦の祖父の声だった。

祖母…『……久しぶりやね。』

祖父…『あ、あぁ……起きとってええんか?』

祖母…『たまには動かんといけんのよ。』

祖父…『ほうか。……それより信宏いるか?』

祖母…『えぇ、さっき帰って来た見たいやけど。』

祖父…『ちょっと上がらせてもらうよ。』

だんだん敦彦の祖父の足音が近づいてくる。

祖父…『久しぶりやのう、信宏。』

信宏…『松爺?どうしたの?』

祖父…『敦彦とケンカしたんか?』

信宏…『別に……』

祖父…『お前に相談も無かったのが悔しかったんか?』

信宏…『…………』

祖父…『わしも大反対したんじゃ。』

信宏…『だったらどうして?!』

祖父…『あいつは信念を持っとる。いくらわしが反対しても聞きゃせんかった。それに……いずれ若い者は強制的に入隊させられる。』

信宏…『…………』

祖父…『今週中にこの場所を離れる事になった。わしん所の家族とここの家族、それに愛美ちゃん家の家族も一緒にや。』

信宏…『離れるってどこへ?』

祖父…『爆撃を避けれる田舎じゃ。』

信宏…『いずれ俺も戦争に?』

祖父…『大丈夫じゃ、お前の父親は早くに亡くなっとる、お前がこの家守らんといけんのじゃ。自分から申し込まない限り軍から通知は来ん。』

俺は心のどこかで安心していた。戦争に行かなくても良いと、心のどこかで喜んでいた。

その後の敦彦の祖父の言葉は覚えていない。そして田舎に避難する日はやって来た。愛美の家の家族と敦彦の家の家族が集まった。

愛美の父親も敦彦の父親も元々自衛隊にいたため、今では戦地へ狩りだされていた。俺の家からは祖母と母、俺と妹の由美(ゆみ)。愛美の家からは母と愛美。

そして、敦彦の家から、祖父、母、妹、弟。敦彦は三日後に迫った入隊のため、一人残る事になった。

知り合いから借りたバスにみんな乗り込む。見送りに出てきた敦彦と目が合ったものの、俺はすぐに目を反らした。

愛美は俺の顔を睨みつけて敦彦の元に駆け寄った。俺はバスに乗り込むと、最後部座席に座った。

俺は敦彦に対し、怒っていたわけではない。ただ、戦争に行かなくて良い自分が情けなくて、それを喜んでいる自分が恥ずかしかった。

愛美がバスに乗り、バスは出発した。最後まで敦彦の方を振り向けなかった。愛美は俺の横に座った。目には涙を溜めていた。

愛美…『どうして?』

信宏…『………』

愛美…『あっくんお見送りに来たのに……』

愛美が怒りにも似た表情で俺を見つめている。俺は愛美の目でさえ見れなかった。

信宏…『………』

愛美…『最低!』

小さい声で怒鳴ったはずの愛美の声は俺の頭いっぱいに響いた。

信宏…『……俺が行けばよかったのかな?』

それまで微かだけど確かに聞こえていた母親たちの話声がピタリと止まった。振り向きはしないものの、みんな聞耳を立てているのがわかった。

愛美…『…………』

乾きかけていた、愛美の目に再び涙が溜まり、洪水のように溢れだした。

俺はすぐに窓の方を向いた。

愛美…『ごめん…そんなつもりじゃ……』

俺にしか聞こえない程小さな声で愛美は呟いて、俺の手を握った。

窓の外に広がる街並みは、時が止まっているかのように全ての機能が停止していた。乗り捨てられた車、散らかった道路、いつも輝いていたはずのネオン、若者たちの騒がしい声、自然だと思っていたものが今では不自然に感じる。

誰かが言った……『戦争も知らない奴らが偉そうにギャーギャー騒ぐな。』と。

戦争も知らない豊かな時代に生まれたはずが、醜い争い、悲惨な戦争の時代を今、生きている。

💡第三章💡《現在》

揺れる心

荒れた道を五時間程走ると、目的の田舎に着いた。泣き疲れたのか、愛美は俺の手を握ったまま眠っていた。

俺はそっと手を離し、バスから降りた。そこは山奥の古い民家が三軒程並ぶ場所だった。

祖父…『おい。信宏?!』

信宏…『何?』

祖父…『荷物運んでくれ。』

信宏…『うん、分かった。』

俺が荷物を降ろしていると、愛美の母親が近づいてきた。

愛母…『ノブ君。』

信宏…『はい?』

愛母…『ごめんなさいね。あの娘、昔からお節介だから。』

信宏…『いえ。熟睡してますね。』

愛母…『昨日全く寝てないのよ。』

信宏…『そうなんですか。それほど敦彦の事が心配なんですね。』

愛母…『それはどうかな?』

そう言って愛美の母は俺に微笑みかけた。

愛美…『まぁ、愛美の事よろしくね。』

信宏…『はぁ……』

荷物を運び終えると愛美の横に座った。しばらく愛美の寝顔に見入っていると、愛美の口が開いた。

愛美…『バカ……そんなに見ないでよ。』

信宏…『何だよ、お前起きてたのか?』

愛美…『十分くらい前から…』

信宏…『だったら早くおばさんの手伝いしろよ。』

愛美…『うん。』

そう言って俺はバスを降りようとした。

愛美…『……本当は!』

愛美の言葉に俺は立ち止まった。

愛美…『本当はノブじゃなくてよかった……』

その言葉に俺は返す言葉も見当たらず、無言でバスを降りた。

ホコリまみれの畳に腰を降ろしてため息をつく。やはり頭に浮かぶのは敦彦の事だった。

どうして戦争に行く気になったのか、俺にはとても理解できなかった。最前線ではとても惨い事が行われていると、近所のおじさんから聞いた。日本側の死傷者は既に一万人を越えていた。

今の文明から考えても核戦争になるのは時間の問題だった。日本は世界で唯一の被爆国であり、原爆の恐ろしさを一番知っているはずである。その日本が核開発を進めていたのはどうしても納得ができない。

その日は1日中、敦彦の事を考えていた。やがて辺りは暗闇に包まれ、蒸し暑さから逃れるように外に出た。

そこにはこちらを振り返る敦彦の祖父と愛美がいた。

祖父…『お前も眠れんのか?』

信宏…『まぁね……』

祖父…『悦子は……お前の婆さんの具合はどうなんだ?』

信宏…『見た目は元気だけど、そう永くないらしいよ。』

祖父…『そうか……』

敦彦の祖父は静かに目を瞑り、下を向いた。重い空気を振り払うように愛美が口を開いた。

愛美…『ノブのおばあちゃんと松爺は昔から知り会いなの?』

祖父…『あぁ……初めて出会ってから八十年くらいかのう?』

愛美…『八十年?!……すご~い!』

信宏…『俺のじいちゃんの事も知ってる?』

祖父…『あぁ……』

信宏…『どんな人だった?』

祖父…『………お前の婆さんは何て言うとった?』

信宏…『とても優しくてかっこよかったって。』

祖父…『…………』

愛美…『へぇ~。ノブとは大違い。』

信宏…『うるせ~よ。』

祖父…『わしはそろそろ寝るとするか。後は若い者同士仲良くなぁ。』

俺の質問から逃げるように敦彦の祖父はその場から離れた。

信宏…『松爺?!……俺の爺ちゃんは?……』

祖父…『信宏……。何も悩まんでえぇ。何も考えるな。……生きる事だけ考えろ。』

敦彦の祖父はこちらを振り向きもせず、その言葉を残し家の中に入っていった。

愛美…『何か松爺、変だったよね?』

信宏…『…………』

愛美…『ちょっと~!聞いてんの?!』

信宏…『えっ?何?』

愛美…『はぁ~。何でもない。』

松爺が言った言葉の意味を考えていると、愛美がいきなり俺に抱きついてきた。

信宏…『な、何だよ?!』

愛美…『私ね、こんな時代になっちゃったから今言わないと後悔すると思って……』

予想外の展開に俺の鼓動は高鳴った。

信宏…『お、おい離れろよ……』

愛美…『私……ノブが好…』

信宏…『離れろよ!!』

俺は物凄い勢いで怒鳴り、愛美の体を振り払った。

脅える愛美に俺は言った…

信宏…『お前、今日言ったよな?……俺じゃなくてよかったって。』

愛美…『…………』

信宏…『言ったよな?!』

愛美…『うん……』

信宏…『敦彦で良かったって事か?……戦争に行ったのが敦彦で良かったって事なのか?』

愛美…『違う!!……私はただ、ノブの事が……』

信宏…『敦彦はお前の事が好きなんだよ!!』

愛美…『…………』

俺は心の中で、敦彦に何度も何度も謝った。

💡第三章💡《現在》

敦彦の想い

今から五年前~中学三年の冬~

その日も俺は幼なじみの敦彦、愛美の三人で下校していた。

愛美…『ノブ知ってた?あっくん好きな人いるんだって。』

敦彦…『だ、誰に聞いたんだよ、そんな事?!』

愛美…『教えな~い。』

信宏…『で?…好きな人って誰?』

愛美…『それは……』

敦彦…『お、おい!!』

愛美…『誰だろう?……』

信宏…『はぁ?……何だそれ?』

愛美…『だってそこまでは聞いてなかったんだもん。』

敦彦…『マサだな?ばらしたのは?』

愛美…『ピンポーン。でも名前は教えてくれなかった。』

『当たり前だろ?』この時、敦彦はそう思ったに違いない。

信宏…『おいおい、何でマサなんかに教えて俺に教えないんだよ?』

敦彦…『お前の場合、本人に言いかねないからダメ。』

信宏…『それでも幼なじみか?』

敦彦…『ダメなものはダメなんだよ。』

愛美…『じゃあ私には教えてくれるよね?私、口堅いし?私にも教えてくれないの?』

『当たり前だろう?』敦彦はまたまたそう思ったに違いない。

敦彦…『もう、俺の事はいいだろう?!……それよりノブの好きな人って誰だよ?』

愛美…『あ~気になる。誰?』

信宏…『いねぇ~よそんなもん。』

敦彦…『でもお前、女子に人気あるだろ?この前もラブレター貰ってたし。』

愛美…『どうしてこんな奴がいいんだろう?』

憎たらしい程の笑顔で愛美は言った。舌を出しすぐに敦彦の後ろに隠れた。

信宏…『こんな奴って何だよ?!……お前はそんな性格だからモテないんだよ。』

愛美…『これでも結構、告白されるんだから。』

そう言って愛美は胸を張った。

敦彦…『愛美は好きな人いるのか?』

唐突に発した敦彦の声に何故か俺は愛美の顔を凝視した。

愛美…『な、何言ってんの?いきなり……』

敦彦…『え?い、いやぁ~、俺とノブにも聞いたんだから、と、とりあえずお前にも……』

慌てふためく敦彦を見て、愛美に言えない理由も、本人に言われたら困ると言う敦彦の言葉も理解できた。ただ一つ、その時に感じた例えようのない程、複雑に揺れた俺の心だけは理解するのに予想以上の時間を費やした。

愛美…『いるよ。』

頭の中を色々な情報が飛び交う中、その情報たちでさえ立ち止まる程、大きく透き通る声で愛美は言った。

敦彦…『だ、だれ?!』

予想外の愛美の発言に、吐息が聞こえてきそうな程、興奮した声で敦彦が食い付いた。

愛美…『それは……』

唾を飲む音が聞こえた。敦彦の顔を見るより先に俺も唾を飲んでしまった。

愛美…『バーカ。教えない~い。』

芸人の滑るとゆう表現が正しいのかは分からないが、それに近い空気がその場を流れた。

呆気にとられた俺たちを見て、愛美は声をだして笑いながらその場を去っていった。

敦彦…『何だそれ?……』

信宏…『あぁ~あ、アホらしぃ。帰ろうぜ。』

その帰り道、何度も思い出し、二人で笑っていたのを今でもたまに思い出す。

家に帰るとすぐに、五歳になったばかりの妹、由美が抱きついてきた。

由美…『お兄ちゃん、遊ぼ。』

信宏…『幼稚園で遊んできただろ?俺は疲れてるからダメ。』

由美…『きょうはお兄ちゃんとあそびたかったからほどほどにしてきた。』

満面の笑顔でそう言い放つ由美に、ため息を吹きかけた。

信宏…『程々にって、お前どこでそんな言葉覚えてきたんだ?』

由美…『おねえちゃん。』

お姉ちゃん、その言葉に俺はドキッと心臓が鳴った。由美の言うお姉ちゃんは、愛美の事を指しているのだ。

由美…『だからあそぼ?』

信宏…『敦彦と遊んでこいよ。どうせあいつ暇だから……』

敦彦…『誰がどうせ暇なんだよ?』

手にお菓子の入った袋を持った敦彦が玄関のドアの前に立っていた。

信宏…『びっくりするだろ?!いきなり現れるなよ。』

由美…『え~。あっくんさいきんおもしろくないんだもん。』

敦彦…『何か急に大人びたって言うか、随分冷たい事言うね由美ちゃん。』

信宏…『たぶん愛美の影響だよ。』

敦彦…『だと思ったよ。これでも俺は面白くないか?』

そう言って敦彦はお菓子の入った袋を由美に手渡した。笑顔になる由美の顔を見て、今度は賄賂を覚えたなと、鼻で笑いながら部屋に向かった。

敦彦…『お前好きな奴いるか?』

信宏…『またその話か?さっきも言っただろう。』

敦彦…『だったらいいんだ……』

気持ち悪いほど不適に笑みを浮かべる敦彦に俺は眉を細めた。

信宏…『何だよ?気持ちわりぃなぁ。』

敦彦…『いゃ、俺の好きな人と、お前の好きな人が同じ人なんじゃないかと思って。』

信宏…『はぁ?何だそれ?』

敦彦…『すまん、気にしないでくれ。』

手を合わせ、舌を出している。ため息を吐くと、敦彦の頭を軽く叩いた。

信宏…『それより誰なんだよ?』

敦彦…『絶対誰にも言わないか?特に本人に?』

舌をスッと引っ込めると、真剣な目で俺に聞いた。

信宏…『お、おぉ。』

正直、敦彦が誰を好きであろうとあまり興味はなかった。それなのに俺の喉は乾き、出ない唾液を何度も飲みこんだ。敦彦の真剣な口調に自分でも驚く程、緊張していた。

妹の由美だけは、なかなか破れないお菓子の袋と夢中で格闘していた。

腹がたつ程時間が経つ。敦彦の顔を緊張しながら見つめる自分が情けなくなり、ため息をつき、目を反らそうとした時、敦彦の口がようやく開いた。

敦彦…『愛美。』

聞き覚えのある名前に由美が反応した。会話の内容を理解していたかどうかは定かではないが、由美は嬉しそうに微笑んだ。

信宏…『お、おいおい、冗談だろ?』

敦彦…『冗談言ってどうするんだよ。』

信宏…『まぁそれもそうだな。』

敦彦…『絶対に愛美には言うなよ?言ったら絶交だからな?』

言葉が出て来ず、頷くので精一杯だった。目は泳ぎ、心臓は高鳴り、普通ではない体の異変に、俺の好きな女の名前までも初めて認識した瞬間だった。

💡第三章💡《現在》

揺れる心

愛美…『知ってるよ。』

虫の鳴が止まる。恐ろしい程、静寂が広がる。

信宏…『どうして?』

静寂に耐えられず、素早く質問を投げ掛ける。

愛美…『ノブがバイトに行くって言い出して、あっくんと私二人で映画見にいった日の事覚えてる?』

静寂に脅える脳みそを必死に働かせた。意外に早く記憶は蘇った。

確かにあった。その時は結局バイトには行かず、パチンコ屋で財布の中身を空っぽにしたんだっけ?それから電気屋の前で見たあのニュースは鮮明に覚えている。

信宏…『あぁ。覚えている。』

愛美…『あの日、映画見た帰りに告白された。』

日本の運命を変えるミサイルが撃ち込まれたあの日、敦彦は告白を決意した。

信宏…『それで?』

焦る気持ちを必死に抑えていたつもりだった俺は、一秒も経たない内に先の答えを聞き出す自分の状況に脅えた。

愛美…『……振っちゃった。』

信宏…『何でだよ?!』

愛美…『好きな人いるから……』

信宏…『好きな人?』

愛美…『小さい頃からずっと好きだった……』

信宏…『もういい。』

愛美…『よくない!……好きなの。』

信宏…『……………』

愛美…『私…ノブが好き。』

再び虫たちが鳴き始めた。雲に隠れていた満月が顔を出し、さっきまで真っ暗で何も見えなかった風景が目の前に広がった。

信宏…『何でだよ……』

稲光と共に、月は厚い雲に覆われた。今にも雨が降り出しそうな状況に空を見上げる。

愛美…『あっくんに言っちゃった。……』

体が震えた……愛美の言葉に体が震えた。

愛美…『ノブの事好きだって言っちゃった。』

俺は歯を悔い縛る。静かに目を閉じ、空を見上げた。雲の隙間から星が見えた。

雲の隙間から見えた星が敦彦のように思えた。離れた場所から俺を睨んでいる。

しかし次の瞬間、額に冷たい滴が落ちた。星に手をかざした瞬間、滴は音を立てて一斉に落ち始めた。

愛美…『あ、雨………』

信宏…『泣いとる。』

愛美…『え?………』

信宏…『敦彦が………敦彦が泣いとる。』

こちらを見下ろしていた星は雲に隠れた。そして雨は激しさを増した。

それから三日間、雨は止めどなく降り続けた。大粒の雨が風に押され、窓に叩き付けられる。その度に敦彦の顔が頭に浮かび、両手で耳を塞いだ。

母親…『台風8号。』

雨と暴風が治まり、買い物のため、町に出ていた母が帰ってくるなり呟いた。

母親…『何の情報も、準備もしてない時の台風は恐いわね……』

母の表情から力が抜けていた。目は遠くを見つめ、肩は落胆しきっている。こんな母の姿を見たのは父親が死んだ時以来だ。

母親…『つい最近まではテレビがあるのが当たり前で、お金があれば食料も、服も自由に買えたのに。……全く別の時代に来たみたい。』

心臓が音を立てて動き出す。人間とゆうのは不思議な生き物だ。母親の悲しむ姿を見るだけでこんなにも動揺してしまう。まるで自分の事のように胸が痛くなる。

信宏…『どうしたの?……何かあった?』

母が驚いて俺の目を見た。自分でも驚いた。母にこんな優しく声をかけたのは何年ぶりだろう?

いつも母に対して反抗的な会話しか出来なかった。母に見つめられ自分が言った言葉を冷静に思い出してみた。

俺の顔は真っ赤に染まり、慌てて母から目を背けた。大声をだして自分の頭を叩き付けたかった。静寂が広がる空間に助け舟がやって来た。

由美…『ママ~お腹空いた。何か食べる物ない?』

母親…『え?……あぁ、急いでご飯つくらないと。』

母が台所へ向かった。心の中で由美に感謝しながら自分の部屋に戻った。部屋に入ってしばらくすると、愛美の声が聞こえてきた。

愛美…『由美。』

あの日以来、愛美とは顔も会わせていなかった。久しぶりに聞く愛美の声に心地よさを感じていた。

由美…『はーい。』

由美が家を飛び出し、愛美の元に駆け寄るのをカーテンの隙間から覗いてみた。愛美が由美に封筒のようなものを渡していた。

愛美…『あっ……』

愛美と目が合い、慌てて窓から離れた。心臓はリズムの良い鼓動を発していた。緊張?愛美の目を見ただけでこの胸に熱い何かが突き刺さる。『はぁ~』ため息をついた瞬間、部屋のドアが開いた。

由美…『覗きなんてお兄ちゃん趣味わるい。』

信宏…『ば、ばか違うよ!』

由美…『はいこれ。』

由美が差し出したのは封筒だった。やはりさっきのは封筒だったのだ。

信宏…『俺に??』

由美…『お姉ちゃんから。ラブレターじゃないの?』

由美は俺の体を軽く揺さぶりながら笑った。

信宏…『いいからあっち行ってろ!』

頬を膨らませ出ていった。ラブレター。由美が言ったその言葉に顔が緩み、口元は自分でも気持ち悪いと思う程に笑みを浮かべていた。しかし封筒を見た瞬間、笑みは崩れ、緩んだ顔は引き締まった。

“広瀬信宏様”

“松岡敦彦”

目を見開いたまま、ただ呆然と封筒に書かれた文字を見つめていた。喜びより先に驚きが、そして驚きの後に後ろめたさのような不快な気分が胸いっぱいに広まった。

愛美…『ノブ。』

声がした方に振り向くと、愛美が不安そうな表情を浮かべて立っていた。

愛美…『私にも手紙が来たの。』

信宏…『もう読んだのか?』

愛美…『うん……』

信宏…『そうか。』

入院を拒み続けた祖母は地元の茶会等にも積極的に参加し、余命の半年はあっと言う間に過ぎていった。病院側の誤診だったのでわないか?と思う程、とても若々しく、元気そのものだった。

しかし、やはり誤診ではなく、二ヶ月程前から布団に寝ている時間が1日の大半を占めるようになっていた。

そして最近では起き上がるだけでも、声を出すのでさえ、苦痛の顔を浮かべる祖母が俺の名前を呼んだ。布団が敷きっぱなしになった祖母の部屋に招かれた。

信宏…『何?どうしたんだよ?』

祖母…『これをお前に預ける。』

そう言って祖母が渡したのは、古い封筒だった。

信宏…『何だよこれ?』

そう言いながら破れ掛った封筒を開けると中で何かが光った。封筒を逆さにして光る物を手のひらに落とした。

信宏…『指輪?……』

祖母…『それを海に捨てて欲しいんじゃ……』

信宏…『捨てる?!どうして?』

祖母…『今じゃなくていいんじゃ……私が死んで……敦彦の爺さんが死んだら、捨ててくれ。』

信宏…『…………』

信宏…『松爺が死んだら?どう言う事?』

祖母…『ずっと考えとった……』

信宏…『………』

祖母…『お前に話すべきかどうか……』

信宏…『何を?』

祖母…『でも私の口からは言えん……今はただその指輪を預かっておくれ。』

俺はガリガリに痩せ細った祖母の体を触った。

信宏…『分かった。じゃあ俺、畑に戻るから。』

そう言って俺が部屋を出ようとした時、祖母が渇れた声で言った。

祖母…『死んだらいかん……生きていてこその命じゃ。……死んだらいかん。』

祖母がその時、何を伝えたかったのか、俺には分からなかった。しかしその時の祖母の言葉が俺の頭から離れる事はなかった。

そしてその僅か三日後……

祖母は亡くなった

💡第四章💡《過去》

お前が残した星でさえ……

その日は静かな朝だった。家を出てから一週間が過ぎ、最前線は毎日激しい戦闘の中、私はなんとか生きていた。無数に転がった、仲間の遺体に囲まれたまま、あの日の悦子の涙を思い出す。

一週間前…

悦子…『ちょっと待って。』

涙を堪えるのに苦難を強いられていた私は、振り返らず行こうと決めていた。しかし、死が確実に迫っていた私に、悦子の声はあまりに残酷で、これ以上、痛みようがない程、胸は苦しく締め付けられた。それでも足は動き続けていた。

悦子…『死んだらいかんよ!……』

広瀬…『!!』

私の足は遂に止まってしまった。

悦子…『私、聞いたんや。……夜中に松岡さんとあんたが話てるの。』

温い風が吹き抜けた。蝉の鳴き声が激しく耳を叩く。

広瀬…『……大丈夫や。……生きて…』

背中に暖かい重圧が掛った。女性とは思えない程の力が私の体を締め付けた。

悦子…『生きて………どんなにかっこ悪くてもええから……生きて帰って下さい。』

背中に冷たい涙が伝わって来た。私は振り向く事も、声を発する事も出来ず、悦子の腕を引き離すと、地獄へと続く道を歩き出した。

それから一週間、満足に食事もとれず、バケツに溜った雨水で空腹をしのいだ。敵の人数は日を追う事に増えていき、逆に日本兵の数が圧倒的に減り、日本人の遺体の数だけが虚しく増えていった。

太陽の陽射しも強くなっていき、本格的に夏を迎えようとしていた頃、生き残った兵隊たちが上官の元に集められた。

上官…『周辺の海はすでに敵の戦艦に包囲された。』

そんな事、教えてもらうまでもなく、その状況は前線で戦う私たちが既に見ていた苦しい現状だった。

上官…『敵の戦艦は小さい物も含めて十隻。……我が軍の戦闘機は基地に八機ある。生き残った者は十一名。怪我を負い使い物にならない者をはぶくと丁度八名。』

息が詰まり、心臓が激しく脈うつ。その後に続く言葉はここに並べられた全員が推測出来たに違いない。

上官…『そこでお前らには天皇陛下に命を捧げる最高の使命を与える。』

皆の唾を飲み込む音が聞こえた。それにつられて私も唾を飲む。

上官…『八名の者たちは明日、基地に向かい、戦闘機に乗ってもらう。標的は敵鑑十隻の内、出来るだけ大きい八隻。……ただし燃料は片道分だけだ。……言っている事が分かるな?!』

全員が『はい。』と声を揃えて答える。

上官…『陛下のために死ねる事を幸福と思え。』

『はい。』そう答える自分自身にも、陛下のためだと死を押しつける上官に無性に腹がたった。陛下のために死ぬよりも悦子のために生きたい。そんな心の叫びとは裏腹に、逃れる事の出来ない現実に絶望を感じた。

上官…『明日基地へ向かい、出発は三日後だ。それまでは基地でゆっくりと休め。特別に食事を用意する。』

その日は崖に深く掘った防空壕の中で眠り、翌日、二十キロ程離れた基地へと向かった。

『生きて帰ってきてください。』悦子の言ったその言葉は、逃れる事の出来ない死を覚悟した私にはとても苦痛で、必死に抑えた恐怖心を呼び覚ます、最悪の言葉だった。

そんな悦子に憎しみに近い感情を抱かずにはいられなかった。

山下…『おい広瀬。』

先頭を歩いていた私に後ろから声をかけたこの男の名前は、山下春次。(やましたはるじ)山下は裕福な家庭に生まれながら、十七歳の時、兵隊になりたいと、親の反対を押しきり里を離れた。私たちから見れば大バカ者以外の何者でもなかった。

広瀬…『何じゃ?』 
山下…『松岡はどうしたんじゃ?』  
広瀬…『あいつは離隊じゃ。』
山下…『離隊?………そうか。』 

広瀬…『何やお前、理由聞かんのか?』
山下…『どうせもうすぐ死ぬんじゃ。理由なんてどうでもいいじゃろ?』        広瀬…『……まぁな。』

笑いながら話す山下の顔が哀しげな表情に変わるのを私は見逃さなかった。

それから十分程歩くと基地が見えてきた。私には基地と言うよりただの古い倉庫にしか見えなかった。

基地に入り二、三歩奥に進んだ時、目の前に立ちすくむ人物に唖然とした。

広瀬…『お、お前?!』

私が動揺を隠せず立ち止まると目の前に立つ人物は笑みを浮かべてこちらに歩みよってきた。

広瀬…『お前・・・何しとるんじゃ?!』

山下…『松岡?・・・・お前、離隊したんじゃないんか?』

そこには、ここに居るはずのない、居てはいけないはずの松岡が居た。

松岡…『お前らだけに日本の将来任せておけんじゃろ?』

山下…『お前がおらんで寂しかったぞ。』

私は笑いながら会話を楽しむ松岡の腕を掴み外へと連れだした。

松岡…『どうしたんじゃ?そんな恐い顔して?』

広瀬…『何考えとる?!・・・・どう言うつもりじゃ?!』

松岡…『どうもこうもない・・・』

広瀬…『何でこんな所に戻ってきた?!』

松岡…『落ち着け。さっきも言ったじゃろ?お前らに日本の・・・』

次の瞬間、松岡の体は地面に横たわった。私の拳に重い痛みが響く。

松岡…『痛っ・・・何するんじゃ?いきなり。』

軽い表情で戦地に戻ってきた松岡に心底腹がたった。

広瀬…『俺たちは死の宣告を受けたんじゃ。』

松岡…『・・・・』

広瀬…『三日後には戦闘機と一緒に海の底に沈んどる。』

松岡…『自分だけ死から逃れる事は出来ん。』

広瀬…『まだそんな事言うとるんか?残された子供たちはどうする?ミエちゃんの気持ちは?』

松岡…『どうしょうもないんじゃ。ミエの事を考えると。』

広瀬…『どうしょうもない?』

松岡…『どうしても仇をとるんじゃ!誰に何と言われようと。』

私は言葉を失っていた。松岡の並々為らぬ決意が私の体を硬直させた。松岡の目は瞬きすら許さず、ただ一点をじっと見つめていた。その表情に恐怖さえ感じた。

広瀬…『でもどうして戻ってこれたんじゃ?家には子供たちしか居らんのに。』

松岡…『最初は断られた。でも上官に直接頼んだんじゃ。』

広瀬…『何てじゃ?』

松岡…『お国のため、天皇陛下のため、俺の命を捧げます。』

広瀬…『そんな事・・・』

松岡…『もちろん本心やない。ここもよっぽど人手が足りんようじゃのう?』

広瀬…『無駄死にすることないじゃろ?!』

松岡…『お前こそ悦子ちゃん残して死ぬんか?』

数えきれないほど振り払ったはずの想いが松岡の言葉により蘇る。

広瀬…『もう決まった事じゃ。』

そしてもう一度、強く振り払う。

松岡…『そうか。』

そう言って後ろを向いた松岡の背中からは哀愁が漂い、確固たる決意で鎧を纏っているようにたくましく見えた。

広瀬…『お前は死ぬべき命じゃない……』

松岡の背中を見つめていた私の口から洩れた言葉に松岡の背中は力なく震えた。

松岡…『何やそれ。他に死ぬべき命があるんか?』

その場の空気が一気に凍りついた。

松岡…『俺は死ぬべき命じゃなくて、ミエやお前は死ぬべき命なんか?』

震える松岡の背中を見つめたまま私は言葉を失っていた。沈黙が更に空気を冷やし、二人の溝を開く決定的な言葉が私に浴びせられた。

松岡…『もう終わりじゃ。お前とはもう……』

凍りついたその場の空気が溶ける事は二度となかった。

広瀬…『お前は怖くないんか?』

冷たい鉄の塊に耳を当てた。すると、意思などもっていないはずの鉄の塊から人間の泣き声にも似た不気味な音が響いた。

広瀬…『泣いとるんか?』

それは古くなったプロペラが風で揺れて擦れた音だった。

広瀬…『今日で俺たち死ぬんやな……』

さらに風が強く吹き付け声を増してプロペラが回り始めた。

松岡…『一人で何言っとるんじゃ?』

まだ薄暗い倉庫内に聞き覚えのある声が響いた。

広瀬…『どうしたんじゃ?』

明らかに動揺を隠せない私に松岡は微笑みかけた。

松岡…『お前とは終わりと言うたけど、最後ぐらい話せんと後悔しそうでな。』

広瀬…『お前まだ……』

再び松岡の死に急ぐ言葉が甦り、怒りが呆れた感情に変わった。

松岡…『大丈夫じゃ、ワシは食事の運搬だそうじゃ。』

妥協した松岡の言葉に私は胸を撫で下ろした。これで一つ目の不安は解消された。

松岡…『お前本当にえぇんか?』

一つ目の不安解消と共に二つ目、三つ目と死ぬまで、否、死んでも頭にこびり付いて離れないであろう不安が強く激しく、私の胸に襲いかかる。

松岡…『悦子ちゃんや子供たち残してえぇんか?』

広瀬…『今更どうなるんじゃ?』

松岡…『………怖くないんか?』

今まで何度も私の頭を悩ませた言葉。怖くないかって?それはあまりに唐突で、今、置かれた現状を考えると愚問以外の言葉は見当たらなかった。

広瀬…『怖い。………昨日から震えが止まらん。』

今までごまかし続けた恐怖心が、涙と共に流れだした。

松岡…『命令は何じゃ?』

広瀬…『……特攻じゃ。』

それまで吹いていた風が治まり、音を発て揺れていたプロペラもピタリと止まり、その代わりに静寂の音が倉庫内に響いた。それはどんな大きな音よりも、耳に不快感を残した。

松岡…『こんな事言うたらお前に怒られるかもしれんけど……』

広瀬…『何じゃ?』

松岡…『やっぱりお前は死ぬべき命じゃない。』

それは確かに怒るだろう?この前、松岡に同じ事を言って絶交された事を思い出した。それが何故かおかしくてしかたなかった。

松岡…『な、なにがおかしいんじゃ?』

広瀬…『俺が死ぬべきじゃなかったら誰が死ぬべきなんじゃ?……自分が言うた事もう忘れたんか?』

松岡…『覚えとる。……それでもやっぱり……』

広瀬…『死ぬべきか死ぬべきじゃないか何てようわからんけど、………俺、死ぬんじゃ。もう決まった事なんじゃ。』

揺るぎようのない決意は自分で思っている以上に固く、確固たる物となって口から飛び出した。

松岡…『地を這ってでも生きるって言うたじゃろ?!』

広瀬…『死ぬのが怖いんやない。……死んでも守る物が無くなるのが怖いんや。』

松岡…『お前が死んだら守れんじゃろ!!』

広瀬…『この国は負ける。終らせないかん。戦争が終わる事でどれだけの人間が苦しみから解放されると思う?悦子や子供たち、それに人間だけやない、この地に生きる全ての生物がどれだけ助かると思う?』