『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(序章)』著者:へっけ
【序章】
俺は、八歳の時に初めてジブリ映画を観て「正直言ってあんまり面白くはないな」なんて呟いた。
初めて見た作品というのは、一九八八年に公開された「となりのトトロ」。
サツキとメイの姉妹が、お母さんの病気療養のためにお父さんと一緒に緑豊かな田舎に引っ越すところから物語は始まる。
新しい家には、小さなお化けが住んでいて、これじゃまるで「お化け屋敷」だと新生活に不安を感じるサツキとメイ。
森の奥には、巨大なお化け?生き物?の「トトロ」も住んでいて、八歳の俺は「何この生き物!何処の森に住んでるんだろう!飼いたい!!」とママに言って困らせてしまう。あの時はごめんねママ。
ストーリーの大筋は特に不満を感じることはなかったのだけれど、サツキとメイの家に住む毛達磨お化け「まっくろくろすけ」という小さい奴を見て「面白くないな」と思ったのだった。
何故そう思ったのかというと、まっくろくろすけは俺の劣等感を塊にしたような醜い奴だからだ。
俺の心の中にある、どす黒い部分。それは全て醜い「禿頭」が出所になっている。禿頭というのは、俺の頭のことだ。何故か分からないけれど、髪の毛が一本も生えたことがなくて、遺伝子に異常があるのではないかと思うのだけれど、実際に調べたことはないからよく分からないままでいる。
この禿頭のせいで、容姿に酷く劣等感を持つようになった俺は、性格も醜くなっていった。 学校にいる容姿が整っていて、彼氏彼女がいて、まだ十五、十六才の癖に未熟なセックスをしているような性欲脳の同級生を妬むようにもなった。
奴等が俺に対して酷い扱いをするのも、奴等なりの理由があったのだろう。多分、俺の妬みだとか性格の醜さに気づいたのだ。
まっくろくろすけは、大きな目と毛達磨フォルムで可愛らしく見えるかもしれないけれど、中身まではそうはいかない。俺と同じで、心の真っ黒な部分を隠している卑怯な毛達磨だ。
ママにそんな感想を伝えたこともあったのだけれど「何、考えているの?ハヤオはそんなつもりで描いてないと思うよ」とかあくまでも冷静な反応だ。
俺の考え過ぎということは、充分あり得ると思ってはいるが、ハヤオも結構ヤバイ奴だと思う。トトロの五右衛門風呂のシーンとかパンチラとか・・・みんなも引いただろ?
まあとにかく、まっくろくろすけとの初めての出会いは最悪だったけれど、そんな訳でトトロを観ることもしばらくなかったけれど、七年後にまたこんな形で縁が繋がるなんて思ってもいなかった。奇縁というやつだ。
田中と島の一味にやられた傷も癒えぬまま、大怪我を負いながら穴師との戦いは終結した。
俺は、今回の戦いで、決戦で証明できたと思っている。
俺に人間としての強さとか勇気とかがあるということもそうなのだけれど、何よりちゃんと大人に向かって生きているってことを。
世界を救うことはできなくても、命を張れば町田市くらいは救える力はあるかもしれないということを。
だからこれからも三好葉次郎をよろしくって感じなのだ。
ママ、パパ、鈴ちゃん、ついでに田中と島も俺の頑張りを見ていてくれ。
俺はもう知っている人は、好きな人も嫌いな人も全て守りたい。
誰も失いたくないから。
(続)
※『ダストバニー・イン・マイ・ヘッド(第一回)』はこちら