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金山知明税理士事務所・国際税務コンサルティングオフィス

国際税務の勉強会3(為替差益の課税)

2020.09.19 13:33

今日は国際税務「一角塾」の研究会にWEB参加しました。

一角塾の塾長は税法学者の村井正先生で、塾生は私以外、関西の税理士です。Zoomでの開催は、正直、旅費がかからないので助かります。広島→大阪の新幹線往復運賃はバカにならないので。

今日は、外貨預金の所有による為替差益にまつわる所得税の課税関係が争われた平成28年6月2日裁決が題材でした。4年間に渡って投資的に米ドル建ての預金を所有していた納税者Aの話です。この外貨預金、最初の3年は円高で損失がでていたのに対し、最後の年に大きく円安に振れて結局トータルで少しプラスになったので解約されたという流れです。

Aは4年間を通算して少しプラスになった分だけを所得(つまり過去3年分の損失を通算)と考えたのに対し、税務署は過去3年の損失を考慮せず、最後の年の円安により儲かった分だけで所得を計算し更正処分をしたので、納税者がそれを不服として争ったわけです。

この裁決の結論自体は妥当というか、まあそうならざるを得ないと思いました。というのは、納税者はこの外貨預金をずっと手つかずで保管していたのでなく、過去3年の間にも何度も部分的に円に換金しては再投資をしていたからです。少なくとも、円に換金した都度、その分に対する所得計算はされるべきです(36条)。

そうすると、過去3年分の売りによる所得(というか損失)は実現済み(認識済み)となり、最後の年の円安差益だけが課税所得に残らざるを得ないのです。ちなみに、為替差益は、現在の実務として、「雑所得」に分類されるので、過去3年分の損失を申告したとしても、残念ながら損益通算と損失繰越はできなかったという構図になります。

しかし、今日発表した塾生の説は大きく展開し、そもそも外貨預金の売り買いによる所得を、雑所得でなく、譲渡所得とみることができるんじゃないかという方向に行きました。それを聞いて、最初は、為替差益は雑所得という定着した実務があり、それは当たり前なので、それを譲渡所得にもっていくのはムリだろうと思いました。

だけど考えてみれば、単純な話、外貨預金=資産であり、資産の譲渡は譲渡所得です(33条)。そう考えれば、譲渡所得であるという主張は的外れでなく、根拠がないわけじゃない。というか、譲渡所得に該当しないと断定するに足る根拠規定がないわけです。

そして、これがもし雑所得でなく譲渡所得であるなら、過去3年分の譲渡損失はなんと他の所得と損益通算できるし、さらに青色なら損失繰越し(3年間)も可能ということになり、雑所得の損失の場合とは大きな違いが出てきます。

この裁決では残念ながら、Aも税務署も雑所得という認識で、所得区分に関する争いにならなかったため、この点に関する議論がされなかったんですが、もし同様の案件に出会えば、外貨預金という「資産」の譲渡という前提で、譲渡所得として申告するのも一考かもしれません。(ちょっと勇気が要りますが)