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『鴎外 闘う家長』by 山崎正和

2020.07.21 11:36

歴史小説であれ現代小説であれ、彼がかねて小説の人物に求めていたものは、この世界に関わるための具体的な処方箋であった。十年のあいだにいくつもの処方箋を次々に書いては破って来たあげく、ついに彼は作中人物にそういうものを求めることに疲れ切ったのかもしれない。「渋江抽斎」にいたって主人公の抽斎は、純粋に作者の似顔絵であること以外の何ものも期待されてはいない。もはや鴎外は抽斎にいかに生きるかを聞こうとはせず、自分に似た1抽斎が歴史のなかで確かに生きたと言う事実だけを確認しようとしているように見える。p.257