中国の日中戦争映画はいつになったら日本恨みの一線を越えるのか
黄 文葦
中国の映画チケット販売サイト「猫眼電影」が9月1日、中国の夏季期間(7月1日~8月31日)における興行収入データを発表。8月21日から公開された「八佰」(英題:The Eight Hundred)が「起爆剤」となり、8月末の時点で、既に興収21億8000万元(約338.0億円)を突破。
注目したいのはこの映画のストーリーである。第二次上海事変における最後の戦闘「四行倉庫の戦い」において、中国国民党の守備隊・「八百壮士」が繰り広げた激戦を描いている。 「四行倉庫の戦い」、日中戦争中の1937年(昭和12年)10月26日から11月1日にかけて行われた、第二次上海事変における最後の戦闘である。
これまでの中国の「抗日映画」では、常に共産党の抗日を強調してきたが、映画「八佰」はようやく事実に基づいて、国民党が日本と戦う姿を描いている。中国映画には、基本的にタブーになってきた中華民国国旗の「青天白日旗」も「八佰」の中では掲げられている。
実は、この映画は昨年制作されたが、しばらく宙ぶらりんの状態が続いていた。政府の映画検閲委員会の審査をパスできなかったとのことだ。今年8月になって、やっと解禁された。昨年審査通さなかった原因は、政治的な敏感な題材であり、この映画は国民党軍の抗日を賛美しているのではないかと疑われていたらしい。
もう一つ、本来、映画の中、日本人ジャーナリストの役があり、中国語が話せる中国人に同情心を持つ日本人だ。彼は租界での大衆デモに参加したのが、日本人であることを知られて、周りの人が激怒し、彼を激しい殴打の末、蘇州河畔で絞首刑に処された。その大衆の愚かさを示すシーンは後に映画の中から削除された。
因みに、近年韓国映画はなぜ急速に発展し、東アジアを代表する映画産業となり、世界中に無数の映画ファンを惹きつけているのだろうか。韓国映画業界の成熟度が高まっていることに加え、さらに重要な要因は、映画「パラサイト 半地下の家族」のような人間の本質や社会の深層を客観的かつ批判的に描くことができるリベラルな創作が世界に響いている。
韓国に比べて、中国は資金・技術・人材・意味深い物語や題材が不足しているわけではない。欠けているのは寛容な創作環境だけで、厳しい検閲がなくなることこそが映画を含む文化産業の創作・発展には欠けられない最も重要な条件である。 過去、中国の抗日映画・ドラマは政治的なイデオロギーで作り上げていた。多くの日本人役がかなり不自然で滑稽になってしまって、映画がエンターテイメントとしての役割をも果たしたのが、映画の中、歴史の真実と人間の本質を見失われてしまった。中国語で、それらの抗日映画・ドラマを「抗日神劇」という。
2020年7月16日、国家広播電視総局が発表した「抗戦75周年を記念するテレビドラマの放送手配を行うための通知」にて「常識や社会通念に反する、歴史を勝手に解釈したドラマ化、抗戦を過度に娯楽化したテレビドラマ」の放送を禁じると発表した。やっと中国映画が脱イデオロギーの一歩を踏み出したとみられる。
最もいけないのは、抗日映画・ドラマが日本への恨みを煽ること。筆者は子供の頃に、学校でいくつかの「抗日の歌」を覚えた。その中の一つは「大刀向鬼子的頭上砍去」、「鬼の頭に大きなナイフで突き刺す」という意味。「鬼子」は日本兵のことである。 今思えば、幼い子供にそのような憎しみを植え付けることは、犯罪を助長することに等しい。人間性を捻じ曲げさせる恐れがある。
映画「八佰」は共産党と国民党の拮抗の一線を跨いだ。一部の歴史をありのままに復元した。言い換えれば、歴史の中の共産党と国民党を和解させた。さて、中国の日中戦争映画はいつになったら完全に日本恨みの一線を越えるのか。
最後に、映画「八佰」が日本で公映されたらどうだろう。日本人に中国の最新戦争映画を観ていただいて感想を伺いたい。