少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口56-
56 みんながそれぞれ必要
そうキャンドーに言われた一同は次々に床に豆電球を投げつけ割る。
パンッパンッと豆電球の割れる音が早朝の廊下に響き渡り、一瞬の静寂の後にそれぞれの身体がふわりと浮かび上がる。
「うわあああ!」
白兎は身体が浮かび上がるとわかってはいたものの、実際無重力状態になるとバランスも取れないしどこか所在ない感じがしていた。
その後全員の身体がクルリと180度上下逆さまに回転する。
上下が逆さまになった世界では先程は上向きにあった矢印が下向きになっている。彩里水は足元を見下ろすと、そこにはいつの間にか天井を見上げたときにはなかったはずの「庭園」と書かれた看板が寝ている。
その先には扉があった。
「あ!あった庭園!」
「な!やったな!」
彩里水と白兎、キップとクップが喜んでいるとキャンドーは落ち着いた声で言う。
「ありましたね。ですが、出るときは周囲の様子を確認してからでないと。私が様子をうかがいます。万一、先回りされている場合は1度引き返して慎重に作戦を練り直してくださいね。」
キャンドーが言うと、白兎は
「待ってよ。キャンドーさん、なんかやけっぱちみたいな感じがする。みんなのために先頭を切ってくれてるのはありがたいけどさ。初めの縄の時もそうだったけど、役に立ちたいって言ってもなんか自分の事を大切にしてないって感じがする。そんな危険もかえりみず、みたいなことはやめてよ。」
と憮然として言う。白兎に指摘されたキャンドーは、少し驚いた顔をしながら答えた。
「・・・そんなつもりはありませんでした。・・・でも、そうですね。確かに。白兎くんの言うとおり、少し1人で先走っていたかもしれませんね。」
「そうだよ。ちゃんと作戦を立ててやろう。その方が少しでも逃げられる確率は上がるよ。」
「そうですね。」
「まあ作戦って言っても結局誰かが1人様子を見に行って、それで大丈夫なら庭園を通り抜けてそのまま城外へ出る。あとは情報もないし出たとこ勝負で情報を集めながら進んでくしかないんだけど。」
「はは!そうだね!・・・じゃあ誰が偵察に行く?」
彩里水が白兎に尋ねると白兎はキップを見る。
「オレはキップにお願いしたいんだ。」
突然指名を受けたキップはピッと背筋を伸ばすような仕草をする。
「え!ぼ、僕ですか!?い、行きます!僕とクップは、庭園の扉の前までは良く行くんです。」
「うん。ちょっと危ないんだけど、1番小さくて見つけられにくそうだし、キップとクップ、キャンドーさんは一緒に逃げてることも知られていない可能性が高いから、万一見つかってもうまく言い逃れできそうだし。」
白兎がキップに伝えていると横からクップが口を挟む。
「で、でもぉ、それなら僕でもいいのではー?」
「うん。そうだな。だけど、クップにはまた違うときに違うことをお願いしたいんだ。今は小回りが利きそうで頭の回転も速いキップが適任かなって思ってる。」
「僕は小回り利かないですかぁ・・・?」
クップが残念そうに言うと、彩里水が白兎の代わりに答える。
「小回りや俊敏さはキップの方が得意で、でも慎重さや深く考えることはクップが得意なんじゃない?」
「そういうこと。そういう時もこの先あるかもしれないだろ?今はただ、キップの出番ってだけだよ。みんながそれぞれのタイミングで必要なときが必ずある。無理して自分だけがってなる必要もないし、張り合う必要もないだろ?今大事なのは、全員が無事にここから脱出して目的地へ向かい始めること。」
白兎に笑顔で言われたクップは納得した様子だ。
「そうですかー。そっかぁ!そうですよねぇ!」
白兎に笑顔を返すと、キップに言った。
「キップゥ。君は僕の自慢の兄ですー。任せましたー!」
「うん!」
キップは嬉しそうに笑った。
つづく