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富士の高嶺から見渡せば

日韓でまったく違う入国管理 コロナ禍の日韓往復体験記

2020.09.21 14:34

2020年8月末から9月中旬にかけて、コロナ禍で互いに入国制限地域に指定している日本と韓国の間を往復した。その体験を記録にまとめ、皆さんの参考に供したいと思う。

それにしても、航空業界はこんな状態でほんとうに大丈夫なのかと危惧される。仁川空港も成田空港も人の姿はほとんどなく、普段は人の長い列が出来ているはずのチェックインカウンターや出入国審査のカウンター前も、人は誰もいない巨大な空間に変わっていた。

海外の航空会社のほとんどの便が欠航となっているため、成田空港の免税店やレストランはほとんどが閉まっている。

往復とも大韓航空を利用したが、乗客はせいぜい20~30人。運航するだけで赤字を出しているのは間違いない。

               大韓航空の機内

仁川空港のロビーで見かけた旅行客の中に、医療スタッフが着るような白い防護服で全身を覆っている人がいるのを見て、「これが、これからの旅行スタイルなのか」と思うと、ショックだった。

国を跨ぐ人の移動、世界の航空産業の構造は、ポストコロナの時代には一変するのでは、という予感がした。

           仁川空港で 完全装備の旅行客

<再入国に際しての必要(不必要?)書類>

私(韓国での長期滞在者)の場合、出国前の手続きとして、再入国許可の申請が必要だった。HIKOREA(e-Government for Foreigners)というサイトに登録して申請するだけで、すべてオンラインで手続きできた。しかし、この書類を実際に見せる必要があったのは、帰りの搭乗手続きで大韓航空のスタッフに見せただけで、韓国入国時には係官は誰も書類を確認することはなかった。入国管理システムのオンライン上では再入国許可は確認できたのかもしれないが・・・。

同じようなことは、韓国に戻る際に「再入国前48時間以内に発行された病院の診断書(英文または韓国語)」が必要だということで、成田空港に向かう途中、渋谷のインターナショナルクリニックに予約して、血液検査までして熱や咳、呼吸器に異常がないことを英文診断書に書いてもらった(費用は7500円)。しかし、この診断書も仁川空港到着後の入国審査や検疫でも誰もしっかりと確認することはなかった。いったいこれらの書類は何の必要があったのか?

            成田空港 入国審査カウンター前

<往路:韓国出国から成田入国>

韓国出国に際しては、空港にほとんど人がいないということ以外、通常と変わらず、搭乗のチェックイン、出国審査の手続きもがはるかにスムーズに短時間で済んだ。

成田の到着後は、飛行機を降りて通路を進む途中の廊下にパイプ椅子が並べられた待機場所が設けられ、ウイルス検査の順番を待たされた。しかし、到着客の数が20,30人しかいないのですぐに順番が回ってきて、検査スペースに進んだ。検査は「抗原定量検査」と呼ばれるもので、容器を受け取り、それに唾液を3ccほど貯めて提出するだけで終わり。結果が出るまで1時間ほどだといわれ、また別の場所に進んで待機したが、確かに1時間ちょうどで検査結果が出た。この検査で陰性とならなかった人は、今度はPCR検査を受け、これには4時間ほどかかるということだった。

陰性と書かれた結果通知の紙をもらったあとは、スマホのLINEに厚生労働省の帰国者フォローアップ窓口を「友だち登録」し、その登録を確認するためのカウンターに並んだ。担当者による正常にLINEが機能していることの確認と、毎日1回、LINEを通じて健康状況を報告すること、このあと自宅までは公共交通機関は利用できないことなどの指示を受けた。

そのあと通常の入国審査と税関申告を済ませ、空港の外に出た。事前にレンタカーの予約はしておらず、空港で渡されたレンタカー会社のリストから3社ほどに電話すると、空港周辺の営業所には空車が一台もないことがわかった。しかし少し離れた成田駅前のトヨタレンタカーにあった空車を予約することができ、タクシーで成田駅前まで向かった。

この間、空港ロビーを出てタクシー乗り場に行くまで、誰も監視する人はなく、この点は、空港を出てタクシー運転手に引き合わせるまで空港の係官が横についてきた仁川空港とは対応がまったく違っていた。

         成田空港第1ターミナル チェックインカウンター

<スマホでの監視アプリ>

日本では、入国から2週間の「自宅待機」を求められたが、外出が全面的に禁止されたわけではなく、不要不急の外出を避けること、公共交通機関に乗る際はマスクを着用することが注意された程度だった。これも後ほど記す韓国での対応とは大きく異なる点だった。

LINEで「ともだち登録」した厚生労働省の帰国者フォローアップ窓口からは2週間の自宅待機の期間中、毎日一回、アンケートと称する質問が送られてきた。アンケートといっても「本人、および同居している家族に37.5度以上の発熱がある人はいるか?」「せき、のどの痛み、鼻水、鼻づまり、強いだるさ、息苦しさなどの症状はないか?」の2問に、はい、いいえで答えるだけ。決められた時間(10時から14時)にアンケートに答えなかった時と、LINEの不具合でデータ送信がうまくいかなかった時の2回は、地元の保健所から直接電話がかかってきて、体調について質問された。

 

           厚生労働省帰国者フォローアップのLINE画面

<仁川空港での入国手続き>

韓国への入国に際しても、ほとんど唯一の手続きといってもいいのが、スマホへの専用アプリのインストールだった。到着後、空港の通路のあちこちにはQRコードを示した看板が置かれ、そのQRコードをスマホで読み取るだけで、アプリのインストールができた。各国語での対応を選択でき、私の場合は日本語での説明に従って住所や電話番号の登録ができた。登録後、臨時カウンターに並び、アプリが正常に機能しているか、係官による動作確認が行われた。

その際に、入国後の自宅隔離に関する注意事項が書かれた英文説明書が渡された。空港では、途中で何度か検温を受けたが、ウイルス検査はなかった。それにも関わらず「検疫は終了した」と書かれた「検疫確認証」という黄色い紙をもらい、「えっ大丈夫なの?」と思いつつ、そのまま入国審査、税関申告を通過した。空港ロビーに出たところで、空港の職員とみられる係官から「自宅まではどうやって帰るのか」と声をかけられ、タクシーだと答えると、タクシー運転手が待機する場所まで案内され、そこで運転手に引き合わされた。ほかにバスを待つ人たちもいて、行く先別に自治体バスが用意されているということだった。

<保健所でのPCR検査と隔離命令>

翌日、空港でもらった「英文説明書」を改めて読んでみたところ、長期滞在の外国人は、入国時に感染症状が見られない場合は、そのまま空港から自宅に向かうことができ、強制的な隔離期間に入ることになるが、入国3日以内に地元の保健所で検査を受けるようにと書かれていた。どうやって保健所まで行けばいいのか悩んでいると、その日の昼過ぎ、保健所から電話があり、保健所の車が送り迎えするので検査を受けるように指示され、時間を指定された。

保健所の屋外に設けられた臨時施設でPCR検査を受けたあと、「隔離通知書」などの文書を受け取った。通知文には「感染病の予防および管理に関する法律」第79条の3の規定に基づき、自家(宅)隔離に違反した時には、「1年以内の懲役または1000万ウォン以下の罰金」に処するとあり、違反事例として「○隔離期間の誤認、○自宅近所のマート・コンビニ等での生活必需品の購入、銀行の窓口に行くこと、○自宅近所での散歩、喫煙、ゴミ出し、○検査後、帰路での経路逸脱」などが挙げられている。別の英文の指示書では「体調が悪化し病院や薬局に行くときは、まず保健所に連絡せよ」、「家族と一緒に暮らしていて、単独の部屋が確保できない場合も、保健所などに相談せよ」などと細かく指示が書かれている。

ところで、保健所では段ボールいっぱいの食糧と体温計、消毒液なども無料でもらった。強制的に自宅隔離するなら、これぐらいのことをするのは当たり前と思う反面、こんなことにも税金を使うのかと思った。

            保健所から支給された食糧品

<スマホアプリによる監視>

隔離期間中、毎日2回、通知音とともに自己診断の時間だという通知が来て、体温の記入と、37.5度以上の熱、せき、のどの痛み、息苦しさの有無についてそれぞれ「はい、いいえ」で答えることになっている。

怖かったのは、「位置確認ができない」というメッセージが警報音ととも何度もスマホに届き、そのあと「係の者がこれから自宅に行く」という通知があったことだった。普通に自宅にいて、一歩も外出していないにもかかわらず、である。思い当たったのは、その日の朝、起きたときスマホの電源が入っていなかったことに気づいたことだった。寝る前に残り電池量が0%になっていたため、充電器に繋いで寝たのだが、その時点ですでに電源がoffになっていたことに朝まで気づかなかったのだ。しかし位置確認ができないという警告音がなったのは、朝起きてから7時間後のことで、とっさにはどういうことか分からなかった。

 

          韓国での自宅隔離中の自己診断アプリ(日本語)

登録アプリ上で、私の担当だとされた保健所の担当者に電話をしたが、その日は休日で保健所には繋がらなかった。その後、疾病管理本部コールセンター(1339)に電話して、韓国観光公社の観光通訳案内電話(1330)にも繋いで、通訳を介し3者間通話で事情を説明した。結局、係の者が自宅を訪れた際にもう一度通訳してもらうことにしたが、その後、自宅に誰かが訪れることはなかった。つまり、「位置確認ができない」というメッセージも「係の者が行く」という通知も、すべて自動システムによるものと思われた。しかし、これを契機に監視されているということを強く意識するようになった。

その後も、私の携帯電話には市の担当者だという人間や自動応答システムなどから何度も電話があったが、こちらが外国人であることが分かっていて、しかも私が韓国語は分からないと伝えても、あくまでも韓国語でしゃべり続けたため、理解はほとんど不能だった。PCR検査に伴って地元保健所から受け取った「隔離通知書」や「隔離通知書受領書」などの書類もすべてハングルで、解読には時間がかかった。はじめから外国人だと分かっているのだから、自動応答システムの電話くらい、少なくとも英語での応答を用意しておいてもいいのではないかと思った。

いずれにしても、こうした対応を含めて韓国の「自宅隔離命令」は、日本に比べてはるかに厳格であり、強制的な措置であることがわかる。日本の場合は、せいぜい「自宅待機要請」にすぎない。日本には韓国のような強制力をもつ「感染症予防管理法」がないということもあるが、仮に2週間も自宅から一歩も出さないなどの強制措置に踏み切ったとしたら、その間の生活を補償する行政サービスや人権の問題を含め、政府批判や社会的議論が沸騰するのは間違いない。

しかし韓国では、そうした強制的な措置も、北朝鮮との軍事的緊張やかつての戒厳令下の体験などを踏まえ、すべての国民が容認しているように見える。

現在、ビジネスマンや企業関係者だけでも自由に往来できるよう、日韓の外交当局間で協議が進められているとのことだが、2週間もの強制的な自宅隔離が引き続き命じられるとしたら、その実現と実効性には疑問符がつくことになるだろう。

<ハンギョレ新聞9/19「韓日ビジネス客の入国制限、近いうちに緩和へ」>