「こうえんのいちにち」シャーロット・ゾロトウ H・A・レイ
賑やかな街から少し入ったところに、緑に囲まれた広々とした空間があって、少しだけ時間がゆっくり流れているように感じられて、自然と足取りが緩やかになる。
私が大きな公園を思い出すときには、なぜか海外の記憶が多いのですが、日本で馴染みがあるのは代々木公園、砧公園、横浜の山下公園などでしょうか。あまり日常と結び付く場所にないせいか、海外へ買い付けへ行ったときにひと休みに立ち寄るシティパークの方が、記憶にしっかり残っているのかもしれません。
とは言え、立ち寄るのはほんの短い時間です。そして自分は少しベンチに座ってパンを食べたりする程度。あの広い公園の中では、私の知らないところで、色んな目的で訪れた人たちが、それぞれにそれぞれの時間を過ごしていたはず。例えばこんな風…。
シャーロット・ゾロトウの描写した「こうえんのいちにち」。田舎に住んでいていつも原っぱで遊んでいる男の子がお母さんに尋ねます。「こうえんってどんなとこ?」
お母さんは話し始めます。朝、掃除のおじさんが公園のゴミを拾い始め、靴磨きのおじさんが客寄せのかけ声をあげる。その横を足を止めることなく通り過ぎて駅へ急ぐ人たち。その後には乳母車を押したお母さんたちがやってきて、ベンチに座って日向ぼっこをしていると、遊具では子どもたちが賑やかに遊び出します。世代も違う知らない人同士がふいに関わりあったり、犬や鳥たちが自由に過ごす。午後には学校終わりの子どもたちでさらに賑わい、天気の良い日にはアイスクリーム売りもやってきます。夕焼けになると、少し静かな時間が訪れて、仕事終わりの人たちが公園を横切って帰って行く。夜になると恋人たちがベンチで夢を語り合い、日課の犬の散歩をする人たちが集まってくる。そして誰もいなくなる頃に、どこからか来たおじさんが、みんなの座ったベンチの上で眠りにつきます。
ゾロトウは一日中公園を歩き回ったのでしょうか。まだ誰もいない早朝から、やがて誰もいなくなる夜遅くまで。それとも、きっとこんな風と、想像を膨らませていったのでしょうか。
人々の生活があちこちで寄り添いあった空間。やけに具体的に書かれているので、どれもこれもゾロトウが出会った人たちのようにも感じられます。その日、その時だけいた人たち。
そして、「ひとまねこざる」のレイが描くたくさんの登場人物たちは、ひとりひとり個性が透けて見えるようで、隅々まで時間をかけてゆっくり眺めたくなってしまいます。そんな風に本を眺めている時間は、公園のベンチの上で、ぼーっとしている時間にも似ている気がします。
ちょうど今くらいが、どの時間帯でも公園で過ごすのに気持ちがいい季節ですね。近所の人が少ない穴場の小さな公園も好きですが、少し足を延ばして大きな公園でゆっくり過ごしたくなる、そんな絵本です。
2人ともとても人気のある作家ですが、この本は意外と知られていないように思います。
お子様とも楽しく読める一冊だと思います。是非サイトでもご覧ください。
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