インタビュー #2
さわんど温泉の新名物「さわん丼」
~アルプスエリアの古くて新しい食体験 その1~
2020年9月16日に、さわんど温泉にて新名物「さわん丼」が誕生しました。
温泉地・さわんどの魅力を詰め込み、「温泉」を活用したまちづくりを考える中で生み出された新メニューということなのですが、「なぜ丼なのか?」「まちづくりと温泉と新メニューにはどんな関係が?」など、筆者は興味津々。
そこで開発の経緯やメニューの中身について詳しくお話を伺うため、さわんど温泉観光組合「SAWANDO つなぐPROJECT」メンバーで、プロジェクトリーダーの横山さんと広報部長の齊藤さんを訪ねました。
▲プロジェクトリーダーの横山さん(写真右)と広報部長の斎藤さん(写真左)
さわんど温泉とは?
楓「今日はさわんどに新登場した「さわん丼」について詳しくお話をうかがっていきたいと思いますが、その前に、さわんど温泉とはどんなところなのか。地域の特徴や課題についても教えてください。」
齊藤さん「さわんど温泉は、さわんどバスターミナルがあり、上高地への玄関口として知られています。岐阜や高山方面と松本方面をつなぐ県境に位置しており、各地域をつなぐ交流の場、ハブになる地域です。温泉地としては約20年と歴史は浅い方なのですが、名湯で知られる「中の湯」から温泉を引いています。湯量が豊富で、源泉の温度は70℃ほどあり(さわんど地区で約65℃)、この高温の地熱は地域の貴重な資源です。」
横山さん「さわんど地区は、安曇地域の各地区と同様に少子高齢化が進んでいます。そこで、地域の魅力を改めて見つめなおし、新たな価値を打ち出して、新しい『観光地域』をつくっていくことが課題となっています。そんな流れから、昨年春に『SAWANDOつなぐPROJECT』を発足し、住民主体となった地域づくりを考える機会を設けることにしました。」
なぜ「丼」がさわんどの新名物に?さわん丼が誕生するまで
楓「なるほど。SAWANDOつなぐ PROJECTは観光と共存する地域をつくっていくプロジェクトなのですね。そのプロジェクトから、さわん丼が開発されたとのことですが、プロジェクトとしてのこれまでの取り組みは、どんな風に進み、どんな経緯でさわん丼が生まれることになったのでしょうか。」
齊藤さん「プロジェクトが発足した昨年2019年は、まず、さわんど温泉のWEBサイトリニューアルに取り組みました。『信州と飛騨を結んだ鎌倉街道の湯の郷』であるさわんどの地域性(各地区とのアクセス)や魅力を分かりやすく表わすことに努めました。」
▲さわんど温泉WEBサイト https://sawando.ne.jp/
横山さん「そして、2年目の今年は、主に新名物の開発に取り組んでいるところです。ワークショップを開催し、20人程のメンバーで意見交換をしながら、少しずつアイディアを練って形にしていきました。」
▲ワークショップの様子
楓「ワークショップには幅広い年代の方が参加されているようですね。ところで、さわんどの新名物として、「丼」にしようと考えられた理由はどんなところにあるのでしょうか。」
横山さん「『さわんどらしさ』を考える上で、根幹となるコンセプトは、温泉熱を利用した低温調理を活かせるメニューであること。そして、さわんどには、この地域ならではの珍しい食材があるわけではないけれど、昔から信州と飛騨をつなぐ場であるということから、様々な地域の食材を掛け合わせて一皿に盛り付け、その混ざり合いを味わえるものがいいのではないか、という考えから、温泉熱で低温調理をした様々な食材を一皿に盛り付けた丼にしようということになりました。」
楓「まさに、丼の上で地域が交流する場になっているのですね。面白いアイディア!」
飛騨と信州の食材を贅沢にコラボしたさわん丼
▲完成したさわん丼
楓「丼をつくるということになり、その後、具材についても皆さんで色々と試されて決めていかれたそうですね。写真を拝見して、すごく美味しそうだなと思ったのですが、丼にのっている具材について教えてください。」
横山さん「具材については、1年ほどかけて試作を繰り返して選定しました。目玉は、低温調理でしっとりとした肉の味わいを引き出した飛騨牛と信州牛です。その他にも、同じく低温調理をして旨味を引き出した安曇野産豚、さわんど温泉でつくった温泉卵、安曇地域の郷土料理の『きざみ(※1)』、そして信州ならではの薬味の『こしょう味噌(※2)』もトッピングしています。丼のベースとなるお米は安曇野産コシヒカリを使用しています。
この形になるまでに、様々な素材を試しました。例えばサーモンや岩魚、ジビエやレバーなども。様々な組み合わせを試し、現在の形で試験運用することになりました。」
(※1)きざみとは、さわんどのある安曇地域で昔から食べられている薬味で、主に根菜などを細かく刻んで醤油とみりんに漬けたもの
(※2)こしょう味噌とは、青唐辛子を信州みそと和えた薬味のこと
齊藤さん「丼に絡めるソースもポイントの一つで、特製の玉ねぎ醤油、ごまクリーミーソースを混ぜることで、きざみやこしょう味噌のトッピングと共に、お好みで色々な味わいを楽しんでいただけるようになっています。」
▲ソースや薬味を混ぜて、好みの味わいを見つける楽しみもあるさわん丼
楓「飛騨牛と信州牛、それに安曇野産豚という三種のお肉を一緒に食べられるなんて、ありそうでなかった贅沢なコラボですね。各地域をつなぐさわんどだからこそ!という特別感がありますし、一つの丼で味を変えて色々と楽しめるのもいいですね。」
これで完成形ではない!?今後も進化していくさわん丼とさわんどの未来
楓「試験運用ということは、これが完成形ではないのですね?今後はどんな風にメニュー開発が進んでいくのでしょうか。」
齊藤さん「まずは、11月30日まで1日10食限定で提供をし、実際に召し上がったお客様からのアンケートを回収します。その内容をメンバーで共有して、メニューの改良をしていく予定です。」
横山さん「現在は、グレンパークさわんどでのみ提供していますが、将来的には、プロジェクトで開発した『さわん丼』をベースに、地域内の各宿で、それぞれの特色を活かした丼が生まれていったらいいなとも思っています。」
楓「なるほど。さわん丼はこれからどんどん進化を遂げていきそうですね。ところで今後、プロジェクトとして他にも考えておられる取り組みはあるのでしょうか。」
横山さん「これから、ますます温泉熱を利用した取り組みを地域内に広げていけたらと考えています。低温調理については、素材の旨味を引き出す調理法なだけでなく、地熱という自然エネルギーを利用したエコ調理とも言える調理法ということで、地域内でより活用していけるような取り組みを。そして、温泉熱を利用した暖房設備の導入についても地域内で広げていく取り組みができたらと思っています。」
楓「温泉熱には、まだまだ様々な可能性が秘められていそうですね。温泉熱を使った今後の取り組み、楽しみにしています。そして現在提供中のさわん丼、私も近々食べに行きたいと思います。本日はどうもありがとうございました。」
▲さわん丼の開発にあたり調理を担当された水田さん(写真中央)と。
編集後記
インタビュー前、「どんな丼なのか? なぜ丼なのか?」 その中身や形に興味がわくところだったのですが、お二人の話をうかがっているうちに、さわん丼の背景にも魅力を感じました。もともとある地域の特色や魅力をわかりやすい形にして提供し、実際に体感してもらいたいと願うさわんど地区の皆さんの思い。そして、様々なアイディアを出しながら、地域の皆さんが同じ方向を向いて歩んでいる、そんなチームワークが印象的です。食べて感想を寄せることで、微力ながら一緒に地域を育む力になれるかも、そんな希望も感じました。
ところで、提供開始間もない「さわん丼」について、実際の反応が気になるところですが……、お客様からの反応は「とても美味しい!」と、好評だそうです。現在提供中のさわん丼は11月末までの期間限定販売(1日10食限定)とのこと。さわんど地域の特性を生かし、様々な食材を贅沢に使いながら、温泉熱で素材の旨味を引き出した、さわんど温泉ならではの新名物「さわん丼」には、さわんど温泉の魅力がぎゅっと凝縮されています。気になる方はお早めにどうぞ!
さわんど温泉 新名物 さわん丼 1,650円(税込)※大盛り 1,950円
期間中アンケートにお答えいただいた方にコーヒー1杯無料またはお菓子のプレゼント付
SETメニュー:季節のフルーツセット +200円
季節ごとの地元の新鮮なフルーツとみそ汁のついた特別セットメニュー
販売店舗:グレンパークさわんど(さわんど温泉観光案内所)
〒390-1514 長野県松本市安曇沢渡4144-17
TEL 0263-93-1811
インタビュアー :楓 紋子(もみじ あやこ)
2016年に乗鞍高原へ移住し、季節の巡りに応じて見られる自然の姿や、自然と共にある山暮らしの魅力を日々感じながら、仕事・遊び・暮らしを楽しむ生活をしている。
北アルプスの山々や乗鞍高原内をあちこち歩いて大自然に触れることと、この地域の山の恵み(高原野菜・山菜・蕎麦・おいしい水)を使ったおいしい料理を食べることが活力の源。
現在、フリーランスでデザイン・イラスト・ライター業を営んでおり、主にアルプス山岳郷エリアの事業者からの依頼を受け、デザイン(HP・パンフレット・ロゴマーク等)やライティング活動に携わっている。
魅力あふれるこのエリアで、地域の方々の話を伺い、その方々のこれまでの歩みを振り返りつつ、これからの未来像を一緒に描いたり、その過程で何かしらの「形(グラフィックや言葉)」をつくり、このエリアの魅力が内にも外にも響いていくきっかけになれたらと、一歩一歩活動中。
一児の母。