過料規定の表現
過料とは、金銭罰の一種で、金銭支払義務を課すものをいう。
同じ金銭罰であっても、罰金及び科料は、刑罰であって、前科が付くのに対して、過料は、刑罰ではないので、前科が付かない。
そのため、重大な義務違反の場合には、罰金又は科料を、軽微な義務違反の場合には、過料を、それぞれ科すというように、両者を使い分けている。
そして、同じ発音である「過料」と「科料」を区別するため、実務上、「過料」を「あやまち料」、「科料」を「とが料」という風にわざと呼び分けることがある。
地方自治法上、条例又は規則に違反した者に対し、5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができるが(第14条第3項、第15条第2項)、首長が過料の処分をしようとする場合には、相手方に対し、告知及び弁明の機会を与えなければならない(第255条の3)。
過料を科する旨の条例規則の規定は、
「第◯条の規定に違反した者は、5万円以下の過料に処する。」
「詐欺その他不正の行為により料金又は手数料の徴収を免れた者は、その徴収を免れた金額の五倍に相当する金額(当該五倍に相当する金額が五万円を超えないときは、五万円とする。)以下の過料に処する。」
という風な表現が用いられるのが一般的だ。
ところが、大変珍しい表現が用いられている法律がある。人身保護法だ。「遅延一日について、五百円以下の割合をもつて過料に処することができる。」という表現が用いられている(第18条)。
ひと月30日として、遅延が1か月間続くと、1万5千円の過料になる計算だ。
前述したように、地方自治法上、自治体の場合には、過料の上限が5万円と決まっているので、過料にはあまり効き目がないけれども、不作為義務違反者に対しては、人身保護法第18条のような過料の科し方も検討されてもよいかも知れない。手間がかかるので、職員さんは、嫌がるだろうが。
cf.1地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第十四条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
○2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
○3 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮 、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。
第十五条 普通地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる。
○2 普通地方公共団体の長は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、普通地方公共団体の規則中に、規則に違反した者に対し、五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。
第二百五十五条の三 普通地方公共団体の長が過料の処分をしようとする場合においては、過料の処分を受ける者に対し、あらかじめその旨を告知するとともに、弁明の機会を与えなければならない。
cf.2人身保護法 (昭和二十三年法律第百九十九号)
第一条 この法律は、基本的人権を保障する日本国憲法の精神に従い、国民をして、現に、不当に奪われている人身の自由を、司法裁判により、迅速、且つ、容易に回復せしめることを目的とする。
第十二条 第七条又は前条第一項の場合を除く外、裁判所は一定の日時及び場所を指定し、審問のために請求者又はその代理人、被拘束者及び拘束者を召喚する。
○2 拘束者に対しては、被拘束者を前項指定の日時、場所に出頭させることを命ずると共に、前項の審問期日までに拘束の日時、場所及びその事由について、答弁書を提出することを命ずる。
○3 前項の命令書には、拘束者が命令に従わないときは、勾引し又は命令に従うまで勾留することがある旨及び遅延一日について、五百円以下の過料に処することがある旨を附記する。
○4 命令書の送達と審問期日との間には、三日の期間をおかなければならない。審問期日は、第二条の請求のあつた日から一週間以内に、これを開かなければならない。但し、特別の事情があるときは、期間は各々これを短縮又は伸長することができる。
第十八条 裁判所は、拘束者が第十二条第二項の命令に従わないときは、これを勾引し又は命令に従うまで勾留すること並びに遅延一日について、五百円以下の割合をもつて過料に処することができる。