演劇集団 東京直角街

スーパーにて

2020.09.27 12:40

スーパーに昼食を買いに行った。


店内アナウンスが流れる。


「ご来店のお客様へ申し上げます。当店は、私服警備員が巡回をしており、防犯には十分対策をいたしております」といったような文言だった。


「ご来店のお客様へ」と一旦オブラートに包んでおきながら、めちゃくちゃ悪い人に向けているメッセージだなと思った。


何もしていないのに、どの人が私服警備員か窺ってしまう。


逆に、カゴなんか持って「買い物してますよ」というオーラを放っている人の方を疑ってみたりしてしまう。




昼食を持ってレジへ。


レジ店員は、研修中の西村さんという若い女性だった。


首からかけた名札に「わたしは笑顔であいさつします」という一言が書いてあった。


しかし、西村さんは笑ってはいなかった。


マスク越しにも分かった。


やる気がないというわけではない真顔だ。


緊張している風にも見えない。


きっとこの人の地の顔なのだと思った。


西村さんは、消え入りそうな声で会計を読み上げている。


よっぽど意識していないと、すぐ固い表情になってしまうのだ。


だから、「わたしは笑顔であいさつします」という一言の入った名札で自分を戒めているのだ。


笑顔でお客さんに接することができるように。


いや、もしかしたら、そのことを少し嫌味な店長が指摘してきて、「君はじゃあ名札に『笑顔であいさつします』って入れといたらいいよ」などと言われたのかもしれない。


その時もうまく笑って返せなかったのかもしれない。


僕は、「ありがとうございます」と目を見てお礼を言ってみた。


西村さんは、少し申し訳ないような顔をして会釈した。


スーパーを後にする。


地上へ上がるエスカレーターは、いつもより動くのがゆっくりだった。


この辺で擱筆。

写真は「入れ物汚いと信憑性減っちゃうよ。」