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Photo小説:『もしも私が消えたなら』

2020.09.29 12:19
『もしも私が消えたなら』


 もしも私が自分の手で、この世界から自らを消したなら、親戚(あなた達)はなんと言うだろう。


 「まさか、あの子が」


 「子供の頃からしっかりしていて、落ち着いていて、芯の強いあの子が、なぜ、どうして?」


 「そんなに悩んでいたなら相談してくれれば良かったのに」


 「何があったのか?」「何を悩んでいたのか?」


 きっと、私が消えたくなった理由など解らないだろう。


 そして、他人(あなた達)は、憶測を一人歩きさせて、あれこれと解ったような事を呟き、哀れみ、冥福を祈るのだろう。


 きっと、理由を書き残しても親戚(あなた達)には解らないだろう。


 生きる事に追い詰められていた時に、手を差し伸べる事もなく、悪気なく発した、「頑張って」「お父さんの事これからもお願いね」「早く結婚しろ」「高望みしてるから結婚出来ない」「あなたは強いから」「あなたはしっかりしてるから」それ等の言葉が私を切り刻み、絶望させた事に。


 物心ついてから、頑張れと言われ続け、頑張り続け、これ以上頑張れない時に言われた「頑張って」という言葉の痛さを。


 絶望を笑顔の下に隠し、冗談めかしてやり過ごした事に気付かぬまま、「なぜ」を永遠に繰り返し、いつか、その事さえも忘れてゆくのだろう。


 大切な誰か、好きだった誰かの訃報を聞くたびに、私はいつも思ってしまう。


 もしも私が消えたなら、今は亡きあの人たちが言われたのと同じ事を私もきっと言われるのだろうと。


 だから、私も消えゆく時は、理由は残さず消えてゆく。


 もしも私が消えたなら、あなたは泣いてくれますか?


 あなたの腕で私を包んで、少しだけ悲しんでくれますか?


 もしも私が消えたなら、あなただけ、そっと送ってくれたなら、私は生まれた甲斐がある。


 たった一人、あなたが居てくれたなら、もしも私が消えたとしても、私はきっと孤独じゃない。


 もしも私が消えたなら、あなた達は、あなたは、なんと言うのだろう。


photo/文:麻美 雪