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マッキンダーの地政学 ‐ デモクラシーの理想と現実

2020.09.30 14:22

   みなさんは「地政学」という学問を御存知ですか? Wikipediaによると「地理的な環境が国家に与える政治的(主に国際政治)、軍事的、経済的な影響を、巨視的な視点で研究するもの。」と定義されています。本ブログでも以前御紹介した、東アジアの地政学を扱った「日本人が知るべき東アジアの地政学」(著者/茂木 誠)という書籍がありました。最近、地政学の観点から外国諸国の外交を論じるのがちょっとしたブーム(?)になっているせいか、リアル書店においても、中国やアメリカなどの国の外交を地政学の見地から考察する関連本を見かけます。今回御紹介するのは、その地政学の中で、古典として取り上げられる「マッキンダーの地政学」(原題/Democratic Ideals and Reality,  著者/ハルフォード・ジョン・マッキンダー)です。

     マッキンダーさんは、イギリスの地理学者、政治家です。マッキンダーさんは本書において「ハートランド理論」を提唱。この概念は後に地政学の基礎的な理論付けとして発展します。「ハートランド理論」というのは、彼が研究活動を行っていた時代( 1900年代初頭)のヨーロッパ諸国の外交政策や世界地図を念頭に、ユーラシア大陸の内陸部を中軸地帯「ハートランド」(下の図の PIVOT AREA)とし、その外側のユーラシア大陸東西の細長い地帯を「内側の三日月地帯」(同 INNER OR MARGINAL CRESCENT)、更に南下して南北アメリカ大陸の大西洋海岸線からアフリカ大陸の南端、オーストラリア大陸を突き抜け太平洋から北米大陸の太平洋側までの地帯を「外側の三日月地帯」(同 LANDS OF OUTER OR INSULAR CRESCENT)とし、「東欧を支配するものが、ハートランドを支配し、ハートランドを支配するものが世界島を支配し、世界島を支配するものが世界を支配する。」として、イギリスを中心とした海軍強国が陸軍強国による世界島支配を阻止すべきだ。」と論じたものです。(下の地図参照)

   更にマッキンダーさんは、国により大陸的勢力のランドパワー、島国で海洋勢力を基礎とするシーパワーというように性格付けを行い、この国は歴史的に見て、大陸のこのルートを使って外国へ進出する傾向がある、とかその国は歴史的に見て海洋進出する勢力が強い、とかその国の外交や戦争における戦略を地理的な観点から論じました。

  マッキンダーさんは、本書において取り上げている学問を単に「地理学」と呼んでいます。また、本書の原題は「Democratic Ideals and Reality」となっていて、どこにも地政学を意味する「Geopolitics」という言葉は出てきません。おそらくは、本書が書かれた頃はまだ、学問が現代に比べ細分化されていない時代で、国際政治において、地理学と政治学が混ざったような性格の学問は、地理学か政治学の中で論じられていたのかもしれません。そこに、マッキンダーさんが本書の内容のような、その国の地理的要因により外交の考え方が形成される、という新しい考え方を世間に広め、それが後年、Geopolitics(地政学)という学問として認知されてきたのだと(私的に)推測します。そのせいか、本書の「ハートランド理論」の提唱はある面とてもシンプルです。例えば、古代エジプト文明の時代の船乗り達が抱いていた世界観から出発し、その後徐々にその周辺に文明が発展し、いくつかの文明が互いに戦争や商業で交流を深めていくにつれて広がっていく世界観を概観しています。あまり細かいことを記述せず、また説明に使われている地図も(要点だけを説明するようなシンプルな描き方に)好感がもてました。換言すると「昔からの文明を概観するとそこに住む人々の行動は、地理的な要因によって規制されている、と考えることができます。」と地政学紹介のような内容にもなっています。昔からのヨーロッパのいろいろな国や民族が、地理的要因を利用して勢力を拡大していった過程、また逆に、地理的要因により勢力拡大を阻まれた経緯とか、そいうった説明が歴史的に一貫性を持って語られていて、それが、力強い説得力になっているのが本書の魅力だと感じました。

  おそらく現代の地政学の学者さんなら、もっと表現を細かく、過去からの引用も多くし、問題提起もしたりして国際情勢を論じる(その分ページも分厚くなり、内容も複雑になってしてしまう)のでしょうが、本書はある種、とてもシンプルで、本質を突いているように感じます。つまり「人間の考えや行動はその人が住む回りの環境(地理)に支配されている、」というわかりやすい主張が根本にあり、そこから、ナイル川周辺に興った文明である古代エジプト文明、そしてその周辺から、ヨーロッパへ広がっていく諸文明を概観していくというしていく構成にしているためだと思います。

   しかし、こうやって私も地政学を扱った書籍の紹介していますが、(本書で述べられているヨーロッパの地名に不慣れなこともあり) 本書を読むときはヨーロッパ地図を片手に読んでました。今回勉強になったのは、本書の内容もそうですが、実はヨーロッパ地図を眺めて、地中海、黒海、カスピ海等の内海の位置とかその海の周りにどういった国があるのかとか、その北には。。山脈がある、とか、ロシア、東欧、西欧諸国等々のユーラシア大陸の地理でした。そういえば、こんなにヨーロッパ地図とにらめっこしたのは、久々だったように思います。。