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脳を鍛えるには運動しかない!

2020.09.30 14:24

  みなさんは日頃から運動していますか?  AI(人工知能)が徐々に社会の中に取り入れられるような現代にあって、実は人間の脳にはまだよくわからないところがたくさんあるそうです。 本書「脳を鍛えるには運動しかない!」(著者/ジョンJ.レイティ、エリック ヘイガーマン )は、このヒトの「脳」を日頃からベストな状態で機能させるするためには「運動を日常の生活に取り入れよう」という見地から、今までに行われた運動が脳を活性化させる実験の紹介やその結果、また、いろいろな社会地域や学校で行っているボケ防止や子供たちの学力向上のための運動を取り入れている取り組みなども紹介しています。本書の原題は「SPARK:The Revolutionary New Science of Exercise and the Brain」。

  ”spark" という単語には「火花」とか「閃光(せんこう)」「ひらめき」とかいう意味があります。おそらく医学博士でもある著者は「運動による気力の充実、脳の活動促進」というイメージをこの単語に込めて付けたのだと思いますが、日本語のタイトルは「脳を鍛えるには。。」。あまりに直接的で、はじめリアル書店で見た時に「無味乾燥の実用書かな?」ぐらいに思いながらページをめくってみましたが、アメリカ、シカゴの高校の取り組みが紹介されているのを立ち読みするうちに、つい本書に引き込まれて購入を決意。近年のいろいろな脳と運動に関する研究の成果や結果、著者の知人のエピソードとかも挿入し、いかに運動が我々の脳を活性化させ、知能を高めるか、をあまり難しくしない程度に脳の機能の解説などを織り交ぜ検証している姿勢に好感が持てました。

  著者のレイティさんは、「運動すると気分がすっきりすることは誰でも知っている。運動で爽快な気分になるのは、心臓から血液がさかんに送り出され、脳がベストの状態になるからだ。私に言わせれば、運動が脳にもたらすそのような効果は、体への効果よりはるかに重要で、魅力的だ。筋力や心肺機能を高めることは、むしろ運動の副次的効果に過ぎない。私はよく患者に運動をするのは、脳を育ててよい状態に保つためだと話している。」(P8序文より)と語ります。

  レイティさんによると脳内には、1,000億個ともいわれるニューロン(神経細胞)が存在し、そのニューロンの枝と枝とがつながりシナプスが形成され、脳内で発生した電気信号は、そこから神経伝達物質により化学信号に変換され、次々にニューロンへ伝わっていくそうです。一昔前までは、このニューロンは人が年を取るに従い、堅い磁器のように固くなり、固定されていくものと考えられていました。また、一昔前までは、飲酒をするとニューロンが破壊されてしまう、とも考えられ、特に未成年の飲酒は青年期に完成する脳に悪影響を与える、と考えられていました。しかし、近年の研究によりわかってきたのですが、実はこのニューロンはすごく柔軟で、しかも、絶えずつなぎ直されているのです。(このニューロンの柔軟性を「可塑性」と呼ぶそうです。)また、(未成年の飲酒に関する問題はともかく)ニューロンはいったん破壊されても再生、増殖することがわかったのです(ニューロン新生)。

  そして、近年わかってきたのは、そのニューロンの再生、増殖を促すために大切なものが実は「運動」なのです。運動をすることで、このニューロンの情報の送信、結合を促す神経伝達物質(主にグルタミン酸、ガンマアミノ酸)と、ニューロンの回路(脳のインフラ)を構築し維持する脳由来神経栄養因子(BDNF)が脳内で活発につくられていくことが最近の研究でわかってきました。さらに、運動した後に、ニューロンは結合しやすい状態になることがわかってきました。つまり運動をしてから学習するとその内容を覚えやすくなるのです。

  レイティさんは、特に本書では「有酸素運動」(ウォーキング、ジョギング、ランニング、水泳、自転車)を日常に取り入れることを推奨しています。更にそういった運動に「仲間と一緒に考えながら体を動かす要素」のある運動(例えば、チームでやる運動、バスケットボール、フットサル、、etc)も挙げています。

    では、どうして「運動」はヒトの脳に良い影響を与えるのでしょうか。。 レイティさんは次のように語ります。「私たちの遺伝子には、遠い祖先の行動様式がしっかり組み込まれていて、脳がそれをつかさどるようになっている。そのため、その活動をやめてしまうと、10万年以上にわたって調整されてきたデリケートな生物学的バランスを壊すことになる。簡単に言えば、体と脳をベストの状態に保ちたいなら、この歴史の長い代謝システムをせっせと使うべきなのだ。古代の活動はおおまかに、ウォーキング、ジョギング、ランニング、全力疾走に置き換えることが出来る。そして、この祖先の日常の活動を真似しなさい、というのが私に言える最善のアドバイスだ。」(P312)つまり、ヒトは狩りをすることで食べ物を獲得していました。狩りをするには、特に大型動物を狩猟する時には、集団で仲間とチームをつくり、仲間とコミュニケートしながら、考え、動いていました。現代人にもその祖先のDNAは強く残っているのです。

  本書では、いろいろな心理(ストレス、不安、うつ)が脳にどのような影響をあたえるか。女性のホルモン変化において運動が女性に与えるポジティブな影響、ヒトが加齢することによる脳への影響、どの程度の運動がどのぐらいの時間必要で、どのくらいの効果を与えるか。。などいろいろ紹介しています。人生100年ともいわれるこれからの長寿社会にあって、健康、学び(学習)、人間関係は今まで以上に大切な無形財産です。この無形財産を維持、増進するためにも「脳」をどうやって管理するか理解することはとても重要だと思います。これからも脳については今までわからなかったことが解明されていくと思いますが、今以上に「運動」が我々の脳に与えるポジティブな事実が解明されていくと思います。運動が好きな方、苦手な方、限られた時間で効率的に学習したい方、ボケ防止に何かしたい方、、、是非、御一読下さい。