あがまちインタビュー(4)
県外から訪れた大学生2人が、阿賀町とそこに住む人の魅力を探ろうと、黎明学舎のスタッフと町に住む方にインタビューする企画。全4回でお届けしています。
第4回目は、黎明学舎の塾長で、魅力化コーディネーターとして活動している西田卓司さんにお話を伺いました。今は阿賀町教育留学制度の実施に向けて準備真っ最中です。
ー阿賀町に来られたきっかけは何ですか。
2018年3月に茨城大学のコーディネーターを退職して、1年ほど移動本屋をやりながら、全国の友達に会いにいく旅をしていたんです。今考えると、「自分は必要とされてないんじゃないか」っていうのになっていたなあと。承認依存ですよね。(笑)。それで11月に島根を訪れたとき、友人が携わっていた「高校魅力化プロジェクト」に興味を持ち、新潟でも行われていることを知り、翌年3月に見学に行った際に誘われました。それまでは大学生向けの仕事が主で、高校生を対象にしたことがなかったので、かなり葛藤しましたが、プロジェクト自体が魅力的だったし、他の二人のメンバーが素敵な人たちだったので、この人たちとなら何かできるかもしれないなと思い、2019年5月から阿賀町に住み始めました。
ー阿賀町に移動されて町に対しての印象はどうですか。
きれいですよね。とにかく景色はほんとに。星も綺麗だし。川にはよく霧が出て、朝はめちゃめちゃ清々しい感じがあります。自転車で走って川で写真を撮りたいっていう衝動によく駆られますね。あと野菜が美味しいのでよく直売所に行きます。
ー阿賀町で住む人々のコミュニティの特徴はありますか。
一言で言うと包容力ですね。人の関係性があったかい。それとアクシデントに強い感じはしますね。
ー西田さんは一緒に働くスタッフを「ドリームチーム」と呼んでいますが、前の職場と比べて働き方はどうですか。
めちゃめちゃ楽ではあります。(笑)丹羽さんフォローしてくれるからな〜。(笑)僕が気づかないところに気づいて、ちゃんと言ってくれるから。そういう意味で、思ったことを言える環境をつくってきたことは大きいと思いますね。場をチューニングしてる、というか。
打ち合わせしてても、それは違うんじゃないかってポンポン出るんですよね、黎明学舎の会議は。でもそれは、自分はこう感じたっていう「違和感の表明」であって、否定されてるのとは違って、みんながその場に一体化していれば、それはもう否定じゃなくなってるというか。
ー西田さんがとらえているもっとも大きな課題意識はどこにありますか。
一番の課題はアイデンティティの危機だと思っています。2004年中越地震の時から大学生と関わる中で、自分が存在の承認をどう得るか、をすごく必要としている一方、それがすごく得にくい世の中になっている。地域や家族、会社というコミュニティが弱くなっているから、個人が宙に浮いてる。それにより必要とされてないみたいな感情を抱きやすい。だから、存在の承認ってどうしたら得られるんだろうってずっと考えてて、僕はその方法は「場のチカラ」にフォーカスする、だと思ってるんですよ。場のチカラを高めることに意識を集中することで、結果、一人ひとりが大事にされるのではないかと。
ー場のチカラを高めるにはどのようにするのでしょうか。
一人ひとりが話を出せる雰囲気を作る、あるいはこの人が今何を感じているのかちゃんと聞く、ということで場の力はどんどん高まっていくんです。コミュニケーションの手法でいえば、「印象に残ったこと」を訊くみたいな。教育の業界でよく聞いてしまう、「気づいたこと・学んだこと」は、事象を自分の中で編集して、これによってこれを学びましたっていう言葉が出てきちゃうんですよ。でも「印象に残ったこと」は、なぜそれが印象に残ったのか?、ていうのを本人はわからなくていい。しかもそれを場に出すことで、なんでこの人はそれが印象に残ったんだろうってことをみんなが考えられる。それはすごく面白いし、場と一体化する手法だと思うんです。要は、印象に残ったことは言語化と言語化以前の間を出せるっていう、境界線を曖昧にするアプローチです。
ーなるほど。未編集のまま出せることは、出すハードルを下げるうえ、その曖昧さを場で共有することで本人だけでは辿りつけない新たな発見が生みそうですね。場づくりの他、西田さんが課題として取り組んでいきたいことはありますか。
僕は人に直接何かをできるとは思ってないんです。環境に働きかけることしかできない。環境に働きかけるのは、いわゆる「機会の提供」なんですけど、差し出された本人が掴むか掴まないか全然わからない中でそれを提供してるわけです。そういうのをやりたいんです。この目的のために機会を提供するんじゃなくて、ただただ機会を提供したいっていう。(笑)
学びの現場も「手段としての学び」から「機会としての学び」へとシフトさせていきたいなと。目的のために何か今これを学んでますっていうのは、端的に言ってつまんないと思うんですよ。楽しさの本質は予測不可能なことが起こることだと僕は思っていて、学びも、達成した!っていう喜びよりも、これをやるとどうなっちゃうんだろう、とか見つけた!っていうのが楽しいはずなんです。だから、「達成」から「発見」へシフトさせたいし、「評価」じゃなくて「承認」を必要としているし、「個人」じゃなくて「場のチカラ」にフォーカスしたいな、と僕は思います。
ーそのような課題に対し阿賀町で向き合っていくことにどのような期待がありますか。
この町でやらないと辿り着けない地点があるんだと思うんですよ。例えると、この町というのがドアになっていて、このドアを開けないと辿り着けないところがあるっていうのは純粋にもう楽しいですね。これは完全に思い込みなんだけど、だからやってみたいし、中学生にもそういう感覚で来てほしいですね。だからほんとに一緒にそのドアを開けてくれる人を今募ってる感じですね。扉の向こうを見てみたくないか、という感じの。(笑)好奇心ですね、基本的に。
ーお話を聞いていて、西田さんの「面白さ」を求める思いの強さを感じました。その根源は何でしょうか。
一つでは言えないですが、出会ってきた人の苦しさというか生きづらさというか、そういうのがなんでなんだろうって解き明かしたかったですね。なんとなく自信がなくて評価を気にする大学生たち。それまで他者評価が軸だった学生が、大学で評価者を失う不安を抱え、さらなる評価を求めて資格をとったりとか、公務員試験の勉強を始めたりだとか。まるで他者評価の檻の中に自分から閉じこもりにいっているのではないかと。
そうじゃなくて、場のチカラに注目し、場のチカラを高めて、自分がその構成員であるという体感を積み重ねると、存在の承認を自分なりに得られるのではないかと。そうすることでようやく、評価の呪縛からやっと抜け出せるみたいなところがあるんじゃないかなと思っていて。そういうような謎があって、それが解ける瞬間があるんで、それが面白いです。自分の中の違和感を解きたいんですよね。
ーこれから訪れる中学生をどのような思いで迎えたいですか。
いっしょにつくっていきましょうって感じですね。地域の未来と学びの未来を創ろうって。それをパートナーとして一緒に考えていきたいです。
~~~ここまでインタビュー
いかがでしたか? 西田さんという人は、その思考も、好奇心も、まるで底無し沼のようで、ここに書ききれないことも多くありました。西田さんは本屋もされていて「問診票」を用いた「本の処方」は独特で、私も実際に受けましたが、かなり楽しかったのです。正しさを決めつけず、疑問を常に抱きながらアップデートしていく彼の姿勢にも魅力を感じました。
増川さんのインタビューも経て、この町は、存在の承認を感じられる町の雰囲気と、存在の承認を感じられる場づくりを実践している人たち、二方から得られる基盤から、初めて来る人が過ごしやすく、新たなスタートが切りやすい場だと思いました。(睦希)