あなたにも分かる!オールドヴァイオリンの鑑定(スクロール・渦巻き編)画像解説あり
こんにちは!
オールドヴァイオリン専門店
㈱ダ・ヴィンチヴァイオリン
山口保行です。
オールドヴァイオリンを鑑定するには、全体の印象に加えて特徴的な部分を比較する必要があります。オールドヴァイオリンディーラーともなれば全体を見て一瞬で「これはは〇〇(国)製で✖✖年くらいに製作されたヴァイオリンだな」「(製作者)〇〇〇、もしくはそのお弟子さんかな」等わかる楽器もあれば、とても迷う(わからない)楽器も多々あります。
そこまで厳密でなくても誰でも(お子様でも)ある程度の鑑定は可能です。以前、フランスのオールドヴァイオリン(分数)を使用していた小学生の教え子が、フルサイズ(4/4、大人用)のフレンチヴァイオリンを見て「俺のと同じだ!」と言っていたことがあります。
楽器の購入を考えている方へ、少しでもお役に立つよう、(オールド)ヴァイオリンの見方(ちょっとした鑑定)を進めていきましょう。今回はその特徴一つであるスクロール(渦巻き)についてお話しします。
スクロールは製作者(もしくはその流派)の「特徴」および「手作り感」が表れる部分です。特徴がでるので比較ができ、見方、鑑定のポイントになるのです。
私がオールドヴァイオリンに興味を持った10代後半、読んでいたオールドヴァイオリンに関する書籍で糸巻き全体を横から撮影した写真をたくさん並べているページがありました。
「ヴァイオリンの銘器」渡辺恭三(音楽之友社)P22~23
最初は何度見ても違いが良く分からなかったのです(写真だけでは名前が分からず当時の書き込みがありますね)。そこで今回は一般の方でもわかりやすいポイントを画像を使ってお伝えしようと思います。
今回はスクロールを横から見て解説します。
<あなたにも分かる!スクロール鑑定のポイント>
「渦巻きの中心(形と大きさも確認)から、どのように渦を巻いている(広がっていく)のか」見るだけでも違いを確認できるかと思います。逆に言えば、どのように、どれくらい彫っているのかを見るのです。他にもポイントはいろいろとあるのですが、今回はそこに絞って見ていきましょう。
最初から難しいですが、まずは基本からです。
①新作イタリアン Luca Primon 2000
②モダンフレンチヴァイオリン Andre Conot 1934
同じ形に見えますか?「違うのはわかるけれど、同じようにしか見えない」という方もいらっしゃるでしょう。もちろん、極端な違いはありませんが、細かな違いを知ることで全体のイメージも変化するかと思います。では①②を並べて比較して解説しましょう。
写真左にある新作イタリアン①は中心から伸びていく渦巻き全体が円に近く、最後(上部)の方で一気に広がっているのがわかります。一方写真右のモダンフレンチの②は中心から回って下に向かって広がっているため少し楕円形に見えます。下の広がりが大きい分、渦巻きの終わりにかけて上部は①ほど広がっていませんね。
もっとわかりやすい例を出します。ではこちらはいかがでしょうか?
③オールドジャーマンヴァイオリン Joseph Hornsteiner ca.1760
②と③を比較しましょう。
オールドヴァイオリン③の渦巻きは①のように円に近いです。でも②と比較すると全体的に渦巻きが小さいですね。そして渦巻きの終わり(上部)から一気に幅が広がっていき太いままペグ(糸巻き)の方に降りていきます。どちらかというと「渦巻きと糸巻き側」みたいに見えます。②は渦巻きの終わり(くびれ、「のど」とも言います、楽器をつるす時に引っ掛ける場所)が完全に細くなってそこからペグに向けて広がっていますが、③は幅広のまま降りていくのがわかります。また、③は渦巻きの中心(目とも言います)から「くるりん」と彫ってあるので私にはとっても可愛いらしく見えます。
では個性的なオールドヴァイオリンのスクロールを見ていきましょう。
④ジャーマンオールドヴァイオリン Franz Knitl ca.1780
前回の記事でご案内しました楽器です。いかにもジャーマンオールド的な形です。円に近い小さな渦巻きで最後に広がっていくパターンです。
⑤オールドブリティッシュヴァイオリン John Betts school ca.1800
とても大胆な切込みですね。製作者がノミで切り彫っていく姿を想像してしまいます。このような製作者の手作り感があるのがオールドヴァイオリンの良さだと思いまいます。
⑥オールドブリティッシュヴァイオリン Thomas perry and William Wilkinson ,1830
①~⑤と比較しても非常に個性的だと思いませんか?こちらは渦巻きがとても小さく中心に集中していますね。素朴な感じがします。
イタリア・モダンヴァイオリンの一つを見てみましょう。
⑥モダンイタリアンヴァイオリン Enrico Melegari 1875
一見すると⑤似ていますが、中心が左寄りで③と⑥の中間に見えます。ただこのスクロールは別の角度(正面、背面、立体感)で見ますと、非常に特徴的なので製作者を特定しやすいのです。このように作りにおいて特徴的である場合、誰でもある程度の鑑定(製作者の特定)は可能ですし、真贋で悩む必要もありません。
コンテンポラリー(新作)だけでなく量産品であってもそれぞれの特徴があります。ただ最近の新作の場合は彫り方が上手過ぎてかえって違いや特徴が出にくく、フランスのモダンヴァイオリン(ストラディヴァリ型)同様に(スクロールを見ても)製作者の特定が難しいかと思います。
量産品でも価格帯の低いランクの物を拝見しますと手間をかけていない、もしくは機械(彫り)ということが作りにでているので、製作者の特定よりも「機械・量産品だな」という結論を導く結果となります。
(今回はスクロールですが)オールドヴァイオリンの鑑定(見方)のポイントを知ることによって、鑑定の本質である製作者の特定(人、国、年代、流派、コピー等)だけでなく、製作者が特定できない楽器であってもつくりの良さ、手作り感、それに独特な形状であってもそれを評価できる柔軟性が養われます。ここは非常に重要なことでプロ・アマを問わず非常に偏った見方(イタリア以外はダメみたいな)をする方も多く、優れた楽器を見逃すことにつながります。
現在活躍されている製作者や職人さんの方々への尊敬と同様に現代に残されたオールドヴァイオリン(製作者や修理人さん)にも温かい目で見てもらえると幸いです。
今回もヴァイオリン選びに困っている方や、オールドヴァイオリンに興味を持っている方の参考になれば幸いです。
今日もありがとうございます。
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