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#076.チューニング2〜主管はピッチを調整するところではありません

2020.11.02 20:10

前回よりチューニングをテーマに安定したピッチで演奏するために大切なことを角度を変えてお話しています。続けて読んでいただけると発想に偏りがなくなると思うので、もし前回の記事をご覧になっていなければそちらもぜひ。

さて今回は「言われてみれば」のお話です。


皆さんが主に使っているトランペットは多分B(ベー)管だと思います。あれはなぜ「B管」と呼ばれるかご存知ですか?簡単に言えばピストンを押さない、いわゆる「開放」の状態で鳴らせる音がB音を基音とした倍音だからです。

では、もう少し掘り下げてお聞きします。常に開放でBの音が出るのはなぜでしょうか。


これは、管の長さによるものです。


管の長さは音の高さと関係があります。管は長くなれば低い音が、短ければ高い音が鳴ります。トロンボーンのスライドを想像するとわかりやすいですね。トロンボーンはスライドをほんの少し動かすだけでピッチがかなり変わることを知っている方も多いと思いますが、それを元に考えてみましょう。



楽器製作者になって考えてみる

あなたが楽器製作者だとしましょう。これからB管のトランペットを作るにあたり、まずは管の長さを決定する必要があります。この時、ほんの少しでも長さが狂えば、ピッチの悪い楽器になってしまいますから、正確に計測しなければなりません。だって適当に作って楽器ごとに鳴るピッチが違っていたら、そんな楽器誰も買ってくれませんよね。だからとても丁寧に作るはずです。


主管の長さ

視点を変えます。チューナーで自分の出した音のピッチを確認した際、高ければ抜き、低ければ入れるというのは物理的にも正しい当然の対応策です。


しかし、「自分は常にとても高いピッチになってしまうから」と、2cmも3cmも主管を抜いている方、結構いらっしゃいますよね。先ほどの楽器制作の話を思い出してください。楽器は高いピッチで鳴るように設計されてはいません。当然原因は奏者のほうにあるわけで(前回記事参照)、言うならば「上ずったピッチになってしまう責任を楽器のほうになすりつけている状態」です。そんなつもりはない、と思った方も多いでしょうし、この言葉の使い方が正しいかわかりませんが、楽器の立場からすると、きっとそんな気分かな、と思うわけです。


主管を抜きすぎると、設計上のピッチバランスが大幅に狂うわけで、結果として音を外しやすくなります。楽器がバランスを崩していて、奏者がとても上ずったピッチで音を出して、それで正しいピッチで演奏しようというのは、あまりにも難易度の高いことをしていると思いませんか?


こうした状態から生まれる音は特徴的で、私の言葉ですが「低くて上ずっている」響きになっています。チューナーの針が±0を示していても、耳に届く音色、響きが上ずっているのです。チューナーでピッチを合わせたのに、なぜかキレイなハーモニーを作れない経験をしたことがあったら、原因はここにあると考えられます。



もっと単純に考えてみましょう

ここまで書けばもうおわかりと思いますが、もっとシンプルに、主管はあまり抜かない状態で安定したピッチが鳴る体の使い方をすることが最も楽器の性能を発揮できるリスクの低い状態であるわけですから、ピッチが上ずりやすい場合、「どのような体の使い方をすればピッチが上ずらないで鳴るのか」を研究することが最重要です。


そのための第一歩として、まずは楽器に責任を一切押し付けないよう「仮にピッチが高くても主管をたくさん抜かない」と決めましょう。普通の楽器でしたら5mmくらい抜いた状態で十分です。


よく主管の抜き差しの話題には「気温」というワードが登場しますが、室内で演奏する分にはそこまで影響があるとは考えにくいです。もちろん暖房が一切ない氷点下に近い環境で演奏すればピッチは低くなりますし、炎天下の屋外でベルで焼肉ができるくらい熱せられればピッチは上がるでしょう。しかしその状態で演奏をするというのはピッチ以前に人間にも楽器にも負担がかかりすぎるので、環境を整えるほうを先に考えるべきです。


もしマーチングなどでそうも言っていられない場合は、もはや安定したピッチで演奏することは無理ですからあまり気にしないほうがいいです。



ミュートは仕方がない

ただし、ミュートを装着した場合は主管を意図的に抜き差しする必要があります。ミュートはベル部分を塞ぐわけですからオープンの状態よりも空気圧が高まりやすくピッチは上がります。その場合は主管を少し抜くことになりますが、ではどのくらいピッチが上がり、どのくらい主管を抜くべきか、これはメーカーなどによっても違うので実際に調べる必要があります。


ちなみに近年発売された上質な(高価な)ミュートの中には、装着してもピッチがほとんど変化しないものもあります。


また、作品によっては一瞬のうちにミュートを装着して、すぐまたオープンして演奏、なんてこともよくあります。その場合はいちいち主管を抜き差しする時間がありませんから、その間のピッチの不安定さは諦めるしかありません。変に意識しすぎると先ほどの「高いピッチをフィジカル面で強引にずり下げる」状態になって音を外す可能性が高くなるので注意しましょう。


ということで、今回は楽器とピッチの関係について考えてみました。

楽器は最高の状態で作られていると考えることが安定したピッチでの演奏には大切です。


それではまた来週!




荻原明(おぎわらあきら)

トランペットオンライン講習会、次回は11月15日(日)「音楽理論を身につけよう(初級編)」です。ぜひご参加ください!

トランペットから音を出さない聴講型のオンライン講習会なので、ご自宅からでもご参加可能です。次回は「音楽理論を身につけよう(初級編)」がテーマです。

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