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Angler's lullaby

I Loves You,Porgy.

2020.10.11 09:00
「タ。 タ。 トゥ。 タァーン・・・。」


まるで、ピアノじゃなくて、骨董品屋の片隅でホコリをかむった古いジャズギターの音色のような。


もう、この最初の4音で、それだけで、もう。本当に。


なのです。




今年は秋が早い。


もしかしたら、新型コロナのせいで、全世界の工場が仕事をやめて、そのせいで地球が冷えたんじゃないか。


そんな気にさせられるくらい秋が早い。まるで僕が小さかったころみたいだ。


そして、それはとても嬉しいこと。


秋と冬が好きだ。秋らしい秋。冬らしい冬がいい。


こればっかりはしょうがない。理由も特にない。昔っから、ずっとそうだった。


音楽もそう。どこかはかなげで、さみしげなものが好きだ。これも本当に小さい頃から。

(最初に買ったレコードは稲垣純一のバラードだったと思う。多分小学生の頃。)


別段、ここまで、壮絶な人生を歩んできたわけじゃなくって、はたから見たら、フツーに、ふつーの、平平凡凡なオジサンにすぎないんだろう。


だけど、本人的には、何だかどうにも、ここまで生きづらく生きてきたことばかりが記憶に残りがち。


昔っから、周りの人たちがなんでそんなに楽しそうなのか分からないことが多かったし、時々、数十年前のこっぱずかしい出来事がワッと思い出されて、ひどく自己嫌悪になったりする。


ネクラな楽天家。昔友人に言われた僕の性格。多分当たっている。


心にヨロイを着せられるようになって、馬鹿を言ってみんなを笑わせたり、でっかいことやってみんなを驚かせたり、道化を演じていれば、自分の中身を見せなくて済む。


そんなことはもう、とっくの昔に習得している。


だけどまあ、やっぱりめんどくさいものはメンドくさい。


秋になるとなおさらそんな気分が深まってくる。


Don't care me.


Leave me alone.


しばらくはそんな気分。そしてまたこの時期はビルエヴァンスと太宰治の季節でもある。


昼間はコーヒー、夜はアルコールをすすりながら。


破滅的とも言われる2人だけど、残された作品たちには命を削って表現しきったであろう美学があります。


ピアノから流れ落ちる複雑なコードの残響に。


悲しさを美しさに変換し、昇華させる形容詞たちのはざまに。


美しさは間違いなく普遍的な価値で、トラウトフィッシングだって魚が美しいからこその遊び。


もちろん彼らの足元にも、足の親指の爪先に引っかかった靴下の繊維1本にも届くわけはないのだけど、僕にとっちゃ、鱒釣りがその表現活動。ささくれがちな心をしずめるための。


大体、トラウトたちって、気難しくって、孤独で、でもとてもとても美しい。


こんな感じでしょ?勝手なイメージかもしれないけど。


だからこそいい。釣り師は少しずつ少しずつ狙う魚の性格に似てくるもんです。僕の持論ですけど。


だからという訳ではないのですが、もう国産の高級リールをメインに使うのはやめました。


渓流や本流の現場でメインのリールに何かトラブルがあったらピンチヒッターで出場してもらうくらいにする。


理由は何より釣れた時の写真映えが違うということが1番なんだけど。


ちょっと大げさだけど、それは僕にとって多分「恋」と「愛」の違いに似ているような気もしている。


恋は、興奮と刺激。相手に求めるもの。


コレを使えばもっと、確実に快適に釣れる。もっともっと釣りたい。そのためにリールの性能を求める。


愛は、安らぎと少しのさびしさ(全ていつかは必ず終わることを知っているから)。そして相手に与える喜びでもある。


コレで釣れると嬉しい。美しい思い出を残したい。そりゃ現代リールに比べるとポンコツかもしれないけど、それを使ってるアングラーだって50年モノのポンコツだし。


何かご縁があって出会ったヴィンテージ。いっぱい手を掛けて、ゆっくり付き合っていこう。


もちろん、現代のリールにたくさんの愛情を注ぐ方もいらっしゃるでしょう。


あくまで僕の感覚です。どうかお気になさらぬよう。


いつもより秋が早いと言っても、まだまだ昼間は暑い。


スプーンとカーディナル54で湖に行き始めるのはもう少し先。



それまで、僕の釣り時間がまた動き始めるまで、しばらく秋の夜長は、2人のアーティストに埋めてもらおうと思う。