◇可能性を秘めた大切な一歩
月に一度、大阪の梅田の地下街にある散髪屋さんに行っています。
その散髪屋さんはホワイティという通りを、まっすぐに進むと左側にあります。
目が見えていた時は、当然ながら何も問題はありませんでした。
それが見えなくなった最初の頃は、通りに点字ブロックが敷かれていなかったので、長い距離をまっすぐ歩くのは結構難しくて、苦労しました。
通りの両側は飲食店が並び、人通りも多いので、看板や人にもよくぶつかりました。
毎回その通りを感覚で進み、この辺りかなと思うところで近くの人に声を掛け「この辺に散髪屋さんはありませんか?」と尋ねるのですが、距離が離れているとなかなか見つけられず、一緒に探してもらいました。
毎回、そうやって誰かに助けてもらいながら行っていました。
ある時、店までの歩数を数えたらスタートから約300歩の距離でした。
それからは300歩ほど歩いて、尋ねるようにしたので、早く見つけられるようになりました。
そんなある時、点字ブロックが新たに敷かれ、「これでまっすぐに歩けるっ」と、喜んだのをよく覚えています。
もう一つ嬉しいことは、お店の少し先で点字ブロックが通路を横切るように敷かれてあるので、そこまで進みUターンをして一人で店を見つけられるようになりました。
一人で行けるのは本当に嬉しいことで、何か新しい道が開けた気がしました。
ただ帰りは良いのですが、お店に行く時は点字ブロックが右側に敷かれているので人の流れと逆になり、よくぶつかりもしました。
そして盲導犬・ミッケルが来てくれ、一緒に行くようになりました。
でも最初は任せきるのは心配なので、前と同じように点字ブロックを確認しながら、流れとは逆ですが右側を進んでいました。
コロナの影響で店が休業になっていたので、途中行くのを辞めていました。
そして再開後の何度か目にミッケルも慣れて来ただろうと、点字ブロックに沿わず、左側を人の流れに沿って歩いたら、とてもスムーズに歩けました。
ミッケルが障害物や人の波をうまく避けて歩いてくれるからです。
何度も「ミッケル、good」と言いながら歩きました。
そして今回のこと。
左側を調子よく歩いていたら、ミッケルがスゥーッと左に寄り、止まりました。
えっ、まさかと思いながら「こちらは散髪屋さんですか?」と尋ねたら「そうです」の返事が返って来ました。
思わず「ミッケル、スゴイっ、グッド、グゥッド、グゥードォ♪」と頭を撫でてやり、一緒に喜びました。
今後の大きな、大きな可能性を秘めた大切な一歩でした。
目が見えなくなってから今まで、色々なドラマがありました。
悲しい気持ちや、情けない気持ちになった時もありました。
でも、散髪に行くのに、こんな嬉しいことがあるとは思いもしませんでした。
こうしてミッケルと一緒に成長し、ドラマを作っていけるのが嬉しいです。
これは余談ですが、ミッケルは私の散髪の間、近くで良い子にしてくれています。
先日、散髪が終わった時に「はい、終わったよ。ミッケルも顔剃りをしてもらうかっ?」と言って笑いました。
にこっ! 亀ちゃん