感謝と勇気づけ
https://toyokeizai.net/articles/-/379187 【「世界一忙しい日本の教師」を救う親の"神対応"
教師に相談したいときに加えたい"一言"】 より
日本の教員は世界一忙しいと衝撃の結果が出た。教育現場における教師の現状と、保護者が学校の先生方と接する際のポイントをお伝えします。
日本の教員の仕事時間は参加国中で最長(1週間で小学校54.4時間、中学校56時間)――。2019年のOECD調査でそんな衝撃の結果が出た日本。実際、学校は「ブラック職場」というイメージが定着しています。
『いい教師の条件』の著者であり、「教師を支える会」代表で数千人の教師たちと接し、全国の学校問題に切り込んでいった諸富祥彦氏に、教育現場における教師の現状と、保護者が学校の先生方と接する際に、具体的にどうすればいいかを聞いてみました。
日本の学校の先生は世界一忙しい
「日本の先生、遠い働き方改革」(2019年6月19日朝日新聞)
「世界一長い日本の小中教員の勤務時間」(2019年6月20日読売新聞)
これは、小中学校の教師の労働時間を報じた新聞記事の見出しです。
2019年にOECD(経済協力開発機構)が世界48の国と地域の中学校、世界15の国と地域の小学校を対象に、1週間当たりの教員の勤務時間を調査しました。その結果、日本の教師の労働時間は小学校54.4時間、中学校56時間で、ともに参加国・地域の中で最長であるという結果が出ました。
また、文部科学省の調査では、「過労死ライン」に当たる週60時間以上勤務の教員が、小学校で3割、中学校で6割にのぼるという調査結果もあります。
私はスクールカウンセラーとして千葉県の中学・高校で勤務してきましたが、夜8時、9時に職員室をのぞくと、まだ多くの先生が残っています。中にはほぼ毎日夜10時くらいまで職員室に残っている先生もいます。
では、なぜ学校の先生は長時間労働をすることになるのでしょう。それには「圧倒的な仕事量の多さ」が関わっています。
ここではざっと学校の先生が担っている仕事を挙げてみましょう。
● 教科を教えること、授業準備
● ○○教育への対応:小学校の英語教育、 プログラミング教育、ICT(情報通信技術)教育、ユニバーサル教育、防犯・防災教育など
● 道徳の教科化
● 主体的で対話的な授業の推進
● 発達の問題を抱えた子どもへの個別支援教育
● 不登校の子どもたち1人ひとりへの丁寧なケア
● いじめ問題への丁寧な対応(一方的に叱責し威嚇する指導ではなく、1人ひとりの心に寄り添ったカウンセリング的な対応)
● 給食時に食物アレルギーをもつ児童への対応
● 校内清掃の指導
● 運動会・文化祭などの運営・準備・保護者対応
● 登校・下校時の見守り
● 放課後のクラブや部活指導
● 保護者・地域からの要望・苦情などへの対応
● 国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応
● AED(自動体外式除細動器)講習を受けて使いこなす
● 学校の防犯(不審者・学校侵入への対応)、防災
● 新型コロナウイルス感染症対策による校内の消毒
● 幾度にもわたる行事の計画の練り直し
……など。
子どもを守るためなら刺股を持って不審者と対峙⁉
いかがでしょうか? ひとりの人間が抱える仕事量として無理があると思いませんか。
「学校の防犯」について、ひとつ余談を紹介しましょう。
私の子どもが小学生だった頃、PTA役員の所用があって小学校に伺ったときの話です。私が急ぎ足で校庭を突っ切り校舎に向かっていったところ、玄関で刺股を持つ先生と遭遇したことがあります。先生は職員室から、ダーク色の服を着て校庭の真ん中をずんずんと歩く大柄な男(私のことです)を見て、「これは不審者だ」と思い、あわてて待ち構えていたというわけです(笑)。
しかし、一般の企業で刺股を持って防犯に当たる社員などいるでしょうか?
先生の本業は、学習指導と生徒指導によって、子どもの成長をうながすことですが、学校の防犯面を含め、さまざまな雑事を担う「なんでも屋」になってしまっているのが現状です。
保護者にとっては「どのように学校や教師と関わっていけばいいのか」「先生が元気で意欲的であることが、ひいては子どものためになる。そのためにどうすればいいのか」と考えておられる方もいらっしゃるかもしれません。
私は、いろいろな先生とお話ししていて思うのですが、最近、学校の先生方は少し保護者にこびすぎて、かえってうまくいかなくなっていると思います。
とくに若い先生には、「何かあったらおっしゃってください」とずっと低姿勢で、保護者と接している方が多いと思います。これでは、保護者には「つい苦情を言いたくなってしまう相手」に見えてしまいます。まるで店員と客、サービスを提供する側と受ける側のような関係です。
「何かあったらおっしゃってください」「苦情を受け止めます」というのは、教師と保護者が、いわば「面と面で向かい合う関係」です。そうではなく、教師は保護者の方々と「横並びの関係」をつくってほしいのです。
保護者と教師は本来、同じ方向を向いて、子どもの教育という目的を共有している仲間、パートナーです。このことをできれば新学期開始の早い時期に、教師のほうからリードして保護者に伝わるようにしてほしいのです。
「私たち教師はお子さんのためにベストを尽くします。皆さんもぜひ力を貸してください。一緒に力を合わせてやっていきましょう。その中で、もし何か不十分な点があったら遠慮なくおっしゃってください」
先生は、保護者に対してこんなふうに堂々と胸を張って言えばいいのです。
「消費者目線」で見られる学校と教師
現在の保護者の方々が小中学生だった頃は、親が子どもを学校に預けたら、あとは先生にお任せするというスタンスでいるのが当たり前だったのではないでしょうか。
親と学校の関係に変化が見られ始めたのは90年代以降、「学校教育は教育サービス」という意識が浸透してからです。そのきっかけのひとつは、文部科学省が教育行政についての表現で「サービス」という言葉を用い始めたことだと私は思います。
その頃から、保護者の中にも「教育もサービスなのだから不満があれば文句を言うのが当たり前」という風潮が広がり、教師の権威は徐々に失われていきました。
親にとって大事なのは、学校・教師とのやり取りの結果、「子どもにとってよい結果、メリットが返ってくる」ということです。そのためには正面切って学校・先生とぶつかることが得策であるとはいえません。
子どものためを思うなら、「子どもを教育するパートナー」として教師や学校と付き合っていくことが大切なのです。
先生に何かをお願いする際、重要なことがあります。それは何か問題があるときにも、いきなりは文句を言わないこと。会話の中で「うちの子がすごく喜んでいました」「ありがとうございます」と、まず一言、先生への「感謝」や「ねぎらい」の気持ちを伝えましょう。先生だって1人の人間です。先生の頑張りに対して、まずお礼を言うだけで「教師のその子へのやる気」はアップし、子どものメリットにつながります。
保護者から先生にお願いをするときには、次の3つのステップを踏むと効果的です。
1つ目は「先生、いつもありがとうございます」と感謝を示すこと。
2つ目が、抽象的な要望ではなく、具体的な行動レベルのお願いをすること。
3つ目が、勇気づけです。
「ほかの先生じゃダメだけど、先生だったらやってくださると思って」
「信頼している先生だからこそ、申し上げるのです」
などとその先生のことを「信頼している」「期待している」という勇気づけのメッセージを伝えて、先生のやる気を喚起させるのです。
保護者から若手の教員を勇気づけて
保護者の方には、ぜひ若手の先生を「勇気づける」という目線をもっていただきたいのです(今、第2次ベビーブームに対応して大量採用された教師が定年退職を迎え、全国的に若手教師が激増しています)。
そう申し上げると、「なんで給料をもらって仕事をしている先生に、わざわざお願いをしたり、勇気づけたりしないといけないんだ」と思う人がいるかもしれません。でも、それが現実なのですから、仕方がありません。
ただでさえ、今どきの若い先生は、学校が「ブラックな職場」だと知っていながら、生きがいだけを求めて教師になってくれている貴重な人たちです。そんな「情熱バカ」ともいえる若手の先生をつぶしてしまってよいことなど何ひとつありません。
ぜひ、「先生だったらできると思うんです」「先生ならやっていただけると思うんです」と勇気づけて、やる気にさせていただきたいのです。