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KazumaKawauchi

EURO2016は社会問題へどんな取り組みを実施したか?サッカーの社会的責任と持続可能性。

2016.07.27 20:30
この記事は、
love.futbol Japanが運営するウェブサイト「Football for Social Change」へ寄稿したものに、編集後記を書き加えたものです。


先日、世界中のサッカーファンを釘付けにしたEURO 2016が幕を閉じました。

優勝国ポルトガルはもちろん、開催国フランスのタレント性、初出場ウェールズの大躍進、小国アイスランドの健闘など、サッカー界に新たな歴史の1ページが加えられ、サッカーというスポーツの偉大な力を、あらためて感じることが出来たのではないでしょうか?

そんなEURO2016ですが、大会期間中にはサッカーとはまた別の、しかしサッカーと切り離して考えることの出来ない、様々な社会問題や環境問題に対して、多くの取り組みが実施されました。

今回は、その取り組みの象徴的な5つの柱について、書いていきたいと思います。



1. すべての人を尊重する/ Respect Access for All

(画像:CAFEホームページより)

今大会では、ヨーロッパでサッカースタジアムへのアクセスに関連した活動を展開する「Centre for Access to Football in Europe (CAFE)」と提携を結び、障害を持つファンを含む「誰もが」スタジアムに訪れ、試合を観戦することができるよう、あらゆる環境が整えられました。大会期間中使用されたスタジアムでは、車椅子を利用するファンのために十分なスペースを確保し、はたまたCAFEのホームページには、各スタジアムまでのアクセス、周辺情報などが掲載されています。

私がヨーロッパ各国のスタジアムを訪問した際にまず感じたのは、スタジアムの存在感の大きさが日本とは大きく異なる点でした。それは物理的な大きさによるものではなく、必ずと言っていいほど駅からのアクセスが良いことや、周辺施設の充実などを含めた「存在感」でした。サッカー専用スタジアムでありながら、試合がない日もその街に確かに存在し、市民の生活の一部となっている感覚を覚えました。

日本において駅からのアクセスを今すぐに改善することはできませんが、例えば、障害を持つファンに対する考慮や工夫は、「すべての人」がサッカーを楽しめるよう環境づくりに必要だと思います。



2. 健康を尊重する / Respect Your Health

喫煙者には面白くないですが、実は今大会ではサッカーファンの健康を促進するため、スタジアム内での喫煙、および、タバコ関連商品の販売が禁止されました。監視力を鍛えるため、事前にスタジアム内の監視、警備をおこなうスタッフをトレーニングするほどの徹底ぶりのようでした。

大勢の人が一挙に集まるこのような機会を利用し、人々の健康を促進するような取り組みは、とても有意義なことだと感じます。サッカーは、私たちの健康を維持するためにも、多大な力を発揮してくれますよね。



3.多様性を尊重する / Respect Diversity

(画像:FAREホームページより)

スタジアム内での一切の人種差別が禁止されました。

毎試合「Football Against Racism in Europe (FARE)」による管理体制が整えられ、人種差別が行われた際には直ちに報告、処罰が与えられました。

人種差別問題に関しては、サッカーにおいて切っても切れない問題です。最近はJリーグでも人種差別に関する横断幕が掲げられるなど、日本サッカー界でも無視できない問題になってきました。大きな大会が行われるたびに、今一度サッカーファンを含めた全世界に対し、人種差別問題を提示することは、今後もサッカーが世界中から愛されるために必要なことだと思います。同時に、多くのファンを持つサッカーの「責任」の一つでもあると感じます。



4. ファンの文化を尊重する / Respect Fan Culture

(画像:FSEホームページより)

ヨーロッパのサッカーファン文化の向上に関連した活動をする「Fan Supporters Europe (FSE)」と提携し、大会期間中フランスに訪れる各国サポーター同士の親交を深める手助けを行い、開催地の安全な環境が確保されました。

ヨーロッパや南米では、サッカーの価値が大きすぎるがゆえか、感情的な行動をしてしまうサポーターが後を絶ちません。選手やファンの安全を守るために、そしてサッカーを守るために 、厳しい処罰の適用や管理体制を敷くことは、EUROのような国際大会が率先して果たすべき「責任」です。



5. 環境を尊重する / Respect Environment

サッカーと環境保全、なかなか接点を見出しにくいかもしれませんが、今大会では、公共の交通機関の利用を促進することや、大会期間中の出る廃棄物の50%をリサイクルすること、水や電気の使用を制限すること、製品やサービスに対する信頼性を高めることなど、大会を取り巻く様々な環境問題に対する対策が練られました。

多くの人々が集まる大会期間中は、その分様々なリスクを伴います。「環境汚染」もそのうちの一つであり、大会を実施するUEFAや開催都市にとって、避けることのできない「責任」です。ただし、その一方で、国際大会が環境保全をアピールする機会になるというポジティブな面を示してくれました。



社会的責任「Social responsibility」とは可能性である

以前私が「ホームレスワールドカップ」の創設者であるメル・ヤング氏の講演を聞いた際、彼もまた「社会的責任」という言葉を多く使っていました。経済を動かす力を持っている大企業には、お金を儲けること以外の「責任」が伴う、といったような意味が含まれた言葉です。こと「サッカー」に関しても例外ではなく、世界中にファンを持つスポーツだからこそ、社会問題に対して積極的な活動をしていく責任があると、私は思います。逆に言えば、それは大きな「可能性」でもあります。サッカーにしか変えることの出来ない世界が、必ずあると私は信じています。

日本に関して言えば、2020年東京オリンピックが刻一刻と迫っています。EUROが「社会的責任」を伴っているのと同じように、日本という先進国にしか成し得ない方法を用い、しっかりと「可能性」を広げていくべきではないでしょうか。その一部を、サッカーの分野で発揮できるよう、私たちも考えることをやめてはいけません。

この記事が一つのきっかけとなれば、筆者としてはこの上ない幸せです。




編集後記

まず驚いたのは、ヨーロッパには人種差別に関する活動をしている「Football Against Racism in Europe (FARE)」や、サッカースタジアムのアクセス改善に努めている「Centre for Access to Football in Europe (CAFE)」など、サッカーを取り巻く様々な問題に対して取り組みを行っている団体があることでした。

日本でも、障害者の方でもサッカー観戦が出来るようなスタジアム作りが行われているのかもしれませんが(これに関しては無知です…)、それら総合的な「アクセス」改善を専門に活動をしている団体はないかと思います。人種差別に関しても、日本サッカー界においてこのことが叫ばれるようになったのは、つい最近のことだと記憶しているので、こういった団体はまだないと思います。日本がこれからサッカーを「文化」にしていくには、このような面からもしっかりと整えていくべきだと感じました。

加えてヨーロッパにはない、そして日本人にしかできない方法やアイディアで、新しいサッカーの形を作っていければ、最高です。