少年彩里水の不思議冒険譚 -不思議の国の入り口78-
78 追手
「じゃあ、オレたちはここでガラス玉を探すよ。キップとクップは真っ直ぐ森を抜けるんだよね?」
「はい!」
「じゃあ・・・。・・・またいつか!」
そう彩里水が声をかけキップとクップが先へ進もうとしたその時、また後ろからガサッという音がした。
皆は一気に緊張し振り返る。
そこには列を成したトランプの兵。
彩里水と白兎の顔色が変わる。
兵の後方には城の中で会ったキングがいた。
さらにその横にはキング以上に派手な、まさに女王陛下という出立ちの女性もいる。
ハートマーク柄の毛皮のガウン羽織り、大きなハート型の宝石をつけた大きな冠を頭に乗せ、馬車と馬が一体になったような乗り物に乗っている。
その巨体をどっしりと馬車の座席に落とし、無言でふんぞり返っている。
馬車と一体になっている馬はどことなくうんざりした顔つきに見える。
追手はすぐ眼前に迫ってきていた。
「待てー!貴様らー!」
そう大声を張り上げているのはハートのキングだ。
彩里水たちは全員その場から一斉に駆け出していた。
キップとクップはその小さな身なりをサッと木の陰に隠す。
追手は駆け出した彩里水と白兎を追いかけ続ける。
キングは、無言でふんぞり返り動こうともしないクイーンとは逆に何かをわめき続けている。
白兎は駆け出す直前にキャンドーを拾いあげポケットに入れていた。
彩里水と共に全力で駆けるが追手との距離は一向に広がらない。
ハアッハァッ
――つ、疲れた。息が苦しい。
白兎は全力で駆け続けるが、向こうは疲れた様子もない。
白兎の少し前方を走る彩里水も苦しそうだ。
ハアッハァッ
――も、もう走れない。
そう思ったときに足がもつれて白兎は地面に転がる。
ズサッ
彩里水が振り返る。
「白兎!」
立ち止まっている暇はない。
もうあと数十歩でトランプの兵たちに追いつかれそうだ。
白兎は彩里水に向かって叫ぶ。
「行け!走れ!2人で捕まったらどうしようもないだろ!」
彩里水は一瞬うろたえたが意を決して前へ走る。
次の瞬間、トランプの兵が立ち上がろうとする白兎に向かって、持っているハート型の矢を投げつける。
確実に白兎の胴体を貫く威力と方向で向かってくるその矢に、白兎は手をかざし目を瞑る意外にできることがなかった。
ガッ
・・・!
物音がして目を開けた白兎の目に映ったのは、トランプの兵が放った矢が白兎のポケットから飛び出したキャンドーに命中したところだった。
「え・・・?」
白兎の目の前でキャンドーがただの燭台へと変わった。
「・・・ハアッ。ハアッ。」
一方、白兎に叱咤され前を向き走り続ける彩里水。
――白兎はどうなった?キップとクップは?キャンドーは?・・・っ。疲れた・・・。止まりたい。みんなの様子も気になる。でも今止まれば、振り返れば、・・・あっという間に敵に追いつかれるっ。
敵がすぐ後ろに迫ってきていることだけは背中に感じていた。
彩里水は夢中で走り続けた。
つづく