現代のポップアーティスト西雄大の目指すアートの世界
1960年代初頭から半ばまでアメリカで社会現象となったポップアート。アンディ・ウォーホル、ロイ・リキテンスタインなどが、大衆的で見向きもされなかった生活品や食品の図像を作品の材料として取り入れ、サブカルチャーや生活様式を風刺していたことで有名だ。
私がはじめてペインターの西雄大の作品を見たとき、「現代のポップアート」という言葉が浮かんだ。彼の作品は、鮮やかかつ濃度の濃い色づかいと、既存のモチーフを彼の目を通して新しい形へと変化し、デザインされ、削ぎ落とされた力強い線で描かれているからだ。彼は一体どんなアーティストなのだろう?
7/15から7/31までの期間、中目黒の「VOILLD」にて彼の個展「PEPPER(ペッパー)」が開催されると聞きつけ、伺うことにした。
ドアを開けるとその名の通り、見渡す限りペッパー。今回なぜペッパーをモチーフに使用したのか伺った。
「モチーフを選んだ理由は、単純にフォルムがいいなと(笑)。でも僕のなかでいつか描きたいなと思っていたモチーフなんです。選んだ理由は単純ですけど、この展示を実現できたことの方が僕としては大きいですね。
たとえばモンスターがいたり、無機質なモチーフがあったりといろんなバリエーションの絵があるなかの1つにペッパーを組み込む、というのは描きたくなくて。描くならそれだけの空間にしたかったんです。たくさんのペッパーがいろいろな形で並んでいることしかイメージになかったんですね。
ただそれを具体的に展示として表現するのは僕のなかで勇気がいることで。あの作品が嫌いでもこの作品は好きという選択肢があるような保身的な展示はできなくなるし、ギャラリーの人にもなかなか言い出せなかったんです。でも今回VOILLDのディレクターの伊勢さんがいいよと言ってくれたから実現することができました」
同じモチーフでも大きさや形は様々。削ぎ落とされたシンプルかつ力強い線で描かれている。ベースとなる木材のパネルをその形に添ってカットしているからか、フォルムが明確になり、一つ一つの存在がはっきりと見えてくる。
この壁一面に描かれているペッパーは設営時に書き上げたものだという。とても大きくてダイナミックな作品は圧巻だった。
中学時代にグラフィティにのめり込んだ
展示を通じて作品を展開していくなかで、「ポップアート」と言われることが多いという。
「僕自身はポップアートに対して何かしらの意識もなければ、通ずるコンセプトも持っていないんです。でも自分が見せたいイメージは明確にするようにしています。パッと見た瞬間に『何だろう?』と悩ませるものよりも、分かりやすいもの、受け入れやすいものを、と考えています。なので、そういった部分を『ポップ』と受け取る人もいるのかなと思いますね」
ポップアートを目指していたわけではない彼が、グラフィックの世界に傾倒していったのにはどのような背景があるのだろう。
「兄が絵を描くのが上手だったので、憧れて兄貴より上手くなりたいと思って描いていた覚えがあります。中学の頃からグラフィティというものを知って、周りでやっている人もいなかったし、近所にグラフィティがある環境でもなかったんですけど。本屋で画集とかを見ては、見よう見まねで試してみたり。どういうスプレーを買ったらいいのかも分からないので、適当に家に転がっているものを使ったりして、描いていたのを覚えてます。そこからストリート系のものに興味を持っていったんです」
絵だけを描いてお金を稼ぐ
現在アーティストとしての活動以外にも、NHK Eテレの「シャキーン!」にて西くんのイラストを用いたアニメーションが放送されていたり、イラストレーターとしても活躍をしている。「アート」と「イラストレーション」どちらも平行して行っていることについて、どういった考えを持っているのだろう。
「大学も美術系で高校もデザイン専門学校の高等課程に行っていたので、親にだいぶ投資をされてるんです。だから『好きなものだけを描く』というのではなくて、『絵を描いてお金を稼ぐ』ということが恩返しになると思っています。
もちろん個展などを開いて作品を買ってくれたときは、100%ピュアに僕の作品を認めてもらえてるなという感覚があるので嬉しいですが、イラストレーションだったり絵を描く仕事であれば引き受けていきたいと思っています」
今回の展示では、作品のほかにTシャツや靴下やクッションなどのグッズも販売されていた。
「クッションは伊勢さんが『作ってみない?』と言ってくれたので作ってみることにしました。僕もクッションが好きだったし、そもそもインテリアが好きなんです。今はまだDIY程度の技術しかありませんが、作品づくりをしていく過程で上達して、技術が備わってきたら、表現とミックスしてファニチャーなどの作品を出すこともできるなと思っています」
最後に、西くんが目指していることは何か聞いてみた。
「西雄大という名前や、僕自身のキャラクターよりも、僕が描いた絵が認知されて欲しいなと思っています。たとえば、『ハローキティ』や『アンパンマン』や『ドラえもん』のように誰もが知っているというレベルまで、僕の絵もなれたらいいなと。絵を描く仕事をしている上で、そのくらいの知名度を目指さなければいけないという意識がありますね」
ストリートアートやグラフィティに影響を受けつつも、自身の思考を通して再構築されたデザインは、60年代のポップアートともストリートアートとも異なるもの。彼はストリートアートに興味を持ちながら、ビジネスとしてのアートを確立させようと大学に行き美術を学んだ「アカデミックなストリートアーティスト」だった。描いた絵に対して売れなければいけないという意識が人一倍強いアーティストだ。
アートをビジネスとして考えられるアーティストはそう多くない。作品が世の流れや文脈と合流できなければ評価されないが反対に世間から「やるべきこと」が決定されているものには真新しさや魅力を感じることができない。
アイデアを具現化し、自分が行った物事に対してたくさんフィードバックを獲得して次につなげるということができるアーティストが西雄大だ。そういう彼のあり方を見ていると、西くんの作品が老若男女問わずに支持される日も、そう遠くないかもしれない気がしてくる。