Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

過去の出来事

和俗童子訓9

2020.10.11 09:03

貝原益軒著『和俗童子訓』9

小児の時より早く父母兄長につかへ、賓客に対して礼をつとめ、読書・手習・芸能をつとめまなびて、あしき方にうつるべきいとまなく、苦労さすべし。はかなきあそびにひまをついやさしめて、ならはしあしくすべからず。衣服、飲食、器物、居処、僕従にいたるまで、其家のくらゐよりまどしく、ばうそくにして、もてなしうすく、心ままならざるがよし。いとけなき時、艱難にならへば、年たけて難苦にたへやすく、忠孝のつとめをくるしまず、病すくたく、おごりなくして、放逸ならず。よく家をたもちて、一生の間さいはいとなり、後の楽多し。もしは不意の変にあひ、貧窮にいたり、或戦場に出ても身の苦みなし。かくの如く、子をそだつるは、誠によく子を愛する也。又、幼少よりやしなひゆたかにして、もてなしあつく、心ままにして安楽なれば、おごりにならひ、私欲おほくして、病多く、艱難にたえず。父母につかえ、君につかふるに、つとめをくるしみて、忠孝も行ひがたく、学問・芸能のつとめなりがたし。もし変にあへば、苦しみにたえず、陣中に久しく居ては、艱苦をこらへがたくして、病をうけ、戦場にのぞみては、心に武勇ありても、其身やはらかにして、せめたたかひの、はげしきはたらき、なりがたく、人におくれて、功名をもなしがたし。又、男子、只一人あれば、きはめて愛重すべし。愛重するの道は、をしえいましめて、其子に苦労をさせて、後のためよく、無病にてわざはひなきように、はかるべし。姑息の愛をなして、其子をそこなふは、まことの愛をしらざる也。凡人は、わかき時、艱難苦労をして、忠孝をつとめ、学問をはげまし、芸能を学ぶべし。かくの如くすれば、必人にまさりて、名をあげ身をたてて後の楽多し。わかき時、安楽にて、なす事なく、艱苦をへざれば、後年にいたりて人に及ばず、又、後の楽なし。


【通釈】

小児の時より早く父母や兄、年長者に仕え、賓客に対して礼を務め、読書・手習・芸能をしっかり学ばせて、悪い方に移る暇がないように苦労させるのがよい。つまらぬ遊びばかりさせて、それに慣れて悪くさせてはならない。

衣服、飲食、器物、居処、家来従者にいたるまで、その家の位より貧しく不足にして、なんでも思い通りにならないようにするのがよい。

幼い時、艱難に慣れれば、成長しても難苦に耐えることができ、忠孝の務めを苦と思わず、病気になることも少なく、奢ることもなく、放逸にならない。よく家を守り、一生の間幸福で、後の楽しもも多くなる。もし不意の変事に遭い、貧窮になり、或いは戦場に出ても身の苦みがなし。このように子を育てることが、誠によく子を愛することである。

一方、幼少より衣食が豊かで大切にされ、思いのままで安楽な状態だと、奢りに慣れて私欲が多くなり、病気にかかりやすくなり、艱難に耐えることができなくなる。父母に仕え、主君に仕えるのに、務めが苦痛で忠孝も行い難く、学問・芸能の務めもできない。もし変事に遭えば、苦しみに耐えられず、陣中に長く居ては艱苦をこらえることもできず、病気になり、戦場に臨んでは、心に武勇があっても、その身は柔弱なために戦闘での激しい働きもできず、人に遅れて、功名も成し難い。

また、男子が一人だけであるならば、しかり愛重すべし。愛重する道は、教え戒めて、その子に苦労をさせて、後のために無病で災いがないように気を付けること。姑息な愛をかけて、その子をだめにするのは、まことの愛を知らないからである。

およそ人は、若い時に艱難苦労をして、忠孝を務め、学問に励み、芸能を学ぶのがよい。このようにすれば、必ず他人より優れて、名をあげ身を立てて後の楽しみが多くなる。若い時に安楽で何もせず、艱苦を経験しなければ、後年に至って人に及ばず、また、後の楽しみもない。

───