柳散清水涸石処々 蕪村
https://shiciankou.at.webry.info/201308/article_44.html【柳散清水涸石処々 蕪村】より
漢籍に嗜好を示した俳人の一人に蕪村をあげることができる。
漢詩ではない日本の詩の先駆けとされることもなる「春風馬堤曲」は、俳句と漢詩を混淆した「曲」であるのだが、五言絶句めいたものの挿入があり、蕪村の漢籍嗜好を窺い知ることができる。
なお「曲」は中国では複数の詩体を混淆して一篇の詩体とするもので、俳句と漢詩を混淆して「曲」とした蕪村に「曲」の知識があったことは驚愕に値する。
現代の漢詩人のほとんどは「曲」を知らず、日本人で「曲」を作ったことがあるのは、私だけ、といって過言ではないだろう。
しかし、蕪村がどれだけ漢詩に通じていたかといえば、蕪村は平仄を知らなかったと断言してもよい。
「春風馬堤曲」に挿入されている五言絶句四首はいずれも、近体詩の五言絶句として通用するものはひとつもない。
近体詩の韻律を知っていれば、恐ろしくてとても蕪村のような五言絶句は詠めたものではない。
そこで、蕪村は平仄を知らなかったと断言してもよい。
柳散清水涸石処々(やなぎちりしみずかれいしところどころ:やなぎちりしみずかれいしところどこ、と読む説もある)にしてもしかり。
その平仄を図示すれば、仄仄平仄仄仄仄仄。近体詩の韻律を知っていればこの作句は有り得ない。
平仄を知っていれば、つまりは私ならば、次のように詠んだ。
七言俳句・柳散清水涸石処々 2013.08.16 -40381
柳散清泉涸石現 柳散り清泉涸れて石あらは
仄仄平仄仄平仄。
この句、平水韵,散,泉,現で押韻、順に去声翰、上平先,去声霰の韵部通用。
さて、きょうは、読み下して五七五になるように漢語で作句するには七言に作るのがよいことはわかっているが、どのくらいの確率で五七五に読み下せるかを、山に関わる四字成語をもとに作句して試してみた。
七言俳句・山窮水盡 2013.08.16 -40369
山窮水盡有俳人。 山窮まり水盡きるところにをる俳人
○○●仄●○平(中華新韵九文平仄両用の押韻)
七言俳句・山盟海誓 2013.08.16 -40370
山盟海誓久相思。 山に盟(ちか)ひ海に誓はん相思(愛)は久(とは)
○○●仄●○平(中華新韵十三支平仄両用の押韻)
七言俳句・山珍海味 2013.08.16 -40371
山珍海味酒杯飛。 山海の珍味に酒杯飛びにけり○
○○●仄●○平(中華新韵五微平仄両用の押韻)
七言俳句・梯山航海 2013.08.16 -40372
梯山航海人無頼。 山に梯子海には航(ふね)の人無頼
○○○仄○○仄(中華新韵四開仄声の押韻)
七言俳句・錦綉山河 2013.08.16 -40373
錦綉山河季語多。 錦綉の山河に季語の多きかな○
●●○平●●平 (中華新韵二波平声の押韻)
七言俳句・湖光山色 2013.08.16 -40374
湖光山色招詩客。 湖に光 山に色あり詩客を招き
○○●仄○○仄(中華新韵二波仄声の押韻)
七言俳句・山光水色 2013.08.16 -40375
山光水色人捜索。 山に光 水に色あり人に捜索
○○●仄○○仄(中華新韵二波仄声の押韻)
七言俳句・山清水秀 2013.08.16 -40376
山清水秀俳人走。 山清く水秀(うつく)しく俳人走(い)く
○○●仄○○仄(中華新韵七尤仄声の押韻)
七言俳句・山 2013.08.15 -40377
醉歩蹣跚歸故山。 蹣跚(ふらふら)と醉歩し故山に帰りきぬ
●●○平●●平(中華新韵八寒平声の押韻)
七言俳句・緑水青山 2013.08.16 -40378
金杯緑水映青山。 金杯の緑の水に青き山○
○○●●●○○(押韻せず)
十句詠んで五七五に読み下せたのは○を付けた三句。えーっ!!、意外と少ない!!!!
十句中七句の読み下しは、いわゆる字余り。
漢語七字でも五七五に読み下すにはまだまだ字数が多いということか。
それとも、作句にあたり、山に関わる四字成語を選んだことが間違いだったのか。
十句中の秀句は、
山光水色人捜索。 山に光 水に色あり人に捜索
山光水色は山河の形勝。しかし、山河の形勝を求めて遭難すること少なからず。人道に捜索ありだ。
また秀句は、
金杯緑水映青山。 金杯の緑の水に青き山○
この句、押韻していない。そこで俄然、詩詞に展開すべきと知った。
竹枝・緑水青山 2013.08.16 -40379
金杯緑水(竹枝)映青山(女兒),白頭朱夏(竹枝)對紅箋(女兒)。
○○●●(竹枝)●○平(女兒),○○○●(竹枝)●○平(女兒)
金杯の緑の水に(エイヤサ)
青山映り(ホイサ),
白頭 朱夏に(エイヤサ)
紅箋に對す(ホイサ)。
あるいは、
七絶・緑水青山 2013.08.16 -40380
金杯碧水映青山,朱夏白頭對彩箋。緑蔭游魂坐霞洞,黄昏含笑借紅顔。
○○●●●○平,○●○○●●平。●●○○●○●,○○○●●○平。
(中華新韵八寒平声の押韻)
金杯の碧水 青山を映し,
朱夏の白頭 彩箋に對す。
緑蔭に魂を遊ばせて霞洞に坐し,
黄昏に笑みを含んで紅顔を借る。
この七言絶句は全對格。起承、転合をそれぞれ対仗にしている。
色には色を対にするのがよい。
彩と霞は色ではないが、色を含む言葉であり、色には色の対仗に準じているので可とされている。