兄さん兄様、美味しそうです
香ばしく焼けたシェパーズパイに付け合わせの蒸し野菜、ビーンズを使ったトマトのスープ。
ワインには赤と白の両方を用意した。
モリアーティ家の食を管理するルイスは、孤児時代に習った家庭料理とロックウェル家のシェフに習った料理のどちらも作り慣れている。
英国に住まう人間の性なのか、ウィリアムだけでなく生来の貴族であるアルバートでさえ食にはさほど興味がない。
それでも量は成人男性並みに食べるし、アルバートは味にもそこそここだわりがあった。
ウィリアムはルイスの作るものは、たとえ失敗して黒焦げになったものすら美味しいと言って食べてしまうのだから当てにならない(そのときはルイスが必死になって食べないよう焦げたポテトを奪い取った)
けれどアルバートは口に合わないものはそう言ってくれたし、それでいてちゃんとルイスを気遣う言葉をくれたから、彼の誠実さに報いるためにも料理の腕を磨こうとルイスは努力したのだ。
今夜の食事もきっと満足してもらえることだろう。
思わず浮かんだ口元の笑みをそのままにワイングラスを用意していると、食堂には思い描いていた二人の兄がやってきた。
「良い匂いだね、ルイス」
「ウィリアム兄さん、アルバート兄様。ちょうど良かった、今お呼びしようと思っていたところです」
「そうだったのか。…おや、用意が二人分しかないようだが」
ルイスが作る食事の匂いに誘われてやってきたウィリアムとアルバートは、エプロン姿のルイスを目にやって穏やかに微笑んだ。
衣服が汚れないように着用している白いエプロンは以前二人がルイスに贈ったものである。
清潔感ある白はルイスに特別よく似合う。
最愛の弟をシェフ扱いする気など毛頭ないが、それでもどこか無性に心擽る姿に癒されていると、その目には二人分の用意しかない今晩の食事が映った。
呼びに行くと言っていたのだから、この二人分の食事はウィリアムとアルバートのものなのだろう。
ではルイス含め、他の分の用意はどうしたというのだろうか。
「モランさん達は明日が休みだから遅くまで飲んでくると言っていました。念のため軽食の用意はしていますが、あの三人の分は用意していません」
椅子を引いてウィリアムとアルバートの着席をサポートしたルイスは淡々を答えを返す。
そうして、ワインを取りに行ってきますと場を離れようとするその腕を、ウィリアムはすかさず掴んで切れ長の瞳をますます鋭くさせてルイスを見た。
「君の分は?」
「…味見でお腹がいっぱいになってしまって」
「へぇそう、味見…ねぇ…?」
「はい。ついうっかり」
「うっかり、なぁ…?」
ウィリアムとは視線を合わせず、かといってアルバートとも視線を合わせない。
元々ルイスは最下層出身の孤児であるせいか、どうしても食材を無駄にすることが出来ない性分だ。
食べられない分の食事は作りたくないし、ウィリアムとアルバートのために作った食事が彼らの口に入らなかった日はとても悲しいと思う。
だから、初めから必要のない食事は作りたくないのだ。
今夜もそう思って二人分の食事しか用意しなかったけれど、やはり作っておけば良かっただろうかと、ほんの僅かに後悔が過ぎる。
「とても美味しく出来ているので、どうぞ召し上がってください」
後ろめたさを隠すようにルイスはウィリアムとアルバートを見て明るい声を出す。
けれど隠されたその感情を二人はしかと見抜いており、美しく釣り上がった瞳と甘く垂れた瞳を鋭くさせてルイスを見上げた。
いつも優しい兄達が自分には滅多に見せることのないその表情。
初めて見るわけでもないし、今までに数回は見たことがある。
背筋に冷や汗が流れるような気がしたけれど、ルイスは自分の気のせいだと思い込むことにした。
「さぁ冷めてしまいますよ。早くお召し上がりください」
「ルイス」
「え、あっ…!?」
ウィリアムはこの後に及んで「美味しいシェパーズパイですよ」などとのたまうルイスの腰を掴み、ボトムに納められているシャツの裾をめくり上げる。
そこに見えるのは程よく引き締まった腹筋で、とても空腹を満たした後とは思えない薄く頼りない腹だった。
遠慮なくウィリアムはその腹に触れては揉むように指を動かし、ほぼほぼ脂肪のない筋張った感触にますます瞳を釣り上げる。
それを横目に見ていたアルバートも苛立ったように息を吐き、席を立ってルイスの背後に回って自分のものより幾分か薄い肩に手をやった。
「ルイス」
「は、はい…」
「食べてないだろう、味見」
「…た、食べました、よ。シェパーズパイ、美味しく出来ました」
「味見で食べたにしてはお腹が膨れていない。この僕が気付かないとでも思ってるのかな?」
「しょ、消化されたんだと思います。僕、燃費が悪いので」
「ほう、初めて聞いたな。ルイス、おまえはいつから燃費が悪くなったんだい?いつになっても食が細いと記憶していたが」
「つ、つい先日から…それはもう、モランさんも驚きの燃費の悪さで…」
「ふふ。往生際が悪いね、ルイス」
「っ、ひ、ぁっ」
「さぁルイス、本当のことを言おうか」
ルイスはウィリアムとアルバートからの尋問に果敢に応対していたが、ウィリアムが腹から背中にかけてねっとり撫でさすれば冷や汗の代わりにぞくりとした快感が過ぎる。
加えてアルバートからも耳元で囁かれるように命令されてしまえば、ルイスにはもう拒否することは出来ない。
ウィリアムの手付きが夜を思わせるように厭らしく甘いのと、アルバートの自分を呼ぶ声が優しく響くのがルイスの敗因だろう。
ルイスは腹に触れてくるウィリアムの手を抑え、彼から距離を取るように背後のアルバートに背中を預けた。
自分を見上げるウィリアムの顔は未だ厳しく、アルバートから漂うオーラにも呆れが見える。
あぁこれは真相を知ったら怒られるんだろうなと、ルイスは自分の分の食事を用意しなかった数時間前の自分を呪った。
「…その、昼間に作り置き用のジャムをたくさん作っていて」
「…まさか、ルイス」
「どれだけ食べた?」
「……一瓶、ほど」
えへ。
笑えば許してくれるだろうかとぎこちない笑みを浮かべて白状するルイスの言葉に、ウィリアムとアルバートの顔は愕然とした色に染まった。
正しく言うならルイスからアルバートの顔は見えていないのだが、何度か見たことがあるから想像が付いているだけではある。
「ひ、一瓶…!?」
「あ、ちゃんとビスケットとスコーンも食べました、けど」
「そういう問題じゃないことは、分かっているだろうな?」
「…はい」
ルイスは甘党だ。
基本的に甘いものを好んでいるし、苦味のあるコーヒーやビールは得意ではない。
孤児だった頃は甘いものなど早々手に入らなかったこともあり、ロックウェル伯爵家に引き取られて初めて食べたスイーツには感動して目を見開いたこともある。
元々食が細かった性質も合わせて、昔はティータイムのお茶菓子を食べただけで一日を終えてしまうことも多かった。
食べられる環境にあるのに食べないなど、贅沢が過ぎると言っていいだろう。
ルイスも本能的にそれはいけないことだと気付いていたようで必死に隠していたのだが、様子が怪しいと勘付いたウィリアムにバレてからは相当に怒られた。
距離感を掴みかねていたアルバートにも怒られてしまい、ルイスは酷く酷く落ち込んだものである。
だがその怒りが自分のためを思ってのことだと分かったからこそ、それからは心を入れ替えてちゃんと食事を摂るようになったのだ。
スイーツはあくまで間食、食事の一つにはカウントしない。
それでもついうっかり甘いものを食べ過ぎてお腹が空かずに食事を食べられないこともあったけれど、その度に敬愛する兄二人に怒られた。
それはもう、普段の優しさが嘘のように怒るのだ。
怖かった。
だからバレたくなかったのだが、孤児出身であることと倹約家であるアルバートに影響されたのか、無駄な食事はどうしても作れなかったのだから仕方ない。
「ジャムを一瓶食べたせいで夕食が入らないと、つまりはそういう訳なんだね、ルイス」
「…はい」
「何か言うことは?」
「……いえ、何も」
腹に触れるのはやめてくれたが変わらずウィリアムに腰は掴まれており、アルバートにも肩を抱き寄せられていて逃げ場はない。
諦めたルイスは視線を逸らしながらウィリアムとアルバートの怒りと呆れたオーラを感じている。
食事を摂ろうにもお腹は空いていないし、昼間に食べたスコーンとジャムがしっかりとルイスを満たしてくれていた。
「…ルイス、今夜は僕とアルバート兄さんと一緒に寝ること」
「は…それだけ、ですか?」
「それと、明日の食事は私とウィリアムが作ろう」
「に、兄様と兄さんが!?や、嫌です、僕が作ります!」
「駄目だ。偏食なおまえでも食べられるものを私達が用意してあげよう」
「で、でもお二人にそんな真似させるわけには…僕の仕事なのに…!」
「ルイス、良いから。それに、どうせ起きられないだろうしね」
「え?」
今夜は寝かさないよ、ルイス。
そう言って微笑むウィリアムの瞳は艶めいているのに、その奥にははっきりとした苛立ちが見て取れた。
思わず助けを求めようとアルバートを見るが、彼もウィリアムと全く同じ瞳をしていたのだから観念するしかない。
今夜はきっと、二人の兄に抱き潰されるのだろう。
そうして朝の執務が出来ないようにさせてから、ちゃんとルイスに食事を摂らせようとしているのだ。
お仕置きにしては甘ったるい罰のようだけれど、実際にその通りなのだから間違いはない。
ウィリアムもアルバートも結局ルイスに甘いのだ。
ベッドの中でもそれは変わらないし、むしろベッドの中でこそとても甘やかしてくれる。
だが、ルイスが二人に尽くすことをやり甲斐に感じていると知っていて朝の執務を奪おうとしているのだから、やはりルイスにとっては相応の罰になってしまう。
今夜は甘美な快感で眠れないのだろうなと、ルイスは夜を思ってぞくりと背筋を震わせては頬を赤らめた。
「…あさ…」
ルイスが目覚める時間にしては随分と陽が高く昇っており、ぼんやりした頭でベッドからでも手が届く位置にある窓のカーテンを開けて外の様子を覗き見る。
昨夜はウィリアムとアルバートの手により存分に甘く快感に満ちた夜を過ごしたおかげで、ルイスの体は怠いし少しばかり喉も痛い。
漏れ出た声は掠れていて、まるで砂糖菓子のような甘さを含んでいた。
体は怠いけれど不快感はない。
ウィリアムとアルバートがちゃんと体を清めてくれたのだろうことは、寝ぼけているルイスにもよく分かった。
水が欲しいなと辺りを見渡せば水差しとグラスが置いてあり、さすがお二人だとルイスは感心しながらこくりと水を飲んだ。
甘いものはすきだが、ここまで甘い夜はどうにかなってしまいそうで少し怖い。
ルイスは気怠げな表情を浮かべながらここにはいない兄を想い、目元を赤く染め上げた。
「おはようルイス。良い朝だね」
「疲れは取れたかい?」
「…おはようございます、兄さん、兄様」
用意されていた服に着替え、とたとたと覚束ない足取りで食堂へと足を運べば探していた二人がいた。
白いエプロンを身に纏った兄の格好は見慣れない姿で、普段は自分が身に付けているはずのそれもどこか新鮮な気持ちで見ることが出来る。
けれど昨日の言葉通り朝の執務は全て奪われ、机の上には三人分の食事が用意されていた。
お二人の食事は全て僕が作りたかったのにと、ルイスは眉を下げて落胆する。
ジャムでお腹を膨らませるんじゃなかったと昨日の自分を後悔するが、それが二人の目的なのだろうことは見当が付く。
ルイスはため息を吐いてからウィリアムにエスコートされるまま椅子に腰掛けた。
そうして目に入ったのは、ウィリアムとアルバートにより用意されたプレートだ。
オムレツとベーコン、ベイクドビーンズにマッシュルームのソテー。
それらに加えて、小さく盛られたバターライスの山が二つ。
ライスというだけで珍しいのに、それはソースで模様付けられている。
「こ、れは…!」
赤いソースはトマトで、緑のソースはバジルなのだろう。
ライスの上にはトマトソースで描かれたウィリアムと、バジルソースで描かれたアルバートの絵があった。
二人の特徴を上手く掴んでデフォルメされている絵はとても可愛らしい。
顔を上げて実際に二人の兄を見れば麗しいほどに見目良い彼らがいて、視線を落としてライスを見れば愛らしく魅力的な彼らがいる。
ルイスは兄とライスを交互に見ては感激で両手を組んで瞳を輝かせた。
「兄さん、兄様!」
「ふふ。ルイスがちゃんと食べてくれるようひと工夫したんだが、気に入ってくれたかい?」
「はい!この絵、お二人にそっくりですね!とても可愛らしい…!」
「アルバート兄さんが描いてくれたんだよ。さすが、兄さんは器用だよね」
「私はウィリアムの案を採用しただけさ」
「ウィリアム兄さん、美味しそうです!アルバート兄様も美味しそう…!」
プレートを見てはそわそわしたように兄を見上げ、ルイスは感じたままの感想を伝える。
二人の手を煩わせて食事の用意をさせてしまったことは申し訳ないけれど、それでも二人が自分のために食事を用意してくれただけでなく、ルイスを思って工夫したプレートを出してくれたことがとても嬉しかった。
食が細く偏食の気があるルイスがちゃんと食事を摂れるようにという二人の想いが込められた、実在した愛情そのものだ。
ウィリアムとアルバートが用意してくれた食事ならば残すわけにはいかないと思っていたが、それ以上に食べるべき理由が出来てしまった。
ルイスは赤い瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべていたが、次第に眉を下げて呻くような声を出す。
「〜…た、食べるのが勿体無い…!」
「ふふ。早く食べないと冷めてしまうよ」
「せ、せめて写真…兄様、今から写真屋を呼び寄せても良いですか?」
「駄目だ。早く食べなさい、ルイス」
「…はい」
懇願するように当主たるアルバートを見たが、容赦なく却下されたために渋々ルイスは諦める。
せっかくお二人が僕のために作ってくれた、だいすきな兄さんと兄様の食事だったのに。
しょんぼりと肩を落として用意されていたカトラリーを手に取ると、二人の前にはルイスと同じプレートが用意されているが描かれている絵は違うことに気が付いた。
ウィリアムの前にあるのは赤いソースと緑のソース、アルバートの前にあるのは二つとも赤いソースのバターライスだ。
「お二人のは僕と違うんですね」
「あぁ。僕のにはルイスとアルバート兄さんを描いてもらったんだ」
「私のものにはおまえ達二人を描いてある」
「これ、僕ですか」
よくよく見れば確かに二人のプレートにある片方のライスに描かれているのはルイスで、特徴をしっかり捉えて可愛らしくデフォルメされている。
器用なものだとアルバートを見れば変わらず彼は優雅に微笑んでいたが、その目には「早く食べなさい」という圧が感じ取れた。
ウィリアムも同じように無言のまま微笑んでおり、ルイスは慌ててカトラリーを手に用意されたプレートを見る。
そこには可愛らしいウィリアムとアルバートが描かれており、ルイスの心を擽ってきた。
どちらから食べれば良いのか、どこから食べれば良いのか。
ルイスはまたも唸るような声を上げては情けない顔をして兄を見た。
「…か、可愛くて食べられないです…!」
「…ルイス」
「だ、だってこんなに可愛い兄さんと兄様を食べるなんて…僕には出来ません!」
「さっきは美味しそうだと言っていたじゃないか」
「それとこれとは話が別です!とても美味しそうですけど、僕には食べられないです!」
苦悩しながら言うルイスに、ウィリアムもアルバートも呆れたように瞳を伏せた。
せっかくルイスを思って用意したというのにこれでは意味がない。
他の何より自分達を好いてくれているルイスならば喜ぶだろうという過剰な自信が、決して過剰でなかったことは素直に嬉しいと思う。
今はそれが裏目に出てしまったようだけれど。
「僕のこと、食べてくれないんだ?」
「え?」
「僕はルイスのこと、君ごと食べてしまいたいけれど」
ウィリアムは覗き込むようにルイスを見て、持っていたカトラリーでルイスの薄い唇をツンと軽く突つく。
同時に赤い舌で赤い唇を見せつけるように舐めては口角を上げた。
まるで誘惑するようにルイスを見やるウィリアムは整った容姿と相まってとても色気がある。
「食べるって…あの」
「ふふ」
「た、食べても…構いませんが」
「そっか。嬉しいな」
明らかにライスではない方を所望している声色に、今朝方まで求められていた事実をそっちのけで反射的に返事をしてしまう。
言ってから恥ずかしくなったようで、ルイスの頬は感動とは別の意味で一層赤く染まっていた。
ウィリアムはそんなルイスにまたも見せつけるように手元のバターライスにスプーンを入れてゆっくりと口に運んでいく。
勿論、赤いトマトソースで描かれたルイスの絵で飾られているバターライスだ。
味わうように噛み締めては飲み込む姿がどこか官能的で、ルイスは思わずアルバートへと視線を逸らす。
「ルイス、口を開けて」
「え、あー…ん、む」
「美味しいかい?」
「…ん」
アルバートと目が合ったかと思えば口元に何かを押し当てられ、言葉の通り口を開ければ濃厚なバターと爽やかなバジルの風味が広がった。
ゆっくりと噛み締めてはごくりと飲み込み、問いかけには勿論イエスを返す。
子どものようにアルバートの手から食べさせられたのだと気付いたときにはもう遅く、ルイスは肩を上げて彼からスプーンを奪い取った。
あのアルバートにそんな真似をさせるだなんて失礼にも程がある。
弟限定で面倒見の良いアルバートはさして気にはしないのだが、ルイスはそうもいかないのだ。
むぅ、とアルバートを照れたように睨むルイスは、はっとしたように二人が作ってくれたプレートを見た。
「あ、あぁっ!アルバート兄様が!!」
嫌な予想の通り、ルイスのプレートにあった片方のバターライスは無残にもアルバートの顔が半分に欠けている。
口に残るバターとバジルの風味はやはりアルバートが描かれたバターライスのものだったようだ。
ルイスは絶望をそのまま顔と声に乗せ、机にうつ伏せるように項垂れた。
「に、兄様が…」
「ルイス、私はここにいるが」
「そうですけど…でも、せっかく兄様が僕のために描いてくださった兄様だったのに…」
「ややこしいね、その表現」
残念がるルイスは可愛いし、たかが食事一つでここまで盛り上がれるというのもある種の才能だろう。
それだけ執着されているのだと思えば自ずと気分も良くなる。
欠けた兄の絵を見ながら不貞腐れるルイスを見て、ウィリアムとアルバートは互いの目を合わせては静かに頷いた。
続けてウィリアムは頭を、アルバートは背中を優しく撫でさすり、ルイスを慰め宥めながら遅いブレックファーストを時間をかけて食べていく。
覚悟を決めてウィリアムのバターライスにスプーンを入れたときのルイスの表情こそ写真に残しておきたかったと、食事を終えたばかりの二人の兄は実感していた。
(…やっぱり、せめて写真が欲しかったです)
(また作ってあげるさ。それほど特別に思うこともないだろう)
(駄目です、お二人の食事は僕が作るんですから!)
(そう思うならジャムで食事を終わらせる悪癖はなくそうか、ルイス)
(…はい)