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ドラマストア・長谷川海 独占インタビュー(前編)

2020.10.14 08:00

激動の半年とこれからを見据えて―バンドや楽曲制作、そしてファンへの想い

 「君を主人公にする音楽」をコンセプトとした関西発・正統派ポップバンド、ドラマストア。今年の3月には、第12回CDショップ大賞2020 関西ブロック賞を受賞し、4月には、ミニアルバム「Invitations」をリリース。収録曲の「東京無理心中」が柴門ふみ原作のドラマ「女ともだち」主題歌など、活躍の幅を広げているが、今年はコロナウイルス感染拡大の影響で初のワンマンツアーが延期や大型フェスの中止などにも直面した。
 誰もが予想だにしなかった激動の半年間、そして制作やバンド運営ついて、ギター、ヴォーカルで作詞を担当する、長谷川海さんに話を伺った。

―第12回CDショップ大賞2020は、授賞式と無観客ライブ、ありがとうございました。あれが3月でしたから、本当にご無沙汰しています。もう半年が経ちましたね。

 そうなんです。あの3月のCDショップ大賞以来の東京が今日なんです。半年も都内に来ないことが初めてでした。

―あの時のライブは、初めての無観客ライブだったかと思いますが、実際にやってみてどうでしたか?

 無観客ライブは、僕らはあれが初めてですね。
 無観客ライブは、やっぱりさすがに良いところばかりではないというか、ちょっと寂しいなという思いがあったり、モチベーションが若干変わってきちゃうなという、もちろんマイナスな部分もあるとは思いましたし、イレギュラーな対応だったなとも思いました。ただ、画面の向こう側で、みんなが見ていてくれているのを信じることであったり、そういう内面な部分に関して、今まで考えて来なかったことに触れられる新しいキッカケでもあったかなと思います。

 それよりも、現場の方、スタッフの方、CDショップ大賞実行委員の方が、“こんなにちゃんと聴いてくれてるんや!”がすごく嬉しかったです。(同席していたCDショップ大賞事務局長の髙安に向かって)一番聴いて下さってますよね!(一同、笑う)めちゃくちゃ真っすぐに聴いてくれていて、まさに僕たちのファンが普段しているような目をしてくれていたので、こういう人がトップに立つグループがやっているとしたら、これはある種、無観客じゃないなと思って。むしろ自分たちにとってカメラの向こうにいる人たちのこともイメージはありましたけれど、正直なところ、ちょっと失礼な話かもしれないけれど、CDショップ大賞の関西ブロック賞を選んで頂いた皆さん、初めて僕たちを観たかもしれない関係者の人に対して感謝が届いて欲しいな、というのが一番だったかもしれないです。結構、感覚としては無観客ではなかったかもしれないなという感じでした。


コロナ禍を泳ぎきる柔軟さと強い気持ち

―温かい言葉をありがとうございます。さて、この半年間、誰もが予想しなかったいろいろなことが起こったと思いますが、やはり大変でしたか?

 僕たちとしては、大変だったとこと大変でなかったことの両方があって。

 ありがたいことに、僕がひとりでの仕事でラジオの初めてのシーズンレギュラー(MBSラジオ「週刊ヤングフライデー」)が決まったり、ドラマの主題歌(BSテレビ東京・テレビ大阪 真夜中ドラマ「女ともだち」の主題歌「東京無理心中」に抜擢)になったり、そういうファンのみんなを飽きさせないトピックが毎月あったので、盛り上がりに欠けることはない半年だったかなと思います。また、自宅にいて時間のあるファンを介して、改めてドラマストアがクチコミで広がっていく、ゆっくりした時間もありました。もっと言うと、こんなにも長い夏休みを人生の中で過ごすことがないと思うので、自分のやりたいことに触れるチャンスだとは思ったんですよね。特に僕なんかは、音楽漬けだったら、ちょっとしんどくなってしまうタイプで、いろんな経験を音楽に還元できるんじゃないかと思い、家族との時間を大事にしたり、友人とボイスチャットをしながら1日中ゲームをしたり、観てこなかったドラマを2日で一気見したり…。そういう普段の生活だったら、ちょっと難しかったかなと思うことが出来たのは良かったのかもしれませんね。

 ただその反面、Twitter上で頭打ち状態になってしまったり、ファンのみんながこの状況に疲弊しているかなと思っても、具体的なアプローチが出来なかったり、あるいは、何かアクションを起こすとカドが立つのではないか?など余計なことを考えてしまったり…。心と動きと両方とも制限されている中で、心が摩耗してしまった、というのはお互いにとって良くない時間だったかなと思います。

 でも、その中で “これから何ができるのか?”という施策をした上で、ドラマストアの下半期の動きや全体の動きを再調整する時間にもなったので、“決して無ければよかったな、こんな時間” というようにしたくないと思っています。必ず、“この苦しみがあったからこその今日だよね”というのを来年以降でしっかり作っていきたいと思います。

―前向きな転換というか、気持ちが強いですね。

 前向きですね。いやー、悲観してても仕方ないかなーと思いますし、僕らが、“なんじゃ、この半年” と言っていたら、ファンにもそういう風に伝わってしまうと思いますので。まぁ、せめて、もちろん、無理やりカラ元気している訳ではないですけど…。やっぱり社会人経験も生きていますね。しんどかったなと思うことも、絶対に “あの日に怒られた経験って、今日のためにあったよね”というような経験が社会人になってあったので。おそらく今回もそういう風に転換していくし、するんやろな自分で、と思ったので、あまりめちゃくちゃ苦しいコロナ期間というわけではないですね。


さまざまなことに目を向けるからこそ広がる視野

―お話を伺っていると、たくさんのことに目を向けて、一番好きなものに還元していこうという気持ちもありそうですね。

 少し話が逸れてしまうかもしれませんけど、 “三食、白ご飯でもギターさえあればいい” みたいな人とお話をするのは苦手で。僕はそういう人と真逆なんですよ。“どんなことでもやりたい。でも、一番好きなのが音楽やからやってる”というところがありまして。正直なところ、去年くらいまで、若干後ろめたい気持ちがあったんです。“この人より頑張っているのかな?”とか、“やっぱり海ってアーティストっぽくないよな”とか、“なんだかんだサラリーマンだったからソツなつこなせちゃうよな” みたいなことが、悔しかったりもしたんですが、芸人の方々とレギュラーのラジオの枠をもらったり、いろんなテレビ局、ラジオ局の人と話をした時に、“すごくちゃんと話せるね” “良い趣味持ってるね” と言われたりとかしたんです。そういう経験をしているうちに、やっぱり現代はマルチやったり、多趣味が武器な時代なんじゃないのかな?って思えるようになってきて。だったら自分は、めちゃくちゃアーティストを突き詰めるのではなくて、個として、人間として横幅で勝負するのもひとつなのかな?と。考えてみると、音楽のことをまったく考えずにアホほど羽目外して帰ってきた日に、曲って出来たりするよなーって思ったんですよね。

 メンバーもマネージャーも、僕が音楽漬けになったら、スグ辞めるやろうなと思っていると思っているので。音楽だけに没頭するような生活は、逆に苦しいですね。

―だからドラマストアという、聴く人を主人公にするような、物語を作っていくことができるのではないですか?

 そうなんです。いろいろなところに目を向けることが、曲作りの材料になっていて。そもそも、バンドを組む時に、僕はどういう歌を歌いたいやろな?と考えると、せめて同世代の背中を押したい、と思ったんです。じゃあ同世代は何をやってんねんやろ?と思うと、社会人。じゃあ俺、社会人の気持ちを知らずに必死こいてフリーターやってて、伝わるんかな?と思ったので、メンバーには社会人をしながらバンドやりたいんやけど、それでも良かったら俺とバンドやろうって言って、ドラマストアは始まったんです。
 それと同じ理由で、いろんな人のいろんな話を聞いたり、今日も東京に来てインタビューを受けさせて頂いたりという経験が、自分の中で小さな蓄積になっているんだろうなと思っていて。これからも、いろんなことに手を伸ばしながら、中途半端に興味を持つということを逆に止めないでいたいと思っています。自分の可能性を28、29歳にしてまだまだ広げたくなってきちゃいましたね。


―なるほど。第一線で活躍し、いまは60代どころか70代にさしかかっていても、若いアーティストの音楽を純粋に楽しんでいるような人が私の周りにもいますね。

 えぇ!!

 そういう子ども心を忘れない、心にしっかり余白がある大人になりたいと思ったら、狭く狭く突き詰めるよりも、僕は完全にマルチで活躍したいタイプなんだろうなっていうのは、この1年で自分と相談して分かりました。コロナ期間の半年も含めて、自分のやりたいことを改めて確認する良い期間になりました。


歌詞から浮かび上がる、主人公の表情やビジュアル

―作品のことについて伺います。歌詞の中で女性を主人公にした時に、一人称が “わたし”と“あたし” がありますが、その出し方ってどうしているんですか?

 あぁー、本当に感覚なんですけど、“わたし”っていうとどっちかと言うと、日本人っぽいというか引っ込み思案な、俗に言うふわっとした女の子ですね。女優さんで例えるなら、有村架純さんとか松岡茉優さんとか、そんな雰囲気ですね。“あたし”っていうと、土屋太鳳さんとか菜々緒さんとか、あるいはみちょぱさん(池田美優さん)みたいなイメージがあるなと、そのイメージの使い分けって感じですかね。

 自分の実体験を曲にすることは少ないので、より主人公になる女の子のキービジュアルや設定を考えた時に、曲調でもそうですが、それに合った言い回しにするように心がけていて…。半分バンドマンじゃないんですよね(笑)

―小説家や脚本家のような感じですね。

 そうですね。そういう仕事をしているんじゃないかと思う時が多いくらいで。特にMVがある作品だと、最近は僕が原案も担当させてもらっているものがあって。だいぶ、内面から絞り出すというよりかは、出来るだけ日常に誰かを妄想して書いているので、他の人に興味を持ち続けないといけないとダメだと思うんですよね。


―歌詞の話に戻りますが、歌詞を読むと、主人公の女の子のビジュアルが浮かぶんです。この子は巻き髪かな?とかネイルは派手めかな?とか…

 そうなんです、そうなんですよー(笑)

 主人公の設定は、場所から決めたりすることもあります。これは、マクド(マクドナルド)で女子会している感じや、とか、これは、ちょっとくたびれた新卒2~3年目のちょっと慣れてきたけど会社辞めたいなと思っているサラリーマンの山手線降りたときの帰り道で、ネクタイも緩んでるだろうな、とか。そういうこともイメージして僕は書いていますね。

―20代っていろいろと悩むし、30代になると折り合いつけられるようになりますが。私も20代で会社員を経験しているので…いま、20代で会社員だったら、曲を聴いてぜったいに帰り道で泣いていると思います。

 あはは!めっちゃ嬉しいです!

 実は40代50代のファンの方も、すごく増えているんですよ。娘が聴いていてお母さんもハマったとか、50代のアイドルが好きそうな感じのオッチャンがライブ来て手を挙げてくれていたり…。しかもその周りにファンの若い女の子たちもいて、“またね、オッチャン!”とか言って、こちらが “どういう関係?(笑)”と言いたくなることもあるんですよ。それを見る度に、年代を問わず、ファンの方々が自分たちが好きなように自分の生活を重ねてくれているなと思ったら、僕たちが評価されてきた理由は間違ってなかったかなと思います。


―世代、性別問わず歌の世界を共有してくれていますね。ドラマストアの音楽は、ライブで盛り上がるだけではなく、ファンが長い時間一定の温度を保って愛し続けているような印象があります。

 本当にそれはポップバンドの一番目指すべきところかと思いますね。

 僕ら、メンバーが変わったり、僕が入院したり、ドラムが入院したり、ドラマストアというバンド名の如く紆余曲折があった6年間だったんです。だから、急にバズる、バズるって言葉も好きじゃないんですけど、急に“来る”ような売れ方をしてこなかったんですよね。いまどきクチコミで、ゆっくり広がって今に至るというのが、本当に僕たちらしいなと思います。むしろファンの子たちも同じスピードで、一歩一歩、歩いて来てくれることに対してのの愛しさが凄いなって感じる日々です。

 もちろん爆発的にも売れたいですけど、売れたとしても、長くゆっくり愛されるスタンスは崩したくはないなと思っていますね。


より深く愛すると、もっと感じ取れる情景

―前作のアルバムに収録されている「三月のマーチ」が、私は現代版の「なごり雪」のように感じました。別れや、季節はめぐるという描写にそう感じたのですが、「なごり雪」も世代・性別問わず多くの人に愛されていますが、やはりこの曲も多くの人の琴線に触れるところがあるなと感じています。

 えー?!鳥肌立ちましたよ、ホンマですか?(笑)
 僕らが子どもの頃って、レンタルショップに連れて行ってもらって、親に“早よしなさいよ”と言われながらCDを選んで、曲はMDにダビングして、歌詞はコピーをして、見ながら覚えていたんですよね。

 今って、歌詞もネットで調べれば簡単に知ることが出来るし、サブスクで簡単に音楽も聴けてしまいます。簡単に手に入るようになると、音楽がどこに集約されるか?というとMVなんです。言葉よりも、良い曲か?楽しい曲か?という判断基準になっているように感じていて、僕はそれが寂しいことだなと思っています。日本人ならではの余白の文化だったり、隠されたメッセージを読み解くチカラだったり。そういうところを、何とか訴えかけることが出来ないかな?という創作努力はずっとしているんです。

 もちろんバンドマンなんで、嫉妬をすることもザラにありますし、他のバンドの“この歌詞が良い”ってどういうつもりで言ってるんだよ、とか思うこともあります。ホンマはめっちゃ難しいことをしたいかもしれないけど、それでは伝わらないかもしれない。だから、伝えたいことが、聴き手にバレるか?バレないか?そこの“塩梅” を意識してどうやって曲を組み立てるか、MVを作るか?ということは監督とも常々話をしていますね。

 分かりにく過ぎたら、聴き手に受けないことは分っています。だけど、こだわりは絶対に捨てるべきではないし、内容が無いペラいものにはしたくない。そうなった時に、“この曲、どこまでバラす?”ということをすごく考えながらやっているんです。ドラマストアは、一般的に受け入れられる音楽でキャッチーなことをやっているつもりです。 “ドラマストアが好き”という層には、キャッチーな感じと受け取ってもらうのでも良いのですが、“ドラマストアが大好き”という層には、もしかしたら、コレってこういう意味があるんじゃないかな?と気付いてもらうことを二重の目的にして曲を書いているところは非常にあります。

―好きになればなるほど、より味わい尽くせるという感じかと…

全然、ライト層を毛嫌いしているわけではなくて、“曲が良い”と言ってくれるのには、大満足なんですよ。ただ、あなたがもう一歩踏み込んでくれるんやったら、実は面白いことを用意していますよっていう状態。それこそ本当に、ドラマストアだと思うんです。店頭に並んでいる商品は一般商品で良いんですけど、実は店の奥にはもっと凄い秘蔵品がありますよっていう、もうワクワクするお店を作っているような状態で曲は作っています。押し付けは全くしたくないんですけど。みんながもっと考えて楽しめる、耳以外でも楽しめるような音楽がしたいなと思っています。

後編へ続く。

ドラマストア

「君を主人公にする音楽」をコンセプトとした関西発・正統派ポップバンド。

2014年
大阪にて結成。
2018年
東名阪広にてワンマンライブツアー「4th Anniversary Tour」開催。全公演チケット即日SOLD OUT。
2019年
1st Full Album「DRAMA STORE」発売。同作品にて「タワレコメン」獲得!アルバム収録曲に5つのTVタイアップを獲得。YouTube Musicの2019 年注目アーティスト「Artists to Watch」に選出。
2020年
1st Full Album「DRAMA STORE」が第12回CDショップ大賞2020「関西ブロック賞」を受賞。 4th Mini Album「Invitations」発売。収録曲の「東京無理心中」が柴門ふみ原作のドラマ「女ともだち」主題歌に決定。
MBSラジオ「週刊ヤングフライデー」にVo&Gの長谷川海のレギュラー出演開始。


★ライブ情報

ドラマストア4th Mini Album「Invitations」リリースツアー
「可愛い子にはワンマンさせよツアー」
10/17(土)大阪:梅田CLUB QUATTRO
11/18(水)東京:渋谷TSUTAYA O-EAST

※ライブチケットは、全公演ソールドアウト。現在、配信チケットを販売中。

配信チケットや詳細は、ドラマストア公式ホームページへ。

インタビュー:石井由紀子(ミュージックソムリエ)