メリアン・C・クーパー監督『キング・コング』
トランプ大統領と
類人猿の怪獣とのこれだけの接点
228時限目◎映画
堀間ロクなな
トランプ米大統領が新型コロナウイルスの感染による入院措置から復帰して、ホワイトハウスに支持者たちを迎えて演説したときのニュース映像を見て、わたしは強いデジャヴ(既視感)にとらわれた。バルコニーに仁王立ちになってマスクをむしり取ったその厚顔と巨躯が、あの類人猿の怪獣キング・コングと重なったのである。
そこで、さっそくメリアン・C・クーパー監督の古典的作品『キング・コング』(1933年)を最寄りのレンタルビデオ店から借り出して確かめてみたところ、テレビの前で閃いた直感以上に両者の接点を発見してのけぞってしまった。そのへんにポイントを絞って、以下にストーリーを追ってみよう。
ハリウッドの野心的な映画プロデューサーが、美貌の女優アン(元祖絶叫クイーンとなったフェイ・レイ)と撮影隊を率いて貨物船ではるか南洋へ向かい、太古の生物がいまだに生き残っているロストワールドで巨大なキング・コングと出くわして、アンをさらわれてしまうという設定だ。そもそもそこは地図にのっていない孤島で、われわれが日常を過ごしているのとは別種の世界であり、見方によっては、トランプ・タワーに象徴されるように実業家としてドナルド・トランプがおよそ世間一般とはかけ離れた世界で(報道によればほとんど税金を納めることもなく)生きてきた過去と符合するだろう。そして、キング・コングがジャングルのなかで恐竜どもとの死闘に打ち勝って君臨するようすも、トランプが不動産王の名をほしいままにした事情と二重写しになるのだ。
やがて、キング・コングは映画プロデューサーの手によってアメリカ本土へ連れてこられると「世界第八の不思議」のキャッチフレーズで人気を博し、実物をひと目見ようと全国から群衆が押し寄せるありさまはトランプの支援者集会そのものであり、新聞記者連中がカメラのフラッシュを向けると逆上して手がつけられなくなるのも、マスコミ嫌いのトランプの態度を彷彿とさせるだろう。かくして、アンを片手につかんでニューヨークを闊歩したあげく、エンパイアステートビルの頂上へ登って仁王立ちになった姿こそ、まさにアメリカの王者のものであり、わたしにホワイトハウスのバルコニーに立つトランプ大統領とダブらせたものだった。当時の複葉翼の戦闘機が群がって攻撃を仕掛けてきたときも、キング・コングはアンを後生大事に扱って危険から遠ざけ、そのいじらしい振る舞いは、みずからの支援者集会で「自分にはもう免疫がある。盛大なキスをしよう。男たちにも、美しい女たちにも!」と声を張り上げたトランプよりもずっと紳士的と言えるのではないか。おびただしい銃弾を全身に浴びて、ついにビルから転落したキング・コングの最期を見届けて、映画プロデューサーはこう呟く。
「飛行機じゃない、美が野獣を射止めたのだ」
現代のわれわれの目にも斬新なこのSFX作品の公開によって、キング・コングが初めて人類の前にお目見えした1933年は、世界大恐慌の猛烈な嵐が吹きすさび、アメリカではフランクリン・ルーズベルトが第32代大統領に選出され、ドイツではアドルフ・ヒットラーが首相の座に就いて、第二次世界大戦へ向けて歴史の歯車が大きく回りはじめた時代だった。それから90年近くが経過して、アメリカでは新型コロナウイルスの犠牲者数がいまや第二次世界大戦での死者数(約29万人)に迫ろうとする状況のもと、さて、トランプ大統領はきたるべき選挙でどのような結果を手にするのだろうか?