鉄道テロ対策を考える
1.はじめに
こんにちは。中3の終わりに差し掛かっているのに、キーボードは人差し指でのタイピングしかできない筆者です。後輩も増えてきました今、後輩のお手本となるような研究を執筆できるよう努めていこうと思います。
さて、今回は鉄道のテロ対策について触れていきたいと思います。このようなテーマを選んだきっかけは、「北朝鮮のミサイル問題」があるからです。以前、北朝鮮からミサイルが発射されたとき、各鉄道会社で対応に違いが出たことはご存じでしょうか?このような違いにも触れて、最良な対策も筆者なりに書いていこうと思います。最後までお読みいただけますと幸いです。
2.テロとは?
正直、筆者自身テロの定義が曖昧なので、そもそも「テロって何?」ということから触れていきます。調べてみるとテロは「テロリスト(terrorist)」「テロリズム(terrorism)」「テロル(terror)」の略称であることが判明しました。「テロリスト」は暴力革命主義者、簡単に言うとテロを起こす人という意味であることはよく知られています。「テロリズム」は暴力主義、簡単に言うと危険な考え、「テロル」は暴力、恐怖といった意味なので、厳密には違いますが、テロリズムとテロルは同義と考えて大丈夫です。このようなことから、「テロ」は「脅威、威圧を与え社会的、政治的な影響を与えること」とされています。テロと言えば、2001年に発生した「アメリカ同時多発テロ」、日本では1995年の「地下鉄サリン事件」などが有名です。
今回の研究では、鉄道に関するテロということで、鉄道会社における単なる事故については触れないことにします。一方、個人や団体に明らかな故意性が認められる場合については触れることにします。
3.鉄道テロ対策の歴史
では、鉄道のテロ対策について実際の事件にも触れながら、調べていきたいと思います。
① 「地下鉄サリン事件」※1
まず、日本の鉄道史において、テロ対策に積極的に乗り出すきっかけとなった事件に「地下鉄サリン事件」※1があります。「地下鉄サリン事件」により、事件のあった営団地下鉄、JR、大手私鉄などの鉄道会社は、事件後しばらく駅にあるゴミ箱やコインロッカーは使うことができなくなりました。
また、「駅構内または車内等で不審物・不審者を発見した場合は、直ちにお近くの駅係員または乗務員にお知らせ下さい」などといった車内放送や、広告で利用客に注意を促すようになりました。今では当たり前となっている注意喚起は、「地下鉄サリン事件」が契機だったようです。
②相次ぐ海を越えたテロ行為
地下鉄サリン事件後、日本ではテロ対策を強化したこともあり、目立った事件は起こらなくなりました。しかし、今度は欧米諸国のテロ行為が目立つようになります。まず、世界を震撼させたテロ事件が「アメリカ同時多発テロ」※2になります。アメリカでは非常事態宣言が出され、アメリカ本土の空港、港は全て閉鎖されました。日本でも警備は一層強化され、また航空機のハイジャックに備えて各航空会社では金属探知機の設置なども行われました。さらに、「スペイン列車爆破テロ」※3、「ロンドン同時爆破テロ事件」※4、「モスクワ地下鉄爆破テロ事件」※5などが相次ぎ、その度に日本政府は警備を強化しました。
③日本初の新幹線火災死亡事件
そんな中、日本の新幹線で死亡事件が起こります。皆さんも記憶に新しいかと思いますが、2015年に起きた「東海道新幹線火災事件」※6です。新幹線は飛行機と違い、手荷物検査なしに車内に荷物を持ち込むことができます。この事件で容疑者はそれを利用し、車内にガソリンを持ち込みました。このような事件は想定されておらず、いかにして危険物を新幹線に持ち込ませないか、いかにして対応するか、それらを見直すきっかけとなりました。
※1地下鉄サリン事件…1995年3月20日、宗教団体オウム真理教が当時の営団地下鉄(丸の内線、日比谷線、千代田線)の車内に青酸ガスの約500倍もの毒性を持つといわれるサリンを撒いた事件。13人が死亡、約6300人以上が重軽傷を負い、今もなお後遺症に苦しむ人も多い。
※2アメリカ同時多発テロ…2001年9月11日、ハイジャックされた4機の大型ジェット旅客機がアメリカニューヨーク世界貿易センタービルなどに意図的に衝突したテロ事件。4機の旅客機に搭乗していた乗客、乗員、犯人は全員死亡、ニューヨーク市でも2800人以上が死亡した。なお、日本人も24人が犠牲となった。
※3スペイン列車爆破テロ…2004年3月11日、スペイン首都マドリード中心部の3つの駅で10分間に次々と爆弾が破裂したテロ事件。約200人以上が死亡、約1500人が重軽傷を負った。
※4ロンドン同時爆破テロ事件…2005年7月7日午前8時51分頃から9時半頃までにロンドン市の地下鉄3か所と2階建てバスで同時爆破テロが発生。50人以上が死亡、約700人が重軽傷を負った。
※5モスクワ地下鉄爆破テロ事件…2010年3月29日午前8時頃、モスクワ市内の地下鉄で2件の自爆テロが発生。死者は約40人、負傷者も80人以上に上った。
※6東海道新幹線火災事件…2015年6月30日午前11時半頃、東海道新幹線新横浜駅~小田原駅に走行中に男が1両目の車内で、ガソリンをまき焼身自殺を図った事件。焼身自殺を図った男と、逃げ遅れ巻き込まれた女性が死亡、25人が重軽傷を負った。
4.現在の鉄道テロ対策
このような事件を経た上での、現在の鉄道テロ対策を紹介し、それが有効な対策かどうか考えていきます。
①駅構内におけるテロ対策
・巡回・立哨(りっしょう)警備
駅係員やガードマンが駅構内を回ったり、立哨と呼ばれる、一定の場所に立って不審者がいないか確認したりするものです。僕自身、巡回警備はとても有効策だと思いますが、立哨警備はその場に立っているだけになるので、どうしても死角が生まれ、あまり有効とは言えません。
・防犯カメラの設置
駅構内には防犯カメラも設置されています。この防犯カメラは先述したロンドン同時爆破テロ事件の犯人特定の有効な手掛かりになり、テロ事件後設置台数が急増していきました。次ページのグラフは日本の駅構内における防犯カメラの設置状況の推移についてまとめたものです。
平成16年3月はロンドンテロ以前、平成17年7月はロンドンテロ直後、そして平成27年3月は現在のデータとしてご覧ください。やはり、ロンドンテロ以降防犯カメラの設置台数が急増していることが分かります。この手はとても有効策と言えます。実際、テロだけでなく通常の事件でも防犯カメラが事件解決に貢献しています。
・その他
他にも、ホームの電子掲示板のテロップに注意喚起を表示したり、中身が見える透明ゴミ箱を設置したりしています。透明ゴミ箱はある程度有効と言えそうですが、中身が全く見えないゴミなどではあまり効果があるとは言えません。さらに、テロップ表示は、見て覚えている方はごく少数に限られ(実際筆者もあまり記憶にありません…)、有効策とは言えません。
埼京線に設置の防犯カメラ (提供:部員)
透明ゴミ箱
②列車内におけるテロ対策
・車掌や警察官の搭乗警備
これは、車掌や警察官が車内を巡回して警備警戒に当たるものです。トイレやゴミ箱もチェックしています。ただ、ラッシュ時において車内を移動するのは不可能と言えます。さらに、巡回できる回数も限られるため、どうしても穴ができてしまいます。
・防犯カメラの設置
痴漢防止が主目的のようですが車内への防犯カメラの設置はテロ対策にもなります。これはとても有効です。徐々に設置路線も増えてきています。下の表は防犯カメラを車内に設置している路線・設置箇所と設置予定の路線・設置箇所を示したものです。
※2017年12月2日現在
この先、東京オリンピックを控えているからか、首都圏を中心に設置路線は増えています。しかし、現在設置が完了している路線でも、全車両・全号車には設置されていません。
③まとめると…
これまでの対策の評価をまとめていきます。評価は筆者の主観です。
評価一覧
◎:改善が必要ないほどの有効策
○:少々改善の余地があるもの
△:ある程度効果を発揮しているが、よりよい改善が必要なもの
×:効果があるとは言えない
このように評価しました。では、これらの改善策も考えていきます。
5.テロ対策の改善点
① 巡回警備
巡回警備は、警備頻度を増やすべきだと思われます。その他は、常に緊張感を持って警備にあたるなど、警察官としての規範意識をより徹底すべきです。これは、警察官だけに関わらず駅員や運転手、車掌などにも当てはまることです。
② 立哨警備
立哨警備と巡回警備を併用することで、効果を発揮でき、連携も可能になります。立哨警備も規範意識が大切です。
③ テロップ表示
テロップ表示はそのまま継続しテロップと同時に、駅構内や車内で放送を流すべきだと思います。特にテロ対策は乗客の協力も大切です。
④ 透明ゴミ箱
ゴミ箱の中身は、高頻度で回収すべきです。こうすることで、危険物をいち早く処分することができます。
⑤ 搭乗警備
混雑した車内では、車内放送で乗客に協力を促すしかありません。
⑥ 防犯カメラ
防犯性が非常に強い防犯カメラは、全車両・全号車に設置するべきです。また、「防犯カメラ設置中」というステッカーを車内の至る所に貼って、知名度をあげていくのがいいでしょう。これにより、テロリストが犯行をためらうかもしれません。
⑦ その他の課題
「東海道新幹線火災事件」で課題になった、「いかにして危険物を駅構内に持ち込ませないか」それを考えていきます。東海道新幹線火災事故後から約9カ月後のJRダイヤ改正にて、危険物持込みに関する規定が改正されました。
基本的に危険物持込みは禁止ですが、「容器を含めた3kg以内の可燃性液体を手回り品として持ち込む」ことは例外として認められていました。しかし、例外の範囲に含まれていた「ガソリン」で火災事件が起こってしまったため、2016年3月26日のJR6社ダイヤ改正で「可燃性液体」は、「日用品として小売店等で購入できる可燃性液体や高圧ガスを含む製品(2kgまたは2L以内で、中身が漏れ出ないように十分保護されているものに限る)」を例外として、全面的に持ち込みが禁止されました。具体的な製品を下の表にまとめました。
凡例 ○:条件を満たしていれば持ち込み可能なもの
△:基本持ち込み不可だが、量や重さによって例外が認められるもの
×:持ち込み不可なもの
しかし、あくまで禁止されただけであって、隠そうと思えば持ち込むことは可能です。では、どうしたらよいのでしょう?
航空機の保安検査場ではどうでしょうか?保安検査場では「金属探知機による身体検査」「X線による手荷物検査」の2つがあります。航空機は先述した「アメリカ同時多発テロ」により保安体制は強化されました。厳重な保安検査により、今日の航空機では目立ったテロ事件は起こっていません。では、鉄道もそのようにすべき...とは言えないでしょう。なぜなら、保安検査には非常に長い時間がかかるからです。実際、羽田空港などの保安検査も繁忙期には長蛇の列ができることもあります。鉄道でも保安検査場を敷くと航空機よりも多くの列ができてしまうでしょう。すると、予定の列車に乗れなくなるなどの事態が起きてしまうでしょう。もともと、「乗車までスムーズ」という点を売りにしている鉄道では最良な策とは言えないでしょう。
筆者の意見としてはこれまで通り、不審者に荷物を入れさせない、これに尽きると思います。不審物に関しては、犯人が不審物を置き去りにする可能性が高いと考えられます。つまり、その置き去りにした荷物をいち早く回収する、ということです。不審者は犯行前に挙動不審になることが多いと思われますので、そこをいち早く連行できるとなおいいと思われます。そのためには、車掌、駅係員、警備員はもちろんとして乗客も常に警戒に当たり、乗客には車内放送で呼びかけるなどすべきだと思います。
また、防犯カメラの設置もカギになるでしょう。そのためには「群衆行動解析技術」※7を活用するべきです。リアルタイムで監視が可能で、挙動不審な人や不審物を判定することができると考えました。特に混雑した駅や車内ではとても有効です。まだまだ流通数は少ないようですが、鉄道に限らず、イベント会場などでも活用できると思われます。
6.北朝鮮ミサイル問題
さて、話は変わります。はじめにでも触れたように北朝鮮のミサイルが発射されたとき、鉄道会社によって対応に差が出たようです。それは、列車の運転を見合わせるか否かです。下の表に運転を見合わせた路線、そのまま運行を続けた路線を一部ですがまとめてみました。日付は8月29日(火)のミサイルが発射された時のものです。
運転を見合わせるか否かの判断は「Jアラート」※8の発表によって行われました。今回Jアラートで対象地域になった北海道、東北地方、北関東地方、新潟県、長野県のほとんどの路線は運転を見合わせました。
※7群衆行動解析技術…日本電気株式会社(NEC)が開発した技術。防犯カメラの映像解析により、大型施設やイベント会場における数万人規模の混雑環境下で群衆の混雑度と流れを定量的に把握し正確にデータ化、そして追従や衝突回避など混雑環境での人特有の挙動を再現可能なNEC独自の群衆モデルを用いて、分析粒度を最適化することで、高精度でリアルタイムな推定・予測を実現した。
※8 Jアラート…全国瞬時警報システムの略。地震、津波、弾道ミサイルの発射など緊急事態が発生した際、住民に直接速やかに情報を知らせることを目的に2007年から運用。
また、Jアラートの範囲対象外である相模鉄道(神奈川県)や多摩東京モノレール(東京都)、名古屋鉄道(愛知県など)は安全確認のため約10分間運転を見合わせました。
一方、Jアラート対象範囲内である長野県を通る、JR飯田線とJR中央西線は運行が続けられました。JR東海によると、情報を複合的に勘案し、当社エリア内に飛来するおそれはないと判断したようです。
運転を見合わせると、多くの利用客に影響が出ます。特に8月29日は通勤ラッシュ時に重なったため、より大きな影響が出ました。さらに、列車が10分遅延するというと、乗客への対応や他路線への振替乗車の依頼などが必要となり、鉄道会社にとってはかなりの損益となります。しかし運転を見合わせず被害が大きくなってしまうと元も子もありません。
↓運転を見合わせた名古屋鉄道
↓運転を続けた東京メトロ
7.運転を見合わせる基準は?
ここからは筆者の意見です。
まず、Jアラートの範囲に含まれた都道府県を通る全路線は運転を見合わせるべきです。そのため先述の状況ではJR飯田線やJR中央西線も運転を見合わせるべきだと思います。さらに万全を期してJアラートの範囲に含まれた都道府県に隣接する都道府県の路線も安全確認のため、運転を見合わせるべきです。やはり、背に腹は代えられません。鉄道会社は運賃をもらう代わりに乗客の命を預かっているわけですから、安全確保を第一に考えるべきです。
ただ、隣接する都道府県の末端部だけを通る場合や直通運転などによって他路線にも影響を与えてしまう場合など、一部例外を認めてもいいと思います。
8.まとめ
①テロ対策には群衆行動解析技術を用いた防犯カメラの設置がとても有効である。
②警備員のみならず乗客もテロには常に警戒すべきである。
③北朝鮮ミサイル問題について…Jアラートの範囲に含まれる都道府県にかかわらず、隣接する都道府県の路線も安全確保のため運転を見合わせるべきである。
9.終わりに
テロ対策で一番大切なものは意識だと思います。常に警戒していないと、いくら優れた技術があっても意味がなくなってしまいます。筆者自身も警戒に当たろうと思います。
今回の研究ですが、後半が駆け足になってしまい、本当にすみませんでした。もともと、北朝鮮問題をメインにしようと考えていたのですが、時間が無くなってしまいました。次号は下準備をしっかり行ってから執筆を行いたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
10.参考文献・サイト
・テロとは…
https://www.fdma.go.jp/ugoki/h1406/6_6.pdf
・進むテロ対策~鉄道輸送から | 防災コラム | 安心安全情報 | iTSCOM.net
http://www.itscom.net/safety/column/176.html
・国土交通行政におけるテロ対策の総合点検-国土交通省
http://www.mlit.go.jp/common/000043204.pdf
・9・11同時多発テロ事件以後の米国におけるテロリズム対策
www.ndl.go.jp/jp/diet/publication/legis/228/022803.pdf
・主要国における公共交通機関のテロ対策-ロンドン同時爆破テロ以降の動向-
http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk1_000007.html
・鉄道におけるテロ対策の概要
https://www.excite.co.jp/News/column_g/20171007/Bizjournal_mixi201710_post-10973.html?_p=2
・電車内の痴漢、首都圏の路線別対策状況リスト…埼京線と京王線は車内カメラ
https://www.westjr.co.jp/press/article/2016/03/page_8492.html
・東海道・山陽新幹線車内防犯カメラの増設について
https://www.jreast.co.jp/press/2015/20150911.pdf
・新幹線車内の防犯カメラの機能変更及び増備について
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2800F_Y1A220C1000000/
・京王線に防犯カメラ 痴漢対策、私鉄で初
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ25I3M_V20C16A3TI5000/
・都営地下鉄の全車両内に防犯カメラを設置します
http://railway.jr-central.co.jp/ticket-rule/_pdf/kiken.pdf
・車内に持ち込めない危険物のご案内
http://jpn.nec.com/press/201610/20161024_05.html
・NEC、数万人規模の混雑度と人の流れをリアルタイムかつ高精度に予測する技術を開発
~群衆行動解析技術を強化~
http://www.asahi.com/articles/ASK4Y5SN2K4YUTIL011.html
・JR東は運行、西は見合わせ ミサイル対応なぜ違った?
http://toyokeizai.net/articles/-/186721
(中学3年 KN)この記事は2017年に発行した『停車場113号』に掲載されたものです。情報データは当時のものです。