ゴトータケシ流 オートバイ乗りの自転車遊び(第3回)
二輪ジャーナリストの後藤 武 氏といえば、オートバイ業界では言わずと知れた実践派の重鎮。おまけに陸・海・空すべてが遊びのフィールドと豪語してはばからないノリモノ遊びのプロでもある。そんなゴトー氏、どうも最近は自転車移動がアツいらしい。もちろんそんな面白い話を『GOGO-GAGA!』が放っておくわけがない。半ば強制的に自転車を手渡し「ゴトータケシ流」のサイクルライフをレポートしてもらうことにした。
前代未聞のフレームペイントが完成!
アイデアが形になっていく過程を見るのは嬉しいものだ。それがプロフェッショナルの手をお借りして、予想を越えたものになっていくのであれば喜びは倍増である。
カドワキコーティングさんでエンヴォイの塗装する様子を見せていただいたのだが、そりゃー見事なものだった。
パウダーコーティングの作業は以前にも見たことがったので、はじめこそ「そんなの知ってるし……」と侮っていたのが、現場に行くと自分の知っているものとはずいぶん様子が違った。
コーティング前のフレームとフォーク。これがどんな風に変身するか楽しみである。
とくに驚いたのはカドワキコーティングさんのペイント室。規模がデカいってのもあるんだが、ガラス張りの部屋の中で、誰もが真新しい白の低発塵スーツを着て作業にあたっている。入室する際など、色々なところに独自のルールが表示されている(企業秘密のため工場の全景をお見せすることはできないが)
不詳ゴトー、じつは大学卒業後、某自動車部品メーカーの実験開発セクションで働いていた。カドワキコーティングさんの環境や雰囲気はまるで当時働いていた研究室のようであった。壁を見れば品質管理に関するメモが貼られているし、出荷前の製品の保管もシッカリしている。
ブラストをかける前に脱脂・洗浄を行う。油分が残っているとブラストによって素材の中に染み込ませてしまうことになる。
とにかく丁寧な作業に脱帽
ペイントというものは、ペインターさんの腕や気分(コレ、とっても重要)によって大きく左右される。「なにを今さら当たり前のこと言ってんだ」と思われるかもしれない。
しかし、なんとなくキレイに見えても細部を見ていくとメチャクチャに雑な仕事をされている塗装仕事は少なくない。強いはずのパウダーコーティングだって、やり方がまずいと数年で中の素材が錆びてヒビだらけになってしまったこともある。
しかし、ここはシステムを確立させてバラツキが出ないようにしている。クオリティーコントロールってやつがキチンと取り入れられているのだ。元エンジニアの勘が、ここなら安心しておまかせできると告げていた。つい「思い切りやっちゃってください」と言ってしまったくらいである。
メインフレームのコーティングを行う前に古いペイント(ってもまだほぼ新車だけど)を剥がさなきゃいけない。マスキングする部分も職人さん任せではなくキチンと書面で申し送りされているからミスがない。
ボルトの当たり面やベアリングが入る部分を丁寧にマスキングしたらいよいよブラストである。ここでの仕上がりは、後々ペイントの仕上がりにも影響するから慎重に。これが終わったらいよいよ塗料を吹き付けていく。
カドワキコーティングはメーカーの新車塗装も手掛けているため、塗装してはまずい部分をよく熟知している、ヘッドチューブやBB、シートチューブを塞ぐ専用の治具も用意されていた。
ブラスト作業で使用するメディアは二つ。まずは切削力の低いプラメディアで元の塗装を剥がし、次に切削力の高いアルミナで地の表面を荒らして塗料との密着力を強くする。
ブラストが終了したところ。見事にアルミ地むき出し。これをポリッシュしてクリア仕上げってのもアリかもなんて不遜なことを考えてしまった。
無塗装状態のフレームをいざシルバラード色に!
今回のような2色の塗り分けは企業秘密的な部分もあるのでお見せできないとのこと。我々は塗料を吹いて焼付け(換装)が終わった状態から見学させてもらった。
この時点ですでに美しいのだが、じつはもう一つ工程が残っている。クリアの吹付けである。
色付けが終わったフレーム。かなり美しい。正直な話、このままでも全然OKな感じもする。
パウダーコートにクリアがあったとは・・・
お恥ずかしいことだがパウダーコーティングでクリアを塗るなんてまったく予想外だった。普通に塗っただけでキレイなんだから、それで終わりになるものだと思っていたし、そもそも一度コーティングしたら、その上にまたコーティングなどできないと思いこんでいたのである。
ブースにぶら下げた状態でクリアのパウダーを吹き付けていく。白だから塗りムラ、塗り残しも分かりやすい。クリアを吹き付けるのはフレーム前半分の赤い部分だけ。後ろはチヂミ塗装を生かす為、クリアは使わない。
最初に粉体を吹き付けるパウダーのクリアは白。赤いフレームが真っ白になっていく。
「せっかくキレイになったのになんで白くしちゃうの」と言いたくなるところだが心配はいらない。窯に入れて焼き付けたら溶けて透明な塗膜をつくる。
窯から取り出したフレームを見た瞬間、サトー編集長と「オオ」と声が漏れる。さっきので十分キレイだと思っていたがこれは格別だ。輝き方がまったく違っている。
この後、ひそかに集めていたパーツを組み込んだらいよいよ「俺の」エンヴォイの完成。たぶんサンタクロースの格好が似合う自転車になるであろう。シルバラードにこの自転車とプレゼントを山盛り積み込んで子供たちに夢を届けたいものである。
やっぱりクリアを上にコーティングすると輝きが違う。塗膜も厚くなるから飛び石などにも強くなるだろう。マングースのロゴはデータから新たにステッカーを作成した。
艶々の赤い部分とチヂミのブラックとのコントラストが良い感じである。このツートンカラーは他で見たことがない。後藤の率いる自転車女子チームがどんな反応を示すか楽しみ。
リアキャリアの雰囲気はシルバラードの荷台に塗っているLINE Xにそっくり。強そうな雰囲気が漂う。パウダーコーティングでこういう仕上げにできるとは思っていなかった。
フォークのツートンも良い感じ。これならホイールはブラックのままでも似合いそう。
久しぶりに「I.D.E.STORE」井手さんのもとに戻ってきたマングース。もうすぐ完成だ。
著者プロフィール
後藤 武(ごとう・たけし)
航空機雑誌『シュナイダー』や二輪専門誌『 CLUBMAN』(いずれもネコ・パブリッシング)の編集長を経てフリーの編集ライターに。オートバイ、クルマ(主に4WD車、アメリカ車)、航空機等、乗り物記事を多く手掛ける。『2ストロークマガジン』(ネコ・パブリッシング社発行)編集長を務める傍ら、『DAYTONA』誌(ネコ・パブリッシング) や『MOTONAV』I誌等のメディアで連載企画も展開している。若者向けWEBメディア『MotoBe』、『CarBe』アドバイザー。レッドブルエアレースのTV放送の解説など 。