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「空の王さま」ニコラ・デイビス 文 ローラ・カーリン 絵

2020.10.21 07:33

とても私的なことなのですが、鳥が好きです。

なんでかと言われてもうまく答えられないのですが、やはり翼を持つそのフォルムなのでしょうか。「美学的に完璧なものが世の中に二つある。時計と猫だ。」と言ったのは「幸福論」で知られるアランですが、鳥もまた、完璧な姿のように思うのです。もちろん、様々な種類がいるので、一括りに話すのは難しいのですが。フクロウなんかの猛禽類は、猫にも似ていますよね。

と、まるで本に関係ない話をしてしまったのですが、そうした個人的な偏愛もあり、鳥が出てくる絵本はそれだけで嬉しくなってしまいます。さらりと美しい、軽やかな鳥を描いてしまう作家さんには本当に憧れがあり、それはマティスやピカソに始まり、ヨゼフ・ウィルコン、オタ・ヤネチェク、ゲルハルト・ラールと絵本の世界にも沢山います。そして、ここ最近の作家でこれは!と声を上げてしまったのはイギリスで活躍中の作家ローラ・カーリンなんです。

以前より当店でも紹介させていただいており、どの作品も素晴らしいのですが、3年前に出版された「空の王さま」を読んでからは、勝手に鳥の絵本作家として敬愛しています。

おはなしは、ふるさとのローマから遠く離れた場所で暮らすことになり、孤独な環境で寂しさを感じる少年が、お隣で飼われているハトにローマ広場のハトたちを思い出し、ハトと飼い主のエバンズさんと交流を始めるところから始まります。

エバンズさんはたくさんのレースハトを飼っていて、少年はその中の一羽は名前をつけたらおまえさんのハトにしていいと言われます。少年は迷わず「レ・デル・チエーロ」と名前をつけました。イタリア語で「空の王さま」です。

その日からエバンズさんと一緒に毎日ハトの訓練を行います。電車に乗り、知らない町からハトを放す。行くたびに、少しずつ遠くしていく。そしていよいよレースの日。これまでに良い記録を出したことのない「空の王さま」。少年は自分の心も一緒に、このハトと旅をするんだと思いを込める。ハトたちは遠く遠く離れた街、少年のふるさとローマから一斉にスタートします。

しかし、二日と二晩待ってもハトは少年のもとへ帰ってきません。きっとハトはローマを自分の居場所だと思ったんだと諦めた少年が、エバンズさんに背中を押され外へ出てみると…。

ハトに心を重ねた少年が、少しずつ自分の居場所を見つけていくおはなしです。

ゆっくりと進む少年とハトの静かな時間を、言葉少なに見守るような読書。レースのハトを飛ばした、ただそれだけのおはなしの中に閉じ込められた、本当にささやかな心の振動を、読後の余韻の中で感じられたときに、私はなんだかとても心強く、頼もしい大切な作品になりました。

そして全編を通して軽やかに柔らかに描かれた美しいハトたちを、是非沢山の方に見ていただきたいです。

鳥好きの方にはもちろん、引越しなどで環境が変わる人への贈り物にもぴったりの一冊です。是非、オンラインストアでもご覧ください。


空の王さま」ニコラ・デイビス 文 ローラ・カーリン 絵