一夜明け 棟上げ
一夜明け、きのうをふり返る。
夕日が西に大きく傾き射し込むオレンジの光の中で
GIとカイトのおやこの演出で
盛大なるもちまき、菓子まきのみごとな、それはみごとなパフォーマンスだった。
どちらにせよまぶしくてみえなかった。
バタバタ片付け薄暗く顔もはっきりしなくなった頃監督のかけ声で終礼。
ケガもなく無事終えられた感謝をのべ、ビールとお赤飯をみなに手渡し
あたしたちもホッと、3台に分かれ帰路につく。
GIの軽トラと、パパとママとれいくんの車に「焼き肉行きたいよね~」と1日の労をねぎらい声をかけた。
なぜか、あたしの車にらんちゃんとあおちゃんが乗っている。
BAと帰るとぉ~とぐずり、乗り込んだのだ。
「はらへった~!!」
「BA!!うまい棒とおもちがあるよ。どっちがいい」らんちゃんだ。
その夜、疲れすぎてGIは風呂にも入れずベッドに倒れ込むように寝た。
あたしもれいくんをお風呂に入れながらふたり、うつらうつらして、あとはよろしくと倒れ込みたいが、
ちょっと手伝ってくれんと終わらん~とかいとが、「じゃあ、みるくおねがいします」と、ミルクのとちゅうのれいくんをミルクを口につっこんだままもってきた。
若夫婦はせわしなく動き洗濯や片付けの音がした。
もう朝かと思っておきたら0時半。
そこから、右を向いたり左へと寝返りを繰り返すがやっと朝方少しうとうとした。
その間、なんども浮かんだ光景があった。
もちまきが終わって駆けよるらんちゃんだ。
「BA!!みて!」
手にはちいさな透明のポリ袋、中に紅と白のお餅が入っているのか、よくみえないが
うれしくてたまらなく握りしめた小さなグウをあたしに向けている。
帰る皆さんに挨拶をと意識がそこへいかないでいる。
iPhoneをひらくと、ラインで
「行けなかったけどすごく感動した。
ひとつひとつ
丁寧に、しっかり、心をこめて進む姿に心から拍手を送りたい!」とかの
いくつかの応援の声が入っていた。
この一瞬で舞い上がった。
その顔が、あたしに飛び込んできた顔が、らんちゃんの「ひらったよ~」の顔だったのだ。
GIのとなりに寝てやしないかと、足をまさぐるが今夜はパパたちと寝ているようだ。
らんちゃんを抱きしめたかった。
もちまきに予想以上のヒトがかけつけてくれた。
すべてのヒトに声をかけられなかったけれど、しっかりみていた。
なのに、うちの子どもたちの姿はあたしの目にはいっていなかった。
あの中で、らんちゃんがもちひろいをしていたのだ。
小さな手で、おもちを7個も拾っている。うまい棒が、めんたい味と、チーズ味と、もう一本青いやつ。あ、5円玉の白いリボン!らんらんと2人で作ったやつもある!
どんなかおして拾ったんだろう。
あれだけの人がいる中で
必至でモチひろうらんちゃんがいたのだ。
「はらへった~」
そういう、あたしへうれしいうれしいビニールの中身をあげるというのだ。
どれがいい?と聞いているのだ。
終わったときはまったく耳に入らなかった。
「あ、道まちがえた~。まっすぐきてまった~。すぐに曲がらんといかんかった~」
すでに辺りは夜になっていた。月も浮かんでいただろうか。
ぼ~っと運転をしていた。なにを考えていたんだろう。
左へ折れずにどこへ向かっているのか一瞬分からなくなった。
後ろのチャイルドシートから優しく諭すような声がした。
「ウーターンしぃ!BA!ウーターンしてごらん」
やさしくらんちゃんが言う。
だいぶ、すすんできた。
う~ん・・。そうするね。まっすぐ行っても大回りで家には帰れるけど
ひろくなったところで、らんちゃんの「ウーターン」をした。
2人も、おなかすいているだろうに、やさしく心配しないように大丈夫よと声をかけるらんちゃんがいる。
ちょっとコンビニ行こうっか。アイス買おう。
「うん」横のあおちゃんのチュパチュパの指もはずれてすぐお返事した。
もうアイスには寒いぐらいだけど、日曜日のアイスを忘れていたことが興奮にブレーキをかけた。
あらゆるヒトの熱い気持ちが頭の中でぎっしりふくらんだのを、いったんポチンと消した。
「マットッテネ~」入り口の目の前に車を停め、栗あん入り最中アイスを半分に割ってわたす。
「どこにおるとや!」もう家に着いたという電話の向こうのGIにこの感情をブワッと吐きだした。
駐車場にはGIの姿が電気の下にあった。
素早く荷物を片付け始めるGI。
ひとつだけもらってきたお赤飯をツバメの子みたいに交互にあけるお口3つへポンポンいれていく。
3つのうちの一つは自分の口だけど。
「なんで、おまえひとりで喰うとや」と片付けてくれるGIがいうが、
はらがへってはらがへってたまらないんだ。
「GI!うまい棒たべていいよ~」「オレはチーズは喰えんとって」
らんちゃんが狩りをしてきた。
いのちがけで捕った獲物を家族にわけてくれるという。
「あおちゃんね、アンパンマンのボールひらったけどね、赤ちゃんにあげた」の声がやっと聞こえた。
きっと何度も言っていたんだろう。
帰りに段ボールを出し、ダスキンさんの手作りの初ケーキと、美味しいお煮染めももらって若夫婦も帰ってきた。
「もう、家で食べん?お昼のお弁当も2つあるし、ごはんは炊いてないけど、カップめんもあるし」りおんがいう。
「あ、クーラーボックスにクリーブラッツのパンも少し残ってますよ!」カイトもいう。
お父さんだけが大好きな焼き肉だと、年に一度あるかないかの焼き肉にいけると思っていたのにと、
ガラガラ砕け散る音がした。
弁当をあけ、パンを食べながら
この辺、焼き肉屋なんてないやン~
「駅の裏にある デカイのがある」
そうなんどもGIは言ったのに。
あたしは そんな気がしてた。
7人で外食なんて大事だし、カネもいる。それ以上に思ったことがある。
自分たちのスタイルを誇りに思おうってこと。
「やっぱりやめとこう。あるもんでいいやん。ぜいたくせんで。」りおんのくちぐせだ。
今日ぐらい、舞い上がりたい、新開さんいわく、屋根に登ったものにしか分からない
あの王様になった気分、って言うやつだったかも知れない。
興奮した、特別なすごい日だった。
沢山のヒトに声をかけてもらった。
だからこそ、昼とおやつの残りを食べたい気もした。
「よか、焼き肉はあした明治屋ジャンボでいつもの安くてうまい赤身を買ってくるけん、
あした食べよう」
GIも 少し安心した。
それぞれに、いろんな残りものをごちゃごちゃと平らげながら
今日の感想を 聞いていった。
つづく