京山幸太 2020独演会振り返り 超新作浪曲の裏側 2020年10月号より
目次
1.独演会振り返り ブルー・ヘヴン
2.独演会振り返り アルプスの少女ハイジ
3.独演会振り返り 難波の帝王
4.ラジオ番組「浪花ともあれ浪曲ざんまい」
1.独演会振り返り ブルー・ヘヴン
―まずブルー・ヘヴンの話をお聞ききします。4月にネタおろしした時のことは覚えていますか。
幸:けっこうギリギリにできたんですよね。
―覚えるの大変でしたよね。
幸:あれは大変でした(笑)。意外と4日くらいで覚えられたんですけど、舞台ででるレベルにするために口に馴染ませる必要があるので、覚えてから5日くらいはずっと繰り返してて、それが大変でした。
―登場人物のキャラクターはすぐに入ってきましたか。
幸:覚えたての頃は自分の中にキャラが入ってないから、セリフを読んでるだけの状態なんですけど、その状態で「ありがピョン!」とか言うのは自分でも寒気がしてました(笑)。
―(笑)。
幸:あと、覚えて口に出さないと、リズムもわからないし、ダレるかダレないかわからないんで、覚えてから削った分もあったと思います。
雰囲気も幸枝若っぽい感じじゃないというか、さらに言うと良い意味で浪曲っぽい感じじゃなく、ドラマっぽいというか。啖呵じゃなくてセリフっぽかったんで、その点難しいとこでしたね。
―現代を舞台にしているからでしょうか。
幸:それもありますね。初月姉さんも啖呵の時にどう弾いてたらいいのかわからへんって言ってました。古典の啖呵って七五調になってて、節みたいな一面もあるので、なんとなくメロディができてるんですけど、セリフになるとそれがないんです。だから古典やる時には師匠からセリフになったらアカンぞって言われてて。でも、今回は逆にセリフをするネタやったから、そこが難しかったんですね。
―ということはセリフの部分も七五調の方がやりやすかった。
幸:まあ、そこはいいんじゃないですかね(笑)。意図せずセリフになってるわけではなく、セリフと認識して、セリフをやってるんで。
―なるほど。
幸:あれで啖呵になりすぎたら、おかしいですからね。時代が変わっちゃうというか。でも、こういうのをやると、これで古典はよくできてるなと改めてこれで思いますし、役を演じる役者さんと、啖呵を言う浪曲師ではやってることは全然違うやなと思いますね。
―近いように思えるけど全然違うんですね。今回はそんな難しさもありながらも、浪曲という形にしてくださって本当に感謝です。登場人物も普段の浪曲には出てこないような人たちですし。
幸:でも、なんか風俗嬢と客の感じは掴みやすかったので、そういう雰囲気が苦手な訳ではないんやろなって思いました。ただ、絶対に恥じらったらダメで、演じきらなアカンネタやから、覚えるだけじゃなくてしっかり自分の腹に入れなアカンって意識しました。最後の「ありがピョン」でハハハってならずに、あそこでグッとこさせないといけないんですよね。
―あそこは泣かせる場面ですもんね。
幸:だから、ホンマにあそこは真剣にやらなアカンなって思いました。でも、難しいんですよね…。
―そうなんですね。また、今後「ブルー・ヘヴン」見られるのを楽しみにしてます。
2.独演会振り返り アルプスの少女ハイジ
―「ハイジ」の話を聞かせてください。あの浪曲を作ろうと思ったキッカケはなんでしょうか。
幸:キッカケはよく覚えてます。みなと寄席の打ち上げを出演者と手伝いの人みんなで行ってた時に、誰かが「最近ハイジの再放送見てんねん」っおっしゃって、そしたら初月姉さんが「ハイジを語らせたら私はうるさい」的なことを言いながら異常に食いついたんです(笑)。「原作では実はペーターはこんな人で、この人は原作にはいない」とかめちゃくちゃ語りだして、その話が単純が面白かったのと、打ち上げにいる人みんながハイジを知ってたから、そういう意味でこれを題材にするのはありかなと思いました。ただ、単純にハイジの浪曲をするだけやと、おもんないんで、なんかひねろうと思って、ハイジの違和感を膨らませていくことにしました。それで、ハイジが天真爛漫過ぎることに自分は注目して、そこをおじいさんが嫌いっていう設定にして作っていきました。それはお笑いをやってるからこそ、そういう視点で書けたんかもしれないですね。
―ハイジの浪曲はどちらかと言うとお笑いの脳を使って書いたのでしょうか。
幸:完全にそうですね。演出もそうですけど、間とかも浪曲ではないですからね。けど、浪曲コントじゃなく、コント浪曲って感じですかね。
―そこ区別してるんですね。
幸:浪曲コントやとコントになっちゃうんで。
―なるほど。
幸:だから、コント浪曲にしてます。いちおうマクラの節入れて、バラシで終わってるから浪曲かなと。ギリギリを攻めるっていうコンセプトがあったんで、ギリギリ浪曲と言ってもらえるところを攻めた感じですかね。
実際これをやるのはめちゃくちゃ緊張しました。本当にスベるかもしれんと思ってたんで。初月姉さんにも事前に「これはめちゃくちゃスベるかもしれないです」って打ち明けてたくらい(笑)。
―でも、小物まで作って手が込んでましたよね
幸:そうなんです。でも、あそこが思ってた以上にウケなくてショックでした(笑)。一番時間もかけたのに。
―たしかに(笑)。お客さんも見守ってる感じなになってしまってました。
幸:辛かったです(笑)。でも、あれぐらいのスベりでよかったです。もっとスベると思ってたんで。
―そんな予想してたのですね。ということは、ネタを書きながら、これはウケるとかもある程度わかりそうですよね。
幸:そうですね。だからスベるのもわかります。実はハイジはもっと長かったんですけど、バッサリ切ったんです。それはその場面が丸々スベるってわかったんで。これがわかるようになったのはホンマにお笑いやってたからです。ドンズベリを経験したおかげで、スベる前に察知できるようになりました。
―そういう力が付いてきてるからこそ、もっと無難にハイジをやろうと思えばできたのかなと思います。でも、そこを敢えて攻めたか浪曲をしたかったのですね。
幸:そうなんです。普通にクララを出して無難にもできるんですけど、それはやりたくなかったんです。そんなん他の人でも書けるなというか。攻めた結果スベッたら仕方ないというか。
―ホンマはもっとウケるやり方はあったけど、自分でも結果がわからないくらいの攻め方をしたかったと。
幸:そうなんですよ。お笑いの話になってしまいますけど、お笑いライブの後に作家さんに評価してもらうんですけど、そこで「全体的に感覚が古ない?」って言われたことがあって。これがけっこうショックで、自分が無難にベタなことやり過ぎてるんじゃないかと考えるようになって、だから自分の会では攻めようかなと思ったんですね。
―あの攻め方は自分の会だからこそですね。
幸:自分の会でもあんな苦笑いされてるんですけど(笑)。でも、ええ思い出になるかなと思います。
3.独演会振り返り 難波の帝王
―最後は「難波の帝王」の話を聞かせてください。
幸:「難波の帝王」は浪曲のストーリーとしては無難ですよね。これはハイジが先に出来上がってたんで、ちゃんとウケるのも書いとかなアカンなと思ったんで書いたんです。
―よくできてる話やなと思いました。あれはドラマにあるストーリーを元ネタにしてるんですか。
幸:ヤング編というのがあって、そこからだいぶもらってます。
―ああいう復讐劇があるんですか。
幸:完全にそんな感じです(笑)。ただ、そのままやと普通の新作浪曲になっちゃうんで、超新作浪曲って銘打ってやるんやったら、何かできないかと考えて、閃いたのが歩いてて景色が変わる演出です。曲師の初月姉さんが急に立って、看板持って歩いたらおもろいなと思ったんですよ。
―それであの演出が入ってるのですか。話だけでも十分完成されてる気がしてました。
幸:あれはパッと映画を観て書きました。やっぱり浪曲をやってる人間やから、ストーリーを浪曲に落とし込むことはある程度できるんですよね。ここからバラシやなとかわかるんです。
―節の入り方も自然でしたね。幸太さんらしい節もあった気がします。
幸:それは自分で節付けしたからこそだと思います。節の話で言うと、一か所ワザとらしいと思うけど、敢えて残した節があって。最後に敵が負けた時に「本能寺で信長もこんな気持ちだったろうか」みたいなところです。急に浪曲臭くなるんですけど、節付けしたら意外と良い節ができてもうたから、これは敢えて節重視で置いとこうと残しました。
―聴いてると自然に入ってきましたし、耳にも残る文句でしたね。それ以外にも安珍で使ってる節や、河内十人斬りの文句も使われてました。
幸:「悪い奴らがのさばって、正しいものが損をする」は十人斬りの節ですし、孝子萬兵衛の節も使ってます。
―そういう場面が所々にありましたね。
幸:そういう言葉が自然と出てしまうんですよね。
―十人斬りや孝子萬兵衛の文句も元は別の浪曲で使われていたかもしれないし、良い文句が使いまわされてることは浪曲でもけっこうありますもんね。
幸:そうなんです!浪曲ってうまいこと七五調になる文句にしてるんですよね。
―それらを取り入れてるからこそ、浪曲らしさもあったのでしょうね。あのストーリーと長さなら他の舞台でもできそうですが、他の舞台でもあの演出は入れますか。
幸:良いと言われれば演出も入れます。あれないとタダの新作なんで。タダの新作ってなんかやるの恥ずかしくて。
―恥ずかしいってどういうことですか。
幸:「これを浪曲でやってみました!」みたいなのが恥ずかしいんですよね。例えば「ハイジを浪曲にしました!」単純にこれやと恥ずかしいんですよね。
―なんでですか。
幸:誰でもできるやんって思っちゃうんですよね。
―誰でもできないですよ。
幸:浪曲師ならそれくらいできますよ。だから、町田康さんも言ってましたが、キリスト教神話を単純に浪曲するだけやと面白いと思えなくて、キリスト教神話を関西弁の浪曲でやるみたいなひねりがないと自分はやりたくないんですよ。
―そうなんですね。「難波の帝王」は元ネタもあるし、シリーズ化したら人気出そうですけど。
幸:自分はそれをしたくないんですよ。極端に言うと、半沢直樹を浪曲にしましたみたいな空気を感じてしまうというか。
―白々しいんですかね。良くなるとか注目されるのが分かった上で、自作として出すのが。
幸:そうなんですよ。
―そういう立場になると、そういう気持ちになるのかもしれませんね。
幸:だから、「難波の帝王」も演出のアイデアが生まれへんかったら、たぶんやらなかったと思います。単純に現代を舞台に浪曲書いてみましたってのが嫌なんですよね。他の人がやってるのは全然いいんですけど。自分がやるとしたら。
―現代を舞台にしてるだけで嫌なんですか。
幸:例えば、その設定に意図があって、現代じゃないと成立しないものならアリやと思うんですよ。ただ、単純に浪曲を現代にしてみましたよみたいな感じが出たら自分は嫌なんです。それなら古典でやったらええやんって思っちゃうんですよ。
―なるほど。現代を舞台にしてることを売りにしてるのが嫌なんですね。
幸:そうなんです。古典でできないから、敢えて現代にしてるなら全然納得できるんですよ。
―なんとなくわかった気がします。何かとコラボしたことに価値を置く人いますもんね。結果の内容ではなく、○○×○○の式に価値があるかように見せるパターンありますね。
幸:そうですね。そういうのが苦手なんです。例えばアニメの浪曲化とか。自作する時にそれはしたくないなと思ってるんです。
―原作ファンを納得させられるとか、アニメを超えてたらいいと思いますけどね。アニメの映画化と同じ感じですね。
幸:そうですね。スーパー歌舞伎でワンピースもナルトも見ましたけど、あれは面白かったですからね。
―やはりコラボした結果、良いものになってたら、やる価値はあるんでしょうね。そこに作品への気持ちもいるし、難しいんでしょうけど。単純にお客さんが食いつくからみたいなノリでやるのは確かに違う気がしますね。
幸:だから、今後も書こうと思いながら、普通にしかできなくて、それ以上に発展できへんからボツにしてるネタは多いですね。一方でもっと浪曲もお笑いも書く力を付けるために数は書いていかなアカンなと思います。これまでセンスというかアイデアだけでやり過ぎてきてた部分があったので、ちゃんと書く自力をつけなアカンと思ってます。
4.ラジオ番組「浪花ともあれ浪曲ざんまい」
―最後にラジオ大阪で幸太さんが出演する番組「浪花ともあれ浪曲ざんまい」が始まりました、その意気込みを教えてください。
幸:ラジオパーソナリティは目標の一つだったので嬉しいですね。
―ラジオが目標だったことは意外でした。
幸:ラジオは好きですよ。有吉さんのラジオは毎週聞いてますし、オードリーさんのも、おぎやはぎさんのも聞いてます。
―そんなに聞いてましたか。昔から聞いてましたか。
幸:元々ではないのですが、二十歳くらいからですね。酔っぱらって、朝まで飲んで、しんどすぎて逆に寝れへん時に横になりながら、ラジオを聞いてました。二日酔いを過ごす方法としてラジオ聞くようになったんです(笑)。
―そんな馴染みが(笑)。今回始まったラジオはどんな内容でしょうか。
幸:浪曲を一席するのではなく、トークがメインです。「幸太は見た」っていう自分のコーナーもあって、楽屋とかで見た浪曲師や曲師の情報を発信するコーナーです。出演者は師匠や恵子お姉さん、初月姉さんなんでお笑いによりすぎることはないのですが、その中で真面目過ぎたらアカンし、その中で自分をどうだすか勉強になります。