大岡信を送る 谷川俊太郎
2020.10.28 11:48
本当はヒトの言葉で君を送りたくない
砂浜に寄せては返す波音で
風にそよぐ木々の葉音で
君を送りたい
声と文字に別れを告げて
君はあっさりと意味を後にした
朝露と腐葉土と星々と月の
ヒトの言葉よりも豊かな無言
今朝のこの青空の下で君を送ろう
散り初(そ)める桜の花びらとともに
褪せない少女の記憶とともに
君を春の寝床に誘(いざな)うものに
その名をしらずに
安んじて君を託そう
大岡信を送る
二〇一七年卯月
谷川俊太郎