◇お歳を伺ってもよいですか?
先日の朝、地下鉄電車に乗った時のことです。
朝は通勤客で込み合っていて、乗客の人からは盲導犬・ミッケルが見えないので乗る時に「失礼しまぁす。盲導犬と一緒に乗せてもらいまーす」と、ちょっと勇気を出して大きな声を出して乗るようにしています。
その日もそうして乗りこむと、誰かがドアの角の場所を開けてくれた感じがしました。
「ありがとうございます」と言いながらドアの横に立つと、横から「座られますか?」と、肩をトントンしながら年配の男性の優しい声が聞こえてきました。
「あっ、いいですかぁ? ありがとうございます。」とお礼をいいながら「ここですか?」と、一番端っこの席を白杖で探ったら、誰かが座っておられました。
すると先程の男性が座っておられる人に「一つ寄ってあげてもらえますか?」と言ってくださり、その人が横にずれてくれました。 きっとその男性は2番目に座っておられたのを、立って私に席を譲ってくださったんだなと思い、二人の方にお礼を言いながら座らせてもらいました。
すると、隣の方が先程の男性に席を譲ってくれたみたいで、最初の男性の方が私の隣に座られました。
少し経ってその方が「大人しいですねぇ」とミッケルを褒めてくれたので「はい、とても大人しくて賢いです」の会話から、盲導犬のことについて色々な話になりました。
その方は終始、穏やかで優しい声で会話をしてくださり、楽しい時間でした。
「この方はおいくつくらいの方だろう…。 70歳の後半くらいの方だろうか…。 そんな年配の方でありながら席を譲ってくださったんだろうか…」と、ふと疑問が湧き、尋ねてみました。
「失礼ですが、私は今63歳なんですけど、お歳を伺ってもよいですか?」と尋ねたら「そうですかっ、お若いですねぇ。私は91歳になります」と教えてくれました。
私は「えぇーっ!91歳。お元気ですねぇ。じゃあ91歳で私に席を譲ってくださったのですか…。ありがとうございますぅ」と驚いて御礼を言うと「はい、まだ足腰は丈夫ですから」と教えてくれました。
降りる時に何度もお礼を言い「どうぞ、お元気で」と言いながらお別れしました。
電車を降りて先程の場面を思い浮かべながら歩いていると、何とも温かい気持ちになりました。
私は目が見えなくなったことで盲導犬を持つことになり、そのお陰でこの慌ただしい時間帯の中、こんな感動体験をすることが出来ました。
そんなことを考えていたら胸が一杯になり、うっすら涙がにじんできました。
ミッケルがとても愛おしくなり、心の中で「ありがとう」と左手のハーネスをチョンチョンとし、「ミッケル グード」と感謝を伝えました。
ミッケルも嬉しそうに、いつもよりリズミカルに歩いてくれているようでした。
それからもう一つ、先程の男性が91歳に驚いている私に教えてくれたことがありました。
「この前、バスの中で他の人から“お若いですなぁ”と言われて、その人に尋ねたら奥さんが95歳、旦那さんが98歳でした」と笑いながら教えてくれました。
上には上があるもんです。
にこっ! 亀ちゃん
※写真は秋冬マットを買ってもらい喜ぶミッケル