‟楽しい”はつくるもの
実は私は、まだ野心は捨ててません。それは見果てぬ夢、まだ諦めることのできない夢。‟今よりはずっといい女になって、素敵な男性とめぐり合う”夢である。 あー、私の運命を明るく変える道はないだろうか。が、実は手は打ってある。こうなったら神頼みだ。
Aさんと会って、私は「おぉ」と感嘆と驚きの声をもらしていた。Aさんの話はこうだ。先日、ものすごく当たると評判の占いに行った。すると占い師の方の名刺に、御札が一枚ついていた。このときは気にもとめなかったのであるが、ある日何の気なしに、手帳に貼りつけてみた。そうしたら、不思議なできごとが次々と起こるようになったんだそうだ。
元カレから連絡があり、会いたいと言ってきた。そしてきわめつきは、長いこと友人として食事をする仲だった男性から、飲みに行った後キスを迫られたそうだ。
「モテたことがない私が、こんなことは初めて」とAさんは言う。
Aさんはキュートで頭のいい女性であるが、潔癖で身持ちが固い。おまけに人妻である。その彼女が「モテて、モテて…」というのだからただごとではない。
Aさんは手帳を取り出し、神のお告げの書かれたその紙をそっと撫でた。ふつうなら引き出しにしまっててもおかしくない、おまけに紙である。
「それなのに、どういうわけが私の机の上にいつまでもあるの。ふと見ると、その御札が目につくところにあるのよ」
それで手帳に貼ったところ、今回の出来事である。Aさんはこんなにムダにモテても仕方ないので、手帳のページを切り取って若い女のコに譲りたいという。
「私にちょうだい」という言葉を必死におさえた私である。
親切なAさんは、次の日占い師の方の連絡先を送ってくれた。私は即座に電話した。が、ずうーっと繋がらないのである。マズい。この御札のこと、世間が知り始めている。
そしてすぐにAさんに電話をかけて、自分の不運をせつせつと訴えた。私の切羽詰まったさまがすごかったらしく、Aさんは御札のお写真が送ってくれた。私はそれをカラーコピーして手帳にべったり貼りつけた。
私は嬉しくて、御札の紙を見せびらかしたら家族に笑われた。
「カラーコピーなんて、何の役にもたたないよ」
しかし私は御札の霊力を信じているの。この冬、これに賭けてみることに決めた。コピーだけど。
そして次の日、携帯に連絡が。私が昔からずっと憧れていた人からである。
「たまには会って、ご飯を食べようよ」
この嬉しさ、わかってくれるだろうか。やっと私のよさに気づいてくれたんだわ。美人で才媛の奥さんを貰ったと聞いたけど、やっぱり私の方が魅力的だって、あらためてよさに気づいたのね。そうでしょう、そうでしょうとも。
おまけに彼は低い声でこう続けるではないか「でもやっぱり、二人きりで会うわけにはいかないよね」
なんて甘く匂い立つ問いかけだろうか。私は「もちろんOKよ。いつでも大丈夫」と答えるつもりだったのであるが、彼は即座にこう言ったのだ。
「じゃ、僕は誰かを誘うから、恵美子さんも誘っといてね」
何か腑におちない。もはやデイトではなく、合コン要員としてお声がかかっているのである。
そういえば仲良しの友だちも以前こう言っていた「私のいちばん嫌いな恋愛は、グループ交際っていうものなの」
今の私はそれに近いかもしれない。とはいうものの、合コンはとても楽しい。
当然のことながら、‟魔性系”の女性は宴席で男の人にモテる。しかし、‟魔性系”は話が面白いうえに魅力的なので、合コンには欠かせない。であるからして、私は‟魔性の女”として最近さらに磨きがかかっているMちゃんに声をかけた。私は手帳をハンドバックのポケットに入れた。これでもう私は、今までの私じゃない。御札の魔力で、私は‟魔性系”を越せるか?
そして合コンへ出かけた。ここは今いちばん話題のレストランだ。電話番号も非公開のうえ、入り口がわからないようになっている。中はおいしいものとおしゃれなもので溢れていた。流行の格好をした男女が先端の空気に触れ、お喋りしてぐいぐい飲んでいる。こういうのいいな。自由な心を持った人は面白いものになんて貪欲なんだろう。楽しむことになんて一生懸命なんだろう。もちろん私もおしゃれしてこれからも前に進むつもりだ。
次に続く。
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