ショートショート 1321~1330
1321.無花果が薄いガラスの様な音で割れ、中には半分になった赤い星が銀色の煙を吐いており、地面では雨で透けた白砂の深い底で手を握りあって眠る大きな大きな二つの骸骨が姿を現す。それは神話が終わる少し前にいた絶滅最後の巨人の恋人達で、海色をした遠い過去で二人の鼓動は人類を置いて行ったらしい。
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1322.青い夜、おばけが月面旅行から帰ってきた。温かいココアを入れて戻ると机には今日の夜と同じ色をした宝石と本が一冊広げられており、宝石は月光が固まって出来る月特有の鉱石で、本は月の植物図鑑だと言う。「君が死んだら一緒に行こうか」と君が笑ってくれるので、私は何時までも死だけは怖くない。
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1323.君が髪を梳かすとチカチカと音を立て白く輝く石達が解け出た。「これは死んでしまった星達だよ」と瓶に入れながら言う姿を見て君が夜の神様だった事を思い出し、それをどうするのかと聞くと「愛するよ。役に立たない物は愛する他にないからね」と笑ったので私は一粒摘み、君に内緒で潰してみせた。
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1324.走馬灯の摘出に成功した。結晶化したそれに装置を付け、画面越しに観測された内容は抽象的だが実験体本人の記憶と違いなく、しかし奇妙にも波数が夢と同じだった。それ以来私の周りでパキパキと硬い音が聴こえだし、その度「私達は夢の中を肉体で動いているのでは」と一人が呟いた事を思い出す。
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1325.神様に気に入られた君が星座となり南の空に上がってしまった。「充電がもう無いよ」と音のない世界で言った君は今どうしているだろうか。今夜私は世界革命を起こして、神様から空を奪うよ。ジャンヌダルクも驚く様な英雄にでもなろうと思う。そしたら君の隣で星座になるから、もう少しだけ待っていて。
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1326.星になった君からメールが届く。最初は宇宙の風景や宇宙人の話が多かったが次第に見慣れない言葉が増え始め、それは君という星が作り出した言語らしかった。今や一つも交わらない言葉で私達は愛と雰囲気をもって会話をするのだが、それでも君が時折聞いてくる同じ言葉だけは未だ肯定文を送れずにいる。
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1327.落書きしたシーラカンスが教科書に住み着き、知恵袋に貼られたURLは『虚数水族館』というフラッシュサイトだった。「提供の方」を押すとチャイムが鳴り、水族館と書かれたキャップの配達員がいたので教科書を渡すと「承りました」と帰り、後日サイトの深海ページにて見慣れた少し下手な魚が泳いでいた。
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1328.「この路地に玩具と引き換えに願いを叶えるサンタがいる」と噂を聞き、私は喧騒から路地へと溶け込んだ。冷えた影の中をずっと進むと錆びた格子が見え、奥から手が伸びている。それに玩具を渡した途端明るくなった空には五つの月が並び、幽界と融和し混乱する街の端で、やっと私は君を見つけた。
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1329.教科書の隅でシーラカンスを飼っていた君と卒業式の後打ち上げをすっぽかし、電車にて海へ向かった。目を塞いでいる様な曇空の下、海に浸した教科書からぞろりと出てきたのは白地に斑点ではなく花模様の描かれた大きな神様のような魚で、帰り道、手を繋いだ私達はどこまでも歩きながら星を数えていた。
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1330.身投げした海の青色が太陽を覆う中、どこからか赤銀色をした星屑のようなものがチカチカと流れてきたので目をやると、イッカクの首に噛みついた人間がこちらを見る所だった。星屑はその吸いそびれた口から流れている様で、離されたイッカクが力なく海底へと沈む中、揺れる世界で私達は目を合わせ合う。