猫にもっとも多い病気 ~肥大型心筋症~
猫にもっとも多くみられる病気である“肥大型心筋症”は、突然下半身が麻痺して動かなくなることもある恐ろしい病気です。
今回は、肥大型心筋症という病気についてお話します。
肥大型心筋症とは
心臓は、筋肉が規則正しく収縮を繰り返すことによって全身に血液を送りこみ、細胞に酸素や栄養を供給しています。
しかし、心臓の筋肉、いわゆる心筋が次第に厚くなって心臓の収縮機能が低下すると、血液中の酸素や栄養が正常に送り届けられなくなってしまいます。酸素や栄養は、各器官が正常に働くために必要なため、その影響が全身に出てしまいます。
また、心臓の収縮機能が低下すると同時に、心臓の循環不全が起こり心臓内に血栓(血液の塊)が作られてしまいます。その血栓が心臓から流れ出て動脈に詰まると、それ以降の血液が流れなくなり、突然死することもあります。
このように心筋が厚くなることによって、さまざまな症状を引き起こすのが肥大型心筋症なのです。
症状
この病気は、ほかの病気のように徐々に症状が現れるのではなく、突然現れるのが特徴です。例えば昨日まで元気だった猫が、突然元気や食欲がなくなりぐったりと寝ていることが多くなります。
また、心臓の酸素循環がうまくできなくなって肺水腫を起こし、呼吸がうまくできずにゼーゼーと苦しそうにしたり、時には酸欠状態になって失神することもあります。
血栓ができるとその詰まった場所から血液が流れなくなってしまい激しい痛みを伴うため、猫は狂ったように鳴いたり暴れたりすることがあります。特に血栓が詰まりやすい場所は大動脈から両後肢に分かれる場所(腹大動脈分岐点)で、そこに血栓ができるとうしろ足の肉球は白くなり、猫はふらついたり足を引きずるようになります。その状態が続くと、やがてはうしろ足が冷たくなり、麻痺して動かせなくなってしまいます。
もちろんその腹大動脈分岐点以外にも、血液が流れているあらゆる場所で血栓ができる可能性があり、その場所で障害を起こしてしまいます。
原因
残念なことに、原因は今のところわかっていません。
発症が報告されている年齢は6ヶ月頃から16才と幅広く、すべての年齢の猫に発症する可能性があります。
また、メスと比べてオスの方が発症しやすいといわれており、中でもメインクーンでは遺伝による発症が報告されています。
検査
次のような検査によって、この病気の診断をします。
レントゲン検査
肥大型心筋症の猫の心臓は機能低下によって形が変わり、バレンタインハートとも呼ばれるハート型の心臓が写ります。
エコー検査
超音波検査で心臓の筋肉が正常よりも厚くなっていることを確認したり、心臓の中にある血栓を見つけることもあります。
血液検査
肥大型心筋症の場合、筋肉にあるクレアチニンフォスフォキナーゼ(CK)という酵素が異常値を示します。
ほかにも、血栓の影響で血液が流れていないと、うしろ足の脈拍を確認できなかったり、うしろ足の爪を切りすぎても血が出ないことにより、肥大型心筋症と診断できます。
治療
肥大型心筋症は原因不明の病気のため、まだ完全な治療法は確立されていません。
ただし、早期に病気を見つけることができれば、血栓を溶かす薬の内服や外科的に血栓を取り除くなどの治療法はあります。また、対症療法として強心剤や利尿剤、血管拡張剤などを使用し心臓の機能低下をやわらげることで、呼吸を楽にして体調の改善を図ることもあります。
しかし、そもそもこの病気になると、心臓が弱っている状態であることが前提としてあるため、外科的手術の際は麻酔の負担が大きく、手術中に死亡してしまうというリスクが高いです。さらに治療をきちんと行って状態が回復しても再発率が高いため、その後急に症状が悪化したり、突然死してしまうケースもあります。
予防
前述のように、肥大型心筋症はすべての猫において起こる可能性のある病気です。そして前触れもなく症状が現れることも多いため、この病気自体の予防は難しいでしょう。
しかし、飼い主さんがこのような怖い病気があるということを頭の隅に入れておくことで、早期に症状を発見できれば治療の選択肢も広がります。また、年に1~2回の健康診断により現在の心臓の状態を確認することも大切です。
動物病院を苦手とする猫は大変多く、飼い主さんも猫が嫌がることはしたくないという方も多いと思いますが、健康的に長生きさせるためにも、定期的に健康診断へ連れて行くようにしましょう。