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a gate

パイプオルガン

2020.11.14 22:02

 これは私が現在通っている教会の一つ、ベルギーのある教会のパイプオルガンです。

 どのパイプオルガンでも感動してしまうのですが、私は毎回、下から見上げて、その大きさに

圧倒され、そしてこの大きな楽器から吹き出される豪快なハーモニー、時に繊細な音色に鳥肌が

立ち、心が震えます。何度聴いても、何度体験しても慣れることがありません。


 欧州に来て、初めてパイプルガンと演奏し、その後も幾度となく時間を共にした楽器、パイプ

オルガンは私にとって大好きな楽器ですが、実は最近までパイプオルガンのことはあまりよく

知りませんでした💦

 一体どれだけの楽器の音をかね備えているのか、見えていないところはどうなっているのか…

etc…。そこで私が最近やっと学んだことをここに少し書き出してみます。



 パイプルガンは、紀元前ギリシャ時代に誕生した楽器と言われており、当時は水圧によって

押し上げられる空気で音を出していたそうです。

但し、この水圧を利用した機能は、パイプオルガンのために考えられたものではなく、水圧を

利用して空気を送り込む装置を実現させるために発明されたものでした。


 現在は、同じような構造でクロアチアの海辺に作られた海のオルガンが知られています。

こちらは打ち寄せる波の水圧によって押し上げられる空気圧によって音が出るのですが、

海辺に沿ってつくられたコンクリートの長い階段(段差は2〜3段ですが)から、オルガンの

ような音が出てくる仕組みです。

 朝、太陽が出てくるのを見ながらこのオルガンを聴く友人の動画に憧れて、昨夏はドイツ

から車でこの街へ旅行に行き、何度もこのオルガンの音に聴き入りました。

 今になって『なるほど、あの仕組みはギリシャ時代のパイプオルガンの始まりと同じ機能

だったのか』と繋がった次第です💧


 さて、ギリシャ時代のその後、水圧では音がまだらになり、ムラが出てしまうとのことで

次にエジプトで生まれた『ふいご』という風を送る装置を使うことで、パイプオルガンはさらに

発展します。

 この『ふいご』を使う構造では、重りの重さを利用して風を送り出していたそうなので、

こちらが現在のパイプオルガンの原型と言えそうです。

 現在はモーターを使って空気を送り込んでいますが、モーターはパイプオルガンの全ての

パイプの後ろ、ほぼ別室になってるような場所においてあります。

ですから、演奏していも、モーターが風を送る音はさほど気になりません…が、演奏していない

時に裏へ回ると、その音にかなり驚愕します😅

 


 さて、↑写真の表に見える金属のパイプ56本は、オルガンの中に仕込まれているパイプの

ほんの一部…実はこの裏側には多いと何千本ものパイプが林のように立っています。

 

 何千本もパイプが必要な理由は、パイプオルガンのパイプは1本で一つの楽器の1音しか出す

ことができない…つまり、例えばトランペットのソ音でパイプ一本、ピッコロのド音でパイプ

一本、という具合に作られているわけです。

ですから、低い音から高い音までを56鍵分とすると、×(カケル)楽器の数、となるので、結果的に

大きなパイプオルガンなどでは、軽く何千本が必要ということになります。

オルガンに仕込まれてるのがたった3つの楽器でも、パイプは168本必要ということになるのです。



 パイプオルガンは、パイプに風を送り、空気を振動させて音を出すわけですが、

先にも書いたように、パイプオルガンには空気を送るためのモーターが必要です。

 当然、オルガンに見合ったモーターが必要ですが、モーターが小さいと風を送る力が小さく、

風を送る力が小さいと、大きな音も、何種類もの楽器の音がハーモニーとなるような力を出す

ことができません。

 パイプオルガンがどんなに大きくてもそれに見合ったモーターがなければ、楽器が十分に鳴る

ことも、多彩なハーモニーで力を発揮することができません。

 ですので、モーターの大きさによってはできない曲も出てきたりするそうで、古いものの時には

モーターの買い替えも必要になったり、現在の演奏形態、オーケストラのような多数楽器の

ハーモニーを求めて、大きなモーターに変えたりもするそうです。


 

 次にその音色、音ですが、パイプオルガンは様々な楽器の音を出すことができますが、同時に

倍音の数や強さを調整したり、その組み合わせによって独特の音色を作ることもできるそうです。

 またパイプオルガンの構造上、音色を混ぜて新しい音色を作ることも可能です。


 優秀なオルガニストは、自らのセンスで一つの曲を無限に作り替えることができる…?と感じて

いた理由も、このように一つ一つ調べていくとなるほど、当然と言えば当然です。

オルガニストが試すことがたくさんあり、探る時間、作業は常に私の想像を超えてくるですが、

私の解釈によっては新しい音色を探り出してくれているのかもしれません。


 同時に、オルガニストのセンスで表現される演奏によって、私側のインスピレーションが刺激され

私が表現したものをオルガニストが感じ、彼らは客観性を持って分析します。

 音楽家達の間で生まれた感性を、オルガニストが音楽表現へ反映させる。彼らは全体の演奏が

さらに表現豊かで多彩なハーモニーを含んだものになるよう楽器の可能性を探り続けます。


 日本では音楽家同士が小さな編成で集まり、稽古することを『合わせ』というのですが、

私はオルガンとの『合わせ』の時は『合わせ』の要素が全くなく、ドイツで音楽家同士が集まり

稽古するという意味で使うところの『プローべ/お試し』という言葉を実感します。

 もちろん、全ての音楽家との『プローべ』は、音楽表現への『お試し』の時間なのですが、

広いクリエイティブさを持ち合わせている、という点では、オルガニストは特殊な音楽家、

と言えるかもしれません。


 „パイプオルガン使い“としての作業の忙しさ、技術者であるようなオルガニストの動きは、

演奏中も音楽する枠を超えたような、作業という別の仕事を繰り広げているように見えます。

そして教会の中に座って聴くパイプオルガンはとても優雅で、ダイナミックで興奮するもの

ですが、オルガニストの作業は優雅とは少し遠く、職人の仕事のように見受けるのです。

 


 欧州の教会には、オルガンがないところが珍しいほど、大抵パイプオルガンが設置されています。

しかし昨今、使われているパイプオルガンはその何%に過ぎません。

 経済的に教会がオルガニストを抱えることが難しくなっていることもありますが、オルガン自体が

取り扱いの難しい楽器であり、オルガンを専門として学んでいる人は他の楽器と比べると圧倒的に

少ないこともあるでしょう。

 

 修理、調律も、製作者がそれぞれの楽器と向き合って製作したものであるため、作業がとても

難しく、時間もかかるのだそうです。

 おまけに金属のパイプも鈴と鉛でできていて、ちょっと何かが当たってしまったら凹むような

素材…。これだけの素晴らしい楽器たちが蘇り、教会に音楽が鳴り響くためには、これらの

オルガンを維持してくれる技術者も必要なのです。


 

 私が現在稽古を続けているプログラムは大きく2種類ありますが、教会によってオルガンが

異なるので、それぞれの教会によって演奏を変える必要があります。

 ベースは同じですが、オルガンによってはトランペットがない、とか、低音が少ないなど、

細かいことほど書き込んでおきたいことがあるので、同じ曲でも教会の数だけ楽譜を揃えます。

 キャラクターの違うパイプオルガンとの演奏は、刺激手でやはり飽きることがありません。