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Lê Ma 小説、批評、音楽、アート

修羅ら沙羅さら。——小説。62

2020.11.16 00:15


以下、一部に暴力的な描写を含みます。

ご了承の上、お読みすすめください。


修羅ら沙羅さら

一篇以二部前半蘭陵王三章後半夷族一章附外雜部

夷族第四



かクてかさねて頌シて曰く

   見せて、と

    日野市の

   さゝやきはしないで

    多摩川の土手で

   やさしく

    雪の降る、白い

   むしろどこまでもやさしく

    白い色の中に

   うそのようにやさしく

    まだ生きてるの?

   さゝやきはしないで

    死んでいく

   見せて、と

    ひとりの雪菜に

   冀い

    まだ生きてるの?

   焦がれる儘に

    自分が自分に

   心から願い

    加えた

   冀い

    暴力のせいで

   そんなそぶりは

    それは雪菜の流血

   みせもしないで

    ほかでもない

   見たいの?

    まだ生きてるの?

   ゴックはさゝやき

    雪菜の流血

   先生、見たいの?

    雪菜の

   邪氣も無く

    まだ死なゝいの?

   あざ笑うように

    雪菜だけの

   充足(ミち多りテ)して

    それは流血

   嘲弄じみて

    まだ?

   わたしだけを赦し

    額から、そして

   ゴックはさ(ざ)さ(ざ)や(じゃ)く(ぐ)

    鼻

   見たい?

    唇…齒?

   見せて、と

    折れた齒?

   ゴックのさゝやきを

    流せ血を流せ流せ

   ゴックさえ忘れかけたその一瞬に

    冀い

   ゴックの部屋、その今や

    だれかに冀い、何かを…

   嘆かわしい程に(泣きたいくらいに、もう)明るい(なきだしちゃいたいくらいに、もう…)その

    冀う儘に——光が、まさに光がわたしを?

   部屋の(ただただ純白)中で

    流せ血を流せ

   彼女の肌を拭うための

    叩きつける

   タオルをわたしは兩(もろ)手に(もろに)もった(もろにてに)

    冀い、そして禮拜した人のように地に

   邪気も無く

    コンクリートの(——光が、まさにひか)麁い路面に

   向こう向いて

    流せ血を流せ。雨が

   あざ笑うように

    叩きつけ

   こっちみないで

    まだ(しぶといミミズ)生きてるの?

   充足(滿ち)して(盈チ足リ氐)

    死んでいく、(ぶった切ってもまだ死なぬ)足元の(しぶといミミズ)雪菜に

   兩脚、ひろげて

    雨が(…イノチよ)洗い流すその前に

   嘲弄じみて(叫ぶように)

    雪…

   お尻、(泣き叫んだ、その)つきだして(その聲のように!)

    その雪は、仰向けて、獨り死んでいく雪菜の

   わたしだけを赦し

    額の血にさえふれて

   手を附かないで

    流せ血を流せ流

   わたしだけを赦し

    溶ける

   なにゝも触れないで(…噛み締めた)

    あなたを、…と

   ゴックは(…咬みシめた)さゝやく

    わたしは思う、…雪

   もっと(…ぼくらのこどくを、ぼくらは)つきだして

    こんな日にも、…

   見たい?(…ざわめく百足)

    こんな日こそ?…雪

   私は笑った。喉の

    愛し続けていたように、(ふりつもる)心から

   喉の奥にだけ

    まるで(ゆき、それら)あなたをだけ、愛し

   眼差しに

    愛し続けていたように(ぼくらをつつみ)

   やさしく笑んで

    眼の下の(やがて)ほくろ

   眼差しに

    褐色の(まっしろなぼくらの)肌に

   彼女をだけいつくしむ

    それだけは(じゅんすいなあいじょうさえも)かろうじて自分の流した

   濡れた(したゝる)肌を

    血に染まらずに

   拭き取りもしないで

    がなせ(したゝった)血をがなせがなせ

   わたしは眼差しを

    孤絶した(したたる)ひとつの(ふるゆきは)ほくろ

   擬態させた

    あなたはもう、と

   まるで(したゝった)彼女に(いつまでもぼくらに)見蕩れたように

    死んでいく、…と(いつまでもぼくらに、ふるゆきは)

   彼女に見られる餘地もない

    …雪?(しろくて、そして、やさしいのだった)

   背後の目を

    雪の中に、息さえ(褐色の肌)白く

   まるで彼女に見蕩れたように

    すべては(あざやかに)白濁

   彼女の爲に

    まだ(汗ばんだ褐色)死なないの?

   幸福の?

    愛していたように、と

   彼女の心の幸福の?

    わたしは(なげかわしいほどに)思った、その

   まるで彼女に見蕩れたように

    十九歳の

   その美しい

    二十歳になったばかりの?

   美しすぎる裸身に

    雪よ、純な(なげかわしいほどに)思いを積もらせて

   眼差しさえ見蕩れさせ

    二月に?

   擬態した

    クリスマスに僕たちは雪菜の渋谷の部屋で遠くとも近くとも言えない神宮の森の翳りを見た

   その白い

    その道玄坂のバルコニーから(——それはただ、眞っ黒く沉んでいた)

   豊滿な肌を

    雪よ、その穢れもなき

   その

    あいしていると、いまさに彼女に僕は擬態した

   肉と骨

    わたしは思う

   骨格と筋肉

    雪菜を、むしろ殊更に

   贅肉ら細胞の集合を

    まだ死なないの?

   擬態させた

    裏切って見せたのように?

   美しく

    あなたは美しい

   夢のようにも

    雪の中に(…純白の)

   見蕩れるまでにも

    閉じよ、(色こそまさに)眼を

   美しかったものとして

    もはや

   擬態させた

    雪菜をなど

   見たいの?

    愛した記憶はなかった

   邪氣も無く

    いつでも

   見たいの?…わたしを

    なぜ?

   あざ笑うように

    雪菜が

   わたしを?

    わたしを愛した記憶などなかった

   充足して(ちたみりて)

    雪よ、(純白の、色こそまさに)白い…

   見たいの?

    なぜ?

   嘲弄じみて

    私はまるで(冷酷だった。ただ)殊更に彼女を

   なんで?

    痛み

   わたしだけを(…鳥たちは)赦し

    死んでいく雪菜に

   見たいの?(まず最初に目をついばむ)

    大口の久生にも?

   ゴックは(…死者に出会った時には)さゝやく

    死

   見たい?

    傷ついた肉體

   見てる。…と

    壞れた肉体

   わたしは云った

    そして心

   さゝやき聲で(——もっとやさしく)

    微笑むときでさえ、なぜ?

   見たい?(…もっと)

    痛み

   見てるよ。…と(——もっと、せめてやさしく)

    あからさまな痛みだけが私のまなざしのなかに息づかい

   わたしは云った

    めざめ

   なぐさめるようなさ(じゃ)ゝ(ざ)や(じゃ)き(ぐ)聲で

    目覺め続けて

   見てるの?

    雪よ…白い

   見てるよ。…と

    純白の雪よ

   わたしは云った

    表參道に

   かすかにふるえたさ(や)ゝ(や)や(や)き(い)聲で

    夜十二時に散步した。その日

   駄目だよ。

    ふたりのクリスマスに(——すでに存在しなかった青山アパート。覆い隠された廃墟。そこだけまさに眞黑の闇。)

   見てるよ。…と

    あなたを愛したことなどなかった

   わたしは云った。あえて

    なのになぜ?

   ふたゝび(なんども)なぐさめるような(なんども)さゝやき聲で(なんども)

    あなたはわたしを愛さなかった

   恥ずかしいよ

    なのになぜ?

   見てるよ。(なんどもあなたはわたしをなめた)…と

    そのまま見つめていても

   わたしは云った

    このまま降る雪の中に

   諫めるような、さゝやき聲で

    血まみれの

   なんで?

    失神した雪菜を(…もう、いいよ。)見詰めていても

   見てるよ。…と

    人って、こんなふうにも(…もう、)死ぬんだね…

   わたしは云った

    此の人の死んだことさえきづかないはずだ。だってもう

   たゞ、茫然として、口をついた、そんなささやき聲で

    僕はなにも(…もう、死んでもいいんだよ。)見ていない。…雪

   なんで、見てるの?

    雪よ…

   言って振り向きかけたゴックの尻をたゝく

    白い…

   ゴックの目がわたしを見ないうちに頸をおさえ

    雪って(…もう、いいよ。)食べられるよ

   わたしは向こうを向かせた

    あなたは自分を(…もう、)屠殺した

   ゴックは気付かなかった

    あなたは(…もう、いいよ。)自分をト殺した

   わたしのその刹那の暴力性に

    その魂さえ(…もう、)亡ぼせ

   ゴックはあくまで感じた

    わたしはまさに

   …おそらくは?

    まさにわたしは雪の中でひとり、むしろ自分こそが雪菜を殺し…すくなくとも死にまで追い詰め見上げれば樹木の枝に鳩

   恍惚と

    きづかないうちに(…一羽の鳩、身を固め、そして)弑殺していたのだと(目を閉じて…)

   見蕩れた者の無我夢中の

    嘆きの聲さえ

   狂乱

    わたしの

   みじかい

    うそのような嘆きの聲さえ

   ただ一瞬

    降る雪よ

   たゞひとつの擧動だけの

    褐色の肌に、汗をにじませた雪菜は

   見たいの?

    降る雪を

   ゴックは云った

    凍り付けば(あなたは)いい、…ぜんぶ

   その聲の

    なにもかも…

   終わらない間に

    南極で?

   私はタオルで

    軽蔑したような(あなたはたぶん、いま)流し目で(…救われた?)笑う(…いま?)

   ゴックの頭と顏を覆った