Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

老子のお話

2020.11.20 13:46

https://tukinoshizuku.jimdo.com/%E3%81%8A%E8%A9%B110-%E8%80%81%E5%AD%90/ 【老子のお話】 より

「上善如水」(じょうぜんみずのごとし)という言葉があります。知らない人は、白瀧酒造さんの日本酒の話?と思うかもしれません。水のように、あっさりしていて、なかなかおいしい日本酒です。この言葉は、老子(ろうし)という人の言葉です。

人間の理想的な生き方は、「水」のような生き方だという意味です。

「水」は、高い所から低い所へ、自然に逆らわず流れていきます。それが、善い生き方だということです。「無為自然」(むいしぜん)というのも老子の言葉です。人の手を加えず、あるがままに任せておくという意味です。

「柔能剛制」(じゅうよくごうをせいす)という言葉もあります。台風などで折れるのは堅い木で、柔らかくてしなやか木はなかなか折れません。柔らかいものの方が、硬いものより強いという意味です。

柔道は、この考え方から生まれました。

いろいろと老子の言葉はありますが、私が、一番、すごいと思う言葉は、「無用の用」(むようのよう)という言葉です。世の中で無用なものなどは何一つないという意味です。

人間は無用なものと、有用なものを分けようとします。綺麗なものの方が価値が上だと思い、汚いものは除こうとします。だけど、人間の判断で醜いものと綺麗なものを分けようとした時に分ける基準は何でしょう?

ある人が醜いと思っても、違う人は綺麗と思うかもしれない。前は嫌いだったかもしれないけど、好きになるかもしれない。あまり、分けない方がいいよということです。

整形手術なども、そういった表れでしょう。悪いと思っている部分を治すと、今度は他の部分が気になってきりがありません。潔癖症なども、そうでしょう。

神経質になりすぎると時間と労力を費やして、その上に満足する結果が得られなくて病んでしまいます。悪いものを無くそうとする考えに無理があります。

まったく、掃除をするなとは言いません。だけど、出来るだけ拘らずに自然のままがいいという事です。

芸術の世界でも、同じ事が言えます。幻想的な絵画も素敵です。美しい詩も、すばらしいと思います。

だけど、ありのままを描写した芸術も、なかなか味のある作品があります。

日本人が発見した、「わび・さび」の心です。「古池や蛙飛び込む水の音」

老子に影響を受けた、松尾芭蕉の俳句です。

古池や、蛙は、あまり綺麗な言葉じゃありません。

その、ありのままの自然を俳句にして、味のある芸術を完成させています。

詳しくは、境野勝悟「老荘思想に学ぶ人間学」という本が致知出版社からでています。

なかなか、いい本だと思いますのでおすすめです。

ちなみに、司馬遼太郎の「胡蝶の夢」という本も新潮文庫からでています。

胡蝶の夢とは、老子の弟子的な存在である荘子(そうじ)の言葉です。

荘周(荘子)は蝶になる夢を見た自分が夢から覚めて、人間である自分はひょっとしたら蝶が夢を見ているのではないかと考えて夢と現実が分からなくなるという話です。

荘子はどちらも自分の姿であってどちらが正しくて、どちらが間違っているかを詮索する事自体がナンセンスなんだと言います。

価値が等しい事を「斉」(せい)と呼び、全ての事象は同じ価値があるという「万物斉同」(ばんぶつせいどう)を唱えました。

夢も現実も同じ価値があり、蝶の時には蝶の姿を楽しんで、人間の時には人間の姿を楽しめばよく、自然をゆっくり眺めながら散歩の時間を楽しめばよいという「逍遥遊」(しょうようゆう)という言葉を残しています。

ご飯を食べる時も、寝る時も、生きている事に感謝し、それをゆっくりと楽しむ生き方です。

人間の感覚や意識を無くして万物と一体になり、そこに自分が座っている事すら忘れる感覚を「心斎坐忘」(しんさいざぼう)と呼びます。

大阪の心斎橋(しんさいばし)は幕府が伏見の町人であった岡田新三らが私費で架けた橋だそうで、岡田新三の号であった「心斎」からとったそうです。

心斎橋は夢と現実を結ぶ橋なのかもしれません。

司馬遼太郎の「胡蝶の夢」は幕末に蘭方医を学び日本の医学の発展を夢見た松本良順や、その弟子の島倉伊之助のお話ですが、少し、老荘思想が隠し味として出てきます。

天才的な語学の才能を持ちながら、他人への思いやりが少し欠如した島倉伊之助を、ひらひらと自由に舞う蝶のような人物として魅力的に描かれています。

老子と荘子を指して老荘思想(ろうそうしそう)と呼びます。

自然が好きになる思想です。