中国の選挙
黄 文葦
★「農村では正真正銘の選挙がある」
今、世界中の人々が、アメリカ大統領選挙に注目している。中国人も例外ではなく、興味津々に他国の選挙に注目している。中国では、民衆は国のリーダーを選挙で選ぶことができないけれども、実は、農村では正真正銘の選挙がある。
1988年6月1日、「中華人民共和国村民委員会組織法」が試行的に運用を開始し、その後、約60%の行政村で村民自治が実施された。1998年11月4日、「村民委員会組織法」が正式に公布された。「これは、民主主義の原則から市民行動へと歴史的に大きな飛躍をもたらし、中国の農村で「生産請負制」が施行されて以来、農村の政治生活における最大の変化を表している」と中国のマスコミが評価する。
「村民委員会組織法」が試行的に実施されて以来、中国の農村地域は3~4回の村委員会選挙を実施し、選挙の標準化と民主化が徐々に進んでいる。2018年12月29日、第13回全国人民代表大会常務委員会第7回会議は、「村民委員会組織法」の改正に関する決定を採決し、村委員会の任期は5年であり、期限に迫る際には適時に実施するべきである。村民投票による総選挙です。村民委員会は再選することができる。
2021年中国の農村では、村民居員会主任(村長)、村の共産党支部書記、婦人会長など特定職に巡って選挙を行う予定だ。村の共産党支部書記の立候補者の条件は三つ、18歳以上中国人、当地の戸籍あり、共産党員である。ほかの職には共産党員ではない人でも立候補できるのが、実際に当選者はほとんど党員である。
★「村の共産党支部書記の選挙」
村の共産党支部書記の選挙は党員投票で行う。党員が選挙証を持って、投票する。
ステップ1:ヘッドカウントと投票資格の確認 選挙会議の議長は、まず会議に出席した党員の数を数えなければならない。投票権を有する党員の5分の4以上が会議に出席した場合のみ、選挙会議を有効とし、そうでない場合は、その選挙会議を再開催する。
ステップ2:選挙方法の決定 正式投票前に、挙手による選挙方法を決定する。
ステップ3 党員全員の同意を得て、投票管理者を決定。
ステップ4 候補者のリストを正式公開。候補者の基本情報に提示する。
ステップ5 投票用紙の配布 選挙会議に出席している党員にのみ発行されるべきであり、余った投票用紙は封印される。
ステップ6: 投票用紙の記入
ステップ7: 投票用紙の投票と集計。投票管理者が投票箱を開け、その場で皆の前に集められた投票用紙を数える。一人一票を数えて記録し、支部委員会に選出された者の氏名を決定する。当選するためには、半数以上の票を得なければならない。
★「贈収賄は全く選挙しないよりはマシ」
農村にいる知人に村長選挙の事情を聞いてみた。 「私たちの村は小さな村で、村民は七、八百人で、数年前村長選挙を経験した。村全体が投票権を持っているので、非常に壮大なイベントになった」
「事前に、候補者は自ら各家庭を訪問し、いろんなことを承諾する。わが村はお金持ちではないので、選挙の数日前に、二人の候補者はそれぞれ村の二つのキオスクをチャーターして、村民がどちらかのキオスクへ行ってもある程度無料で食べたり飲んだりすることができる。さらに候補者が村人にたばこを配ったりする。ただし、村人が気に入らない候補者に対し、冷たく物を拒否した場合もある」
「村の路地には、セメントの道路を構築するために、一世帯あたり100元(約1500円)を出資してもらっていた。でも、村長は選挙で再任を望んでいたため、そのお金はまた村民に払い戻した」
「共産党支部書記選挙の中、お金配られたことがあるみたい。わが家の中党員がいない、選挙できないけれど、ほかの党員いる家庭は、候補者から5000元もらったと聞いた」
「隣の村の村長が選挙のために自身の財産を村に寄付し、村の建設に出資した。本来、村長がビジネスでよく儲けていた。村長になってから貧しくなった。毎回の選挙で村の人々は彼を選出する。しかし、彼の家族は、我慢できなくなって彼をやめさせた。彼はお金を払って村長になったという話も出た。いずれにしてもどんどん貧しくなっていく村長は立派だ」
「村の選挙で、贈収賄のスキャンダルがまだまだあるのが、贈収賄は全く選挙しないよりはマシ」というのは賛成だ。私たちは選挙権を持っていることを誇りに思う」
★「農民による民主化運動」
2005年7月、広東省は広州市、番禺区魚窩鎮の太石村が舞台の「農民の民主化運動」を発生した。一部の社会的影響力ある方や学者の関与、多数のマスコミの解説、地方自治体の武力行使などにより、広く世間に知られることとなった。 事件の経緯は以下の通り。
太石村が再開発を目的とした土地売却を行う。村に入るはずの土地売却益約1億元が行方不明に…村民委員会主任(村長)に汚職疑惑。村民の会計資料開示を村長は拒否。村民は村長罷免動議を決議。土地売買の経緯が明らかにならないままの土地収用に反対する農民が警官隊と衝突。
番禺区政府に村長改選要求を提出するも、区政府はあっさりと拒否。農民が区政府庁舎前に座り込んでハンストなどの抗議活動。翌日に警官隊がこれを一掃。農民は退却したもののこれに屈せず、署名運動を展開、1000名近い署名を集めた。
当時、太石村は深刻な財政問題を抱えており、村委員会は村民の信頼を失い、汚職が問われていた。残念ながら、地方政府は暴力をエスカレートさせ、数千人の警察官を出動させ、数十人の村人を逮捕したほか、村人を支援していた数人の人権活動家を逮捕した。 村民が自ら選挙管理委員を選出したが、その後、圧力で選出された委員は辞任し、村長罷免を支持していた署名者の中には署名を撤回した者もいたため、村長罷免は失敗に終わった。
「農村から都市を包囲する」という毛沢東の言葉を思い出した。毛沢東は政権を取るために、都市から農村に立脚点を移し、農民を主体とする長期の人民戦争を行い、力を増大させ、最終的に都市を占領し、全国的勝利を得るというものであった。現在、中国の選挙と民主化運動も農村からスタート、だんだん都市に迫っていく、と期待せざるを得ない。