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Basement Jaxxのルームメイト。音楽を焼き付ける写真家・雨宮透貴

2016.08.31 10:00

好きなことを仕事にできたらなぁなんて、小さい頃からずっと考えてる。 

でも、大人になったらそれなりに不安もついて回るよね。「『好き」だけで、食っていけるのか?」とか。本当はそんなの蹴っ飛ばしちゃいたいと思うし、蹴っ飛ばしてる人たちはかっこいいと思う。 

そんな「蹴っ飛ばしてる人」の展示を、MOUTAKUSANDA!!! magazineの編集長が見てきたって言うから、話を聞きたくなって本人にコンタクトをとった。

Basement jaxx (photo:Yukitaka Amemiya)


「2ヶ月フィリピンに英語合宿に行ってて。帰国したばかりなんですよ。あと1週間くらいでイギリスに移住するから、ちょうどいいタイミングでしたね」

 好きなミュージシャンに会いたくて写真家になった雨宮透貴。専門学校も行かず、撮影スタジオやカメラマンアシスタントの経験もないって聞いて、すこし驚いた。「好き」の一心で、独学でここまでできるのかって。




 —雨宮さんはBasement Jaxxのツアー写真とか、国内外のミュージシャンのポートレートや、ライブ写真を撮ってますよね。ずっとカメラマンになろうと思ってた?

 「実は最初はスタイリストになりたくて(笑)。上京して専門学校行って、1年くらいスタイリストのアシスタントをやってたんです。写真を始めたのは21歳。もともと、ミュージシャンと仕事をしたいっていうのが一番にあったんだけど、スタイリストより、カメラマンの方が自分の好きなミュージシャンに会えるんじゃないかなと思って」  

—シンプルにミュージシャンと仕事したかったっていうのが始まり?

 「そうそう、だから別に何でもよくてっていうと語弊があるけど……でもほんと直感だけで、やってダメだったらすぐやめようくらいに思ってた。けっこう軽い気持ちではじめたけど、人生変わっちゃいましたね」 

 —すごいフットワークの軽さですね。ものごとをガンガン進めていけるタイプ?

 「いやー、でもスタイリストを辞めた時は絶望して結構どん底までいっちゃって。当時は真剣にスタイリストになろうとしてたし、負けず嫌いだから『なるって決めたらなる』って考えてた。それなのに『やりたくないなぁ』ってなっちゃったからすごく落ち込んで。それから3ヶ月くらいは仕事もなにもせず、当時の彼女に『まったく働く気がしない、ごめん』って金借りて(笑)」

スパイスガールズ(photo:Yukitaka Amemiya)

 

—絵に描いたような(笑)。  

「ほんとね。その当時、中島らもにハマってて。あの人、薬局で売ってる咳止めシロップをガンガン飲んで、酩酊してたらしいんですよ。それで僕も咳止めを買って来て……」

—うわー危ないなー。咳止め薬を過剰摂取すると、意識がふわーっとなるっていうやつですよね。中島らもも、本の中で「トベるけどそれ以上にツラいからおすすめしない」みたいに書いてるけど…… 

「うん、絶対にヤメた方がいい(笑)。酩酊するというか、無になるんですよ。うんこ真っ白になるし、食欲もわかないし、いろんなことに対して全然やる気がおきない。で、仕事もしてないでしょ? そんなどん底の中でも、音楽だけはずっと聴いてたから、やっぱり音楽なんだと思ったな。ミュージシャンと関わって、ミュージシャンの中に自分も存在していたい、役割がほしいって考えはじめたんです」

 —でも、その「無の状態」からよく抜け出せましたね。 

「そう、それで『そろそろ外に出よう、まずい!』と思って、RISING SUN ROCK FESTIVALに行ったんですよ。そこでライブ写真を撮ってるカメラマンを見て、ピンときたんです。『写真は俺のやりたいことに近づくかもしれない、ひとつの選択肢として入れておこう』って。それでカメラを買って、咳止めもやめて(笑)」 

 —クリーンになって(笑)。 

「そこから、最初の2、3年はライブハウスでミュージシャンに声かけたり、バイト先の漫画喫茶で毎晩MySpaceっていうSNSを見ながら、『いいな』と思う人にメールして撮影をお願いしてました。ずっとそんな感じでアーティストを探しながらひたすら声かけて、もう7年くらいになりますね」

GOMA(photo:Yukitaka Amemiya)


 —ミュージシャンに声をかけ始めて、最初の転機は?

「ディジュリドゥ奏者のGOMAさんに『写真撮らせてください』ってメールを送ったんです。カメラを買って1ヶ月くらいの頃かな。その時はまだ手元に写真が全然なかったから、どういう写真を撮ってるかとかも見せられなかったんだけど……それでもGOMAさんは快く『いいよ』って返事をくれた。GOMAさんが撮らせてくれたことが自信にも繋がって、どんどん進んでいけた。あの「いいよ」が大きな流れを作ってくれましたね」


国内で多くのミュージシャンに声をかけ続けていた彼が、イギリスに移住するという。彼を海外に突き動かしたものは、ニューヨークでの出会いとひとつの確信だった。 


「ある音楽イベントの撮影チームに入るために1ヶ月くらいスケジュールおさえられたんですけど、ギリギリになって『バイリンガルしかチームに入れないことになった』って外されちゃって」 

—おお、急に。 

「そうなんですよ。1ヶ月スケジュール空いちゃったし、ムカついたから旅行にでも行こうと思って。それで、ニューヨークに行って向こうでもいろんなミュージシャンに声をかけて、写真撮って」

—日本と同じやり方を、NYでも。

 「昔から好きだったフランソワ・ケヴォーキアンのイベントで本人に声をかけたら仲良くなって、宣材写真とかを撮らせてもらったんです。彼を撮ったことで、海外でも活動できるんじゃないかって、確信めいたものを感じて」

フランソワ・ケヴォーキアン(photo:Yukitaka Amemiya)

 

—NYはどうだったんですか?

「NYに行って、視野が広がったんですよね。海外の面白さを知ったし、僕は『音楽好き』がベースで写真をやっているんだから、それを日本だけにとどめておくのはもったいないって。それから『海外に行きたい!』って周りの人に言いまくってたら、たまたま知り合いの人が『Basement Jaxx紹介してあげようか?』って」

 —ええ、そんな話あります!? 

「すごいですよね(笑)。ちょうど来日するタイミングだったのでライブの写真を撮らせてもらって、そこで本人に『なにかあればロンドンに行きたい』と伝えたんです。中心メンバーのフィリックス・バクストンから『映像も撮れる?』と聞かれて『撮れます』と。『編集できる?』『できます』『じゃあ、やることいろいろあるから来なよ』って言われて」

 —ライブで話した流れで、実際にロンドンまで行っちゃったんだ!

 「僕は当然家もないから、フィリックスの家に3、4ヶ月住ませてもらって」 

—その時は英語は喋れなかったってこと?

「ぜんぜん喋れない(笑)。単語とジェスチャーで、どうにかこうにかコミュニケーションをとってました。そんな状態で一緒にツアーをまわって、Basement Jaxxのメンバーやレーベルメイトの動画や写真を撮ったり」 

—一緒に暮らしながら、だもんね。Basement Jaxxの家で写真や動画の編集作業してたってことか(笑)。 

「レタッチしてる隣で、本人くつろいでたり(笑)。Basement Jaxx以外も、いろいろ撮りましたね。ノッティングヒルカーニバルっていうロンドンの大きなお祭りの写真を撮って、展示したり。もともとはレゲエのサウンドクラッシュから発展したお祭りで、大きいサウンドシステムを積んだトラックが街中を練り回るんです。渋谷から三茶くらいの範囲が、どこでも爆音状態で。住んでる人とか逃げ場ないしどうしてるんだろう?ってくらい」

ノッティングヒルカーニバル(photo:Yukitaka Amemiya)


 —リアル都市型フェスだ。  

「そうそう。その日は街に警察も結構出てるんですけど、みんな警察の前でマリファナとか吸ってるし」 

 —ははは。でもロンドンでも違法ですよね?

「なんか、その日はOKっぽくて。たぶんキリがないから、暴行事件とかじゃないと捕まえない、みたいな。実際、僕が会場についた瞬間に10対10くらいのケンカがはじまって。怖かったけど、まあ写真は撮りましたよね(笑)」

ノッティングヒルカーニバルで(photo:Yukitaka Amemiya)


 —そういう空気感も日本と違ってたまらないなぁ。ほかにイギリスではどんな人に出会ったんですか?

「フィリックスのスタジオに遊びに行ったらスパイス・ガールズがいて。気軽に撮らせてくれましたね。『ゆる!』って思った。あと、スケボーパークへ撮影に行ったらポール・ウェラーに遭遇して。声をかけたら撮らせてくれました」

 —世界的なミュージシャンが、そんなラフな感じなんだ。日本だと事務所だとか肖像権だとか、いろいろあるのに。 

「そうなんですよ。日本と全然違いますよね。それで、イギリス生活を経て日本に帰ってきた時に、むこうでちゃんと生活したいと思って。4ヶ月行っただけだと、ただの思い出で終わっちゃうと思ったから、移住することにしたんです」

ポール・ウェラー(photo:Yukitaka Amemiya)


 会いたい人に声をかける、好きなものを好きと言う。それってシンプルな分、すごいエネルギーに満ちあふれていると思う。そのエネルギーが連鎖して、今に繋がってるはず。彼も「言ってみるもんですね」と笑う。 


 —今、周りに積極的に言っていることは? 

「ケンドリック・ラマーを撮りたくて。いろんな人にめっちゃ『撮りたい』って言ってます。ロンドンで繋がれたらいいですね」

 —でも、「好き」だけでここまでやれるのがすごい。今もずっと「好き」が原動力?

 「やっぱり音楽が好きだから、いいミュージシャンを発見したら興奮するんです。その人が自分の写真になっていくと、もっと興奮する。そして、『好き』の気持ちの先には、撮ったミュージシャンに喜んでほしいっていう気持ちがあるんです」

ノッティングヒルカーニバル(photo:Yukitaka Amemiya)  

 

本当にうれしそうな顔で、そう話す。「好き」っていう気持ちを伝えるにはストレートな表現が一番強いと思う。そのストレートさを持った彼の写真はたまらなく、いい。  


「やっぱり現場がすごく好きなんです。自分がライブ空間に『居る』、好きなミュージシャンが目の前に『居る』、イギリスに『行く』とか、そういうことに興奮します。カメラがあればそうやって好きな場所に行ける」 

 —間近で大好きな音楽やミュージシャンを感じられて最高ですよね。

 「うん、もちろん写真を撮る喜びみたいなものはあるんですけど、音楽の現場感覚って、たまらないです。ライブの撮影は楽しいし大好きです。正直、仕事っていう感覚がほとんどないんです。贅沢ですよね、いつもチケット買ってたのに、お金もらって最前列(笑)。最高ですよ」

 —イギリスではどんなことに期待していますか?  

「好きなミュージシャンにどんどん声をかけて撮っていく。スタンスは変わらないけど、それが違う国の人ってだけでもすごく刺激的だし、言葉が全然通じなかった人たちと写真を通じてどんどん仲良くなって。そこにケンドリック・ラマーが現れたりしたら……そんなのすごくドキドキするじゃないですか」 


Yukitaka Amemiya Official Web Site  


text:Mame Kojima/小島マメ

portlait:Numata Manabu/沼田学