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みんなと一緒に修学旅行に行きたい!2年間原因不明の体調不良で学校に行けなかった男子中学生の願いを叶えるために共闘した症例!!

2020.11.26 15:36
初診 令和2年11月10日

■患者 中学三年生の男子。

■主訴 頭痛。

■現病歴 中学校に入学したくらいのタイミングで、現住所に引っ越してから原因不明の体調不良に襲われる。

最初に来たのが嘔吐。

これがしばらく続いて、治まったと思ったら次に頭痛に悩まされるようになる。

朝起きた瞬間から頭が痛くて布団から起きられない。

これが一日中続いて、夜の19時~20時になってようやく治まってくる。

なので、2年間学校に行けていない。


病院では起立性調節障害と診断され治療を受けるがいっこうによくならない。

他にもあちこち回ったが、どこに行ってよくならず、途方にくれたいたが、知り合いの紹介で、ウチを知り、来院に至った。

彼の望み

母親「子供の頃から野球をやっているのですが、頭痛のせいで大好きな野球もできないんです…。」

中野「そうだったんですか、よく来ていただきました。先ずは2年間毎日続いている頭痛を何とかして、これからのことはそれからゆっくり考えていきましょう。」と返すと、

A君「今月、修学旅行があるんです。僕どうしてもみんなと一緒に行きたいから、行けるように頭痛を治したいんです!」


えっ?


中野「…ちなみにいつなん、修学旅行は?」

A君「26日と27日です!」

タイムリミット二週間と3日

時間がないので、毎日治療に来るようにお願いした。

とはいえ、市街から来られているので送り迎えがいるのだが、家族の仕事の都合で来れない金曜日と、日曜日と祭日を除けば、治療できるのは実質10日10回。

この10回の治療で、2年間続く頭痛を何とかしなければならない。


まさか、間近に迫った修学旅行に行けるようになることが治療に来た理由だとは夢にも思っていなかったが、中学生にとって修学旅行はそれだけ特別なものである。

自分も同じ年の頃はきっとそうだったはずだ。

藁をもすがる思いで頼って来てくれたからには彼の望みを叶えてあげたい。

また、同じ子を持つ親として、病気のために学校はもちろん、大好きな野球もさせてあげられない母親の辛い気持ちも痛いほど分かる。


難題ではあるが、

「お母さん、諦めずにやるだけやってみましょう!A君、修学旅行行こーぜ!!」

ということで、診察を開始。

診察

■望診 太っているわけではないがガッシリしていて体格がいい。

聞けば小学生ですでに柵越えのホームランを放っていたのも納得できる。

色白で肌目が細かい(敏感だから治療のドーゼに気を付けなければならない)。


■聞診 声には艶がある(生気がある)。咳払いをよくする(気滞気逆)。


■問診 今は夜だから痛みは治まっている(毎回母親の仕事が終わってから送ってもらうので19時とか20時の来院のため、診療の時には頭痛はない。)。

ちなみに、頭痛はコメカミ>額で痛みが強い。


■切診 

●切経 頭痛がひどいコメカミ(胆経)と額(胃経)を触るとブヨブヨしてモワッとした熱感がある。

●腹診(日本はり医学会腹診) 肝腎虚、肺脾実、心平。

●脉診(日本はり医学会脉診)

◆脉状診 浮、数、実。

◆比較脉診 肝腎虚、肺脾実、心平。

■病症の経絡的弁別 起床時及び側頭部痛、咳払いは肝木経の変動。前額部痛は脾土経の変動。


■証決定 病証腹証脉証一貫性により肝虚証とした。

■適応側の判定 基礎理論を踏まえ未来弁証の結果、右から主たる変動経絡の生気を補うことにした。

■用鍼の選択 気に敏感な患者のため、全て刺さない鍼で治療することにした。

治療

■本治法 イトウメディカル社製中野てい鍼柳下モデル95㍉で、右太衝をツボから2~3㍉浮かした位置から翳して気至るまで補う。

検脉すると、左関上沈めて肝の脉位が充実したので、次に移る。

母経の左尺中沈めて腎の脉位も充実しているので、腎はとばす。

相剋する肺脾を診ると、右関上沈めて脾の脉位に邪気実が在るので、左右の脾経を切経して最も邪気実が客している左陰陵泉から地機にかけて、柳下圓鍼で瀉法。

検脉すると、脾の実が取れたので次に移る移る。

陽経を診ると、左関上浮かして胆の脉位に邪気実が浮いてきたので、左右の胆経を切経して最も邪気実が客している左懸鐘(絶骨・髄会)を同圓鍼で瀉法。


検脉すると胆の実が取れ、これで六部定位が整ったので本治法を終了して、補助療法に移る。

■補助療法

●宮脇奇経治療 宮脇奇経腹診®より、陽維脉と足陽明脉と診断。総穴に奇経テスターを貼るとお腹の反応が取れるのを確認し、右外関-左臨泣と右陥谷-右合谷に、主穴に20壮、従穴に12壮無熱灸で奇経灸。施灸後、金銀粒を貼付。


■標治法 イトウメディカル社製異種金属圓鍼チタン×アルミで、背部の阻滞を疏通。

■※止め鍼&セーブ鍼 中脘穴→非適応側の天枢→適応側の天枢→下腹部正中の最も虚した箇所に火曳きの鍼→百会左斜め2~3㍉後ろの陥凹部に補鍼。


※治療の最後に①止め鍼を行うと、ドーゼを過ごしたり、逆に足らなかったり等、適当でないのを調節してくれます。同様に②セーブ鍼を行うと、次回まで治療効果を保存してくれます。


■セルフケア 自宅で毎日朝昼晩と、奇経に※ドライヤー灸をするように指導。


1回目の治療を終える。


※下記リンクを参照してください。


治療2回目 11月11日

■経過 朝の頭痛は変化なし。

ただし、いつも夜まで続いていた痛みが夕方には治まったとのこと。


■診察診断 前回同様、右適応側の肝虚脾実証。


■治療 前回同様、本治法は右太衝の補法左陰陵泉の瀉法左懸鐘の瀉法

補助療法は宮脇奇経治療で、陽維脉と足陽明脉。

標治法は、異種金属圓鍼で阻滞疏通。


治療3~4回目 11月12日・14日

■経過 朝の頭痛は変化なし。引き続き夕方には頭痛は治まるようになった。


■診察診断 肝虚脾実証。


■治療 本治法、太衝補陰陵泉と懸鐘瀉。奇経、標治法同様。


治療5回目 11月17日

■経過 朝の頭痛は変化なし。16時過ぎに痛みが治まった。今までで一番早い。


■診察診断 肝虚心実証(七十五難)。


■治療 右太衝を補って検脉すると、脾実は大したことがない。同じく相剋の肺を確認するため、寸口同士を比較すると、逆に左寸口沈めて心の脉位に邪気実が触れる。未来弁証で確認したが、心を瀉した方が良いと出てくる。この脉経は難経七十五難肝虚心実証である(※下記図参照)。

つまり、肝を補って心または心包を瀉す病理状態である。

左右の心包経を切経して最も邪気実が客している左大陵で瀉法。

すると、右関上浮かして胃の脉位に邪気実が浮いてきたので左右の胃経を切経して最も邪気実が客している右豊隆に瀉法。


今回は、全て毫鍼で行った。

補法は銀鍼1寸3分1番、瀉法はコバルト鍼1寸3分2番を使用。

ちなみに、大陵、豊隆共に、虚性の邪と診て、大陵は堅に応ずる補中の瀉法、豊隆は枯に応ずる補中の瀉法で処置。

補助療法、標治法は共に同じ。


治療6回目 11月18日

■経過 朝の頭痛は変化なし。16時前に痛みが治まる。前回から僅かではあるが、今回も最短時間を更新。

また、新たに背中・胸・腕のかゆみ、鼻づまりを訴える。

かゆみの部位を確認すると、真っ赤な皮膚炎が広範囲に渡って点在している。

なるほど、確かに痒いわ!


■診察診断 腹証も脉証も腎虚証になっている。前回は主たる変動経絡を補った後に心実が出現したが、今回は始めから心の脉位にハッキリと荒々しい邪気実が触れる。

ようやく本体のお出ましである。

証は腎虚心実証、適応側は未来弁証では右と出ているが、念には念を入れて確認する。

左右の太谿を取穴して、どちらを取穴したときの方が鼻が通るかを一緒に確認。

検証結果は、右太谿を取穴したときの方が鼻が通る。

未来弁証の通りである。

また、前回は毫鍼を使用したが、刺鍼部位に違和感がしばらくあったとのことなので、やはり刺さない鍼に戻して治療を行うことにした。

■治療 

●本治法 右太谿を補う→検脉→腎充実→母経脉を確認→肺も出ている→肺をとばして→相剋経脉を確認→心に邪気実在り→左右の心包経を切経して最も邪気実が客している内関~間使にかけて瀉法→検脉→心実が取れる→陽経脉を確認→胆に邪が浮いてきた→左右の胆経を切経して最も邪気実が客している左懸鐘を瀉法→検脉→胆の邪が取れる→検脉→和緩を帯び六部定位が整う。


●標治法 背中・胸・腕の痒みと皮膚炎に対し、気分の熱と診て霊台で清熱。

霊台に塗香をひとつまみのせて、祓う気持ちでなくなるまで擦った。

●龍仙流神仙術 心神を鼓舞する必要があるので、言霊による方法を教えて一緒に行った。


治療7回目 11月19日

■経過 朝の頭痛は変化なし。がしかし、正午には治まったとのこと。本人も母親も、もちろん私もビックリした!

ここに来ての大幅な時間短縮の更新に、俄然希望が湧いてきた。

中野「A君、これひょっとしたらひょっとするで!頑張ろなp(^^)q」
A君「はい!」


■診察診断 脉状はやはり浮、数、実。比較脉診は腎肺虚、脾心実、肝平。腹証も同じで、証は腎虚心実証。

■治療 

●本治法 右太谿補左内関~間使瀉左懸鐘瀉

●補助療法 宮脇奇経治療 陽維脉(右外関-左臨泣)と足陽明脉(右陥谷-右合谷)。

●補助療法 刺絡鍼法

頭部のブヨブヨに対して思いって刺絡を敢行、三稜鍼で側頭部を左右数ヵ所乱切り。

手絞りで瘀血を出すと、「それメッチャ気持ちいいっす!」と言う。


●龍仙流神仙術で心神を鼓舞。


治療8回目 11月21日

■経過 起床直後からやはり頭痛が始まるが、何と10時30分に治まった。遂に午前中で治まるようになった。

嬉しすぎて、土曜日で学校も休みでチームメイトと一緒にグラウンドに行って野球をしたとのこと。少年野球のコーチをしているお父さんも一緒に来てやってくれたらしい。

中野「ホンマか~よかったなぁ🎵」
A君「メッチャ楽しかったす😆」

中野「修学旅行の集合時間は何時なん?」

A君「7時です。」


残り3時間30分、頭痛が治まる時間を短縮できたら修学旅行に行ける。


■診察診断 腎虚心実証。

■治療 前回同様。ただし、刺絡後どっと疲れたということなので、刺絡は行わず。やはり気に敏感な子だから功を焦ってはいけない。


治療9回目 11月24日

■経過 朝8時起床、頭痛はあったが、2時間後の10時に消失。

■診察診断 腎虚心実証。

■治療 本治法の選穴を経金穴の復溜に変更。以下同じ。


治療10回目 11月25日

■経過 

A君「先生、今朝起きてもあんまり痛くなかったんで、久しぶりに学校行ってきました😁✌」

中野「ホンマか!?凄いやん!!」
中野「お母さん、よかったですねー😊」
母親「ありがとうございます😂」
中野「ヨッシャ、これは絶対行けるで!初めの時にも言うたけど、修学旅行行こーぜ!なっ😉」
A君「ハイッ❗ホンマに行きたいっす❗❗」

診察診断

●腹診(日本はり医学会腹診) 腎肺虚、脾心実、肝平。

●脉診(日本はり医学会脉診)

◆脉状診 浮、数、実。

◆比較脉診 腎肺虚、脾心実、肝平。

■証決定 病証腹証脉証一貫性により腎虚証とした。

■適応側の判定 未来弁証により右。

■選穴 経金穴復溜

■用鍼 刺さない鍼。補法はてい鍼、瀉法は圓鍼。

治療

■本治法 てい鍼で右復溜を補う→検脉すると、腎も母経の肺も充実→相剋経脉を診ると、今回は相剋畏経の心実(微邪)がなく、相剋剋経の右関上沈めて脾の脉位に脾実(賊邪)が在るので、左右の脾経を切経して最も邪気実が客している左陰陵泉~地機にかけて連なって出ている実的所見に対して圓鍼で瀉法→検脉すると脾実が取れたので、陽経脉を確認→左関上浮かして胆の脉位に邪が浮いてきたので、左右の胆経を切経して最も邪気実が客している左懸鐘を同じく圓鍼で瀉法→検脉すると胆の邪が取れた→和緩を帯びた脉になり六部定位が整ったので本治法を終える。

■補助療法 宮脇奇経治療

宮脇奇経腹診®より陽維脉と足陽明と診断。右外関-左臨泣と右陥谷-右合谷に今回は無熱灸で奇経灸。壮数は主穴に20壮、従穴に12壮。

施灸後、主穴に金粒、従穴に銀粒を貼付。

■標治法 

●異種金属圓鍼トルネード鍼法。

●霊台に塗香。

■龍仙流神仙術 ※動画を参照してください。

■セルフケア 宿泊先のホテルで奇経に※ドライヤー灸をするように指導。

■止め鍼&セーブ鍼 最後にドーゼの調節と治療効果の保存をするために、中脘穴→非適応側の天枢→適応側の天枢→下腹部正中の最も虚した箇所に火曳きの鍼→百会左斜め2~3㍉後ろの陥凹部に補鍼。

11月28日土曜日
















A君「先生、無事行けました!メッチャ楽しかったっす😆」
中野「ホンマかー!よかったなぁ😂」


嬉しい報告に安堵しました。


26日当日は全く頭が痛くなく、集合時間に間に合い、陶芸、海鮮バーベキュー、遊園地、夜はみんなでワイワイガヤガヤ🎵朝まで語らい、翌朝も大丈夫で、船に乗って島に渡ったり、和歌山城、ホテルでテーブルマナーを習いながら昼食、あんなこともこんなことも尽きることなく、それはそれは嬉しそうに話してくれました😊

彼に頂いたお土産です⬇

こんなにお土産をもらって嬉しかったことは記憶にありません。

鍼灸には、


沈んだ希望を再び浮上させ壊れた夢を修復させる力があります


今回は彼に教えてもらいました。

頼ってくれて
信じてくれて
本当にありがとう

\(^o^)/

(了)


本症例の病因病理です。

頭痛とは、気逆です。

気が頭部に逆行して停滞した状態です。

その本体は「気滞」です。

気が滞ると自然発火して炎上します。

病的に発生した火なので、「火邪」とか「邪熱」としましす。

火熱の性は陽です。

陽とは、熱す・乾かす・発散する・積極的・変化しやすい・上昇・拡散を有する全ての事象です。

気滞によって発生した邪熱が上に昇って頭部に衝き上がると頭痛を発症します。


ポイントは朝にひどくなって夜に治まる点です。


朝は春に対応します。

昼は夏に対応します。

春夏の特徴は、温暖です。

つまり、朝陽が登り始め正午には最高点に達する朝昼は、陽が強くなる時間帯です。

邪熱の勢いも強まります。

その勢いにのって気逆が助長され頭痛がひどくなります。


夕方は秋に対応します。

夜は冬はに対応します。

秋冬の特徴は寒涼です。

陽が沈み辺りが暗くなる時間帯は、陰が強くなります。

陰とは、冷やす、潤す、引き締める、下降、収斂の性を有します。

邪熱が冷まされ、勢いが弱まり、頭痛が治まるのです。


また、気滞とはストレスです。

ストレスは気を伸びやかでなくします。

東洋医学では、気を伸びやかにする働きを「肝」とします。

ストレスによって気滞が生じ、気の運行が順調でなくなります。

これを肝鬱とか肝気鬱結とします。


先の火邪とくっけて「肝火」とします。

また、季節で言えば春、一日で言えば朝に肝気が活発になります。

なので、肝気➕火邪=肝火が燃え盛り、邪熱が炎上して頭痛を引き起こします。


肝火がのさばらしになるのは、それを統制する働きが狂っているからです。

この働きを「心」とします。


中国の古代の医学書である『霊枢』に「本神篇」という項目があります。

そこには次のように記されています。

「神に従い往来するのが魂」であると。

神とは心です。

魂とは肝です。

心神が正常であれば肝魂も正常ですよ、逆に心神が異常を起こせば肝魂もおかしくなりますよということです。


心神が狂ってしまっているから肝魂が主る肝火の暴挙をのさばらしにしてしまうのです。


心神が狂っているのは、腎精が弱っているからです。

腎精とは下焦(下半身)、正式には臍下丹田腎間の陽気という、特別な場所で、あらゆる万物を納める働きのことです。

俗にいう丹田はここに在ります。

別名下丹田とします。

刀でいう鞘です。

自然界でいえば海です。

腎精がしっかりしていれば、刀を鞘に納めるように精神を納めることができます。


心神は精神活動の中枢を担いますが、心神が精神活動を順調足らしめるためには、心血というエッセンスが要ります。

車でいうガソリンです。

この心血もまた、腎精の恩恵を受けてこそ作られるのです。


腎精は海でもあると述べました。

太陽に温められた海面は蒸発して水蒸気となり天に昇ります。

腎精もまた、昇って心血というエッセンスになります。


これを得て、心神は正常稼働することができます。

心神に従い肝魂が往来するならば、肝火が病的に暴れまわることはありません。


また、腎精が活動拠点とする、臍下丹田腎間の陽気という聖域は、精神を納める要所であり、生命力の根源的エネルギーを発動させる命の門としての任を負っています。


腎精が弱ると、引き締められない邪熱が上昇して頭痛となり、生命力を発動させる力が乏しくなるので朝が起きれなくなるのです。


肝虚脾実から腎虚心実に証が変わるにつれてよくなっていったのは、こうゆうことが考えられます。

経絡治療とは脉作りの臨床です。

経絡治療に出会えてよかったです。

少しでも参考になれば幸いです。