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A recollection with you

冬支度編

2021.01.31 16:31

今朝は忙しかった。

雨が降ったかと思えば、虹が出るわ、暖かくなるわ。

焚いていた暖炉の火を消して、閉めていた窓は開け放って、

部屋干ししていた布巾を外に出した。


それだけと言えばそれだけだけど、すっかり疲れてしまったので、

あとの準備は詩歩に任せることにした。


すっかり良い天気になった空を見て、カウンターで背伸びをする。


カランコロン


「いらっしゃいませ♪」

詩歩の声が、お店を明るくする。


入ってきた客が座ったのは、窓際の席。

それもそうか、と思う。


詩歩が注文をとっている間、僕は考え事に耽る。

大したことはない、なかったはずだった。


「…きさん」

「ん、ああ、ごめん」

「祐月さん!急に暖かくなったからって、ぼうっとしてちゃダメですよ〜」

「う、うん、」

「コスタリカお願いします」

「ん」


晴れた日には丁度良いチョイスだ、と独りごちるように豆を粗めに挽いた。


「お待たせしました、コスタリカです」

「どうも」


いろいろな返しをする人がいる。

一言で全てを判断するのは、とても失礼ではあるけれど、

あまり話したがる性格ではなさそうだ。


「ごゆっくりお過ごしください」

卓から離れようとしたときだった。


「マスター」

「はい」

「今日は変な天気でしたね」

「そうだね」

「まるで私みたい」


意図は分からない。

ただ、僕の予想が外れたことは確かなようだ。


「このところ、嫌な事が続いてて。元気出なくて。

 でも今朝になって、失くしたはずの自転車の鍵が見つかったり、

 虹が出てたから写真撮ってたら、疎遠だった友達が連絡くれて、

 すこしだけど話せるようになったり」

「うん」

「人生悪いことばっかりじゃないなって。ありきたりかも、ですけど」

「それに気付けることが、大事なことだよ」


そうですね、と彼女は笑ってから、口をつけた。



目の前のことで精一杯だと見えなかったものが、いつの間にか霧が晴れたように、

見えるようになってくる。

誰しもいつもそう思えないけど、気付ける人が1人でも増えてくれたらとささやかに願った。