月読命 (つくよみのみこと)
記紀には色々な神さまが出て参りますが、この神さまほど不思議で、謎が多くて、ですが一方でとても重要な神さまはいらっしゃいません。
筆者もとても気になっている神さまですが、ご縁あって、一昨年、伊勢神宮内宮月読宮にご参拝させて頂いて(これは中々分かっていても一人では行かれないのです。このときはお伊勢さまに精通されているかたにお連れ頂きました)、伊勢神宮にお伺いした際には必ず参拝させて頂いております(参拝に関してはまた別の記事で)。そして、参拝するごとに、この神さまへの興味が増しているのも事実です。
三貴子としてご誕生されましたが、姉アマテラスさま、弟スサノオさまのようにこの後、記紀でも出番がありませんので、先にご紹介させて頂きます。
まず、このツクヨミさまですが、男神だと言われていますが、そういう表記は一切ありません。
古事記での表記は、「三貴子の誕生」でもご紹介したように、イザナキさまの禊で右目を洗った際に誕生したことと、イザナキさまに「夜の国を治めよ」と言われたことの二つだけしか記述がありません。
一方、正史である日本書紀ではどうかというと、イザナギさまとイザナミさまの間に生まれたという話(三貴子とも)、また、右手に持った白銅鏡から成り出でたとする話もありますが、その程度です。
実は日本書記にはもうひとつ興味深い話が記されています。
それは、アマテラスさまから保食神(うけもち)と対面するよう命令を赴きますが、そこで保食神は饗応として口から飯を出したので、ツクヨミさまは「けがらわしい」と怒り、保食神を剣で刺し殺してしまいました。保食神の死体からは牛馬や蚕、稲などが生れ、これが穀物の起源となったのですが、アマテラスさまはツクヨミさまの凶行を知って「汝悪しき神なり」と怒り、それ以来、日と月とは一日一夜隔て離れて住むようになったと書かれておりますが、これは「日月分離」の神話、ひいては昼と夜の起源であるという解釈であります。ですが、古事記にはこの話はなく、スサノオさまとオオゲツヒメさまとのやりとりで似たような話に変わっています。
このことを見ても、「三貴子の存在とは?」にも書きましたように、太陽神と月神を一体としない選択を古事記がしていることは大変興味深いと思います。
また、ツクヨミさまは夜の国の支配ではなく、その名の通り「月読み」、つまり「月齢を数える」ということで「暦の神さま」、さらには「占いの神さま」ともいわれています。
更には「不老不死」信仰と結びつく、「死と再生を司どる神」として、(日本書記では)母神であるイザナミさまの元におられるという説もあります。
いずれにしても、三貴子であるにも関わらずあまりにも表記が少ないので色々学説や憶測があり、興味の尽きない神さまであることは事実です。